外伝・今日のシシルシさん4
「……最悪」
ベッドから上半身を起こしたシシルシは髪を掻き上げしかめっ面で呟いた。
彼女が起きたのに気付いたフェレが着替えを持ってやってくる。
不機嫌なシシルシを見て怯えていたが、シシルシは気にすることなく着替えを受け取りもぞもぞと着替えを始める。
「どうか、なさいましたか? 私が何か粗相しておりますか?」
「夢見が悪かったの……今更なんで……いえ、そういえば墓参りしてなかったか」
ぶつぶつと呟きながら、着替え終えたシシルシは鏡台前に座る。
フェレが後ろに付き髪を整えてくれるのを待ち、二人で食事が用意されている食堂へと向かう。
既に大悟やソルティアラは食事を終えているらしく、食堂に居たのはロバートたち魔族の面々しか居なかった。
「おはようございますシシルシ様。本日のミーティングを始めましょうか?」
「そうね。ではロバートから報告お願い」
一応、ルトバニアの兵士が食堂に待機しているのだが、魔族たちは全く気にすることなくその場でルトバニアで手に入れた情報を報告し合う。
兵士達も緊張の面持ちで奪われた情報を知ろうとやっきになっている。
その情報は全て魔国に既に報告されてしまっているのだから気が気ではないだろう。
「そうですね。いつも通り、寝屋事となりまして、伯爵の娘より不正横領をしている父とその知り合いについての情報をいただきました。あのような事をしている伯爵がのさばっているのによく国が続いていると不思議でありますな」
「私、モルガーナは冒険者ギルドに行ってまいりました。見てください、冒険者になっちゃいましたよ。スライムなのに!」
余程嬉しかったらしい。カードを見せびらかしながらうふふと微笑むモルガーナ。
冒険者連中と仲良く成り始めたと楽しげに告げる。
どうやら冒険者たちはモルガーナが魔族であると知りつつもその知性ある行動の御蔭で嫌悪ではなく好意で受け入れられたようだ。
「なかなか面白い情報が聞けましたですの。どうやら奴隷として売られたムーラン国民が何人もいるそうですわ。貴族の殿方が楽しげに教えて下さいましたの。深く聞いてみたところ、どうやらそういった闇商人が居るらしくて、私達も狙われているそうですわ。シシルシ様なら問題は無いかと思いますが、一人で居る時などは気を付けてくださいませ」
メデュパの話が終わるとガンキュが眼を光らせ映像を見せる。
本日は兵士たちの練習風景を見ていたようだ。
だが、ソレを見た食堂に待機していた兵士達が焦った顔をし始める。
「これ、普通の兵士の練習ではありませんね?」
「あ、見てください、これ、場所がお隣の国近くですの」
「んー。隣って言うとぉ。コーデクラとかいう国だっけ?」
「そう言えばあそこの国はここと仲が悪かったですな。魔族との戦いのせいで一時休戦になっていたはずです」
「ふーん。となると魔族と仮初めでも和平結んだから先にこっち片付けようってことなのかなぁ?」
「ふぇっふえ。しかもこの兵士たち、ムーラン国の兵を使っておるんじゃよ。そこの兵士どもが教えてくれよったわ」
ポェンティムがくっくと笑いながら告げる。
自分たちの思考を読まれたと気付いた兵士達が青い顔をさらに青くしていたが、シシルシたちは気にすることなく報告会を続ける。
「じゃぁあー、次はシシーね。あ、その前にフェレは何かある?」
「いえ。私はずっと部屋に籠っておりましたので」
「ん。じゃーね。あのね。はい、新しい報告書~。じゃっじゃーん」
どこからか入手した最新の報告書。
そこには先程ガンキュの映像にあったムーラン国兵の練兵や、コーデクラへの戦争準備を臭わせる輜重の動きなど、様々な事が報告されていた。
とても一人で調べられる量ではない。
さらに言えば兵士達の想いや思想まで報告に入っている。どう見ても実際に練兵した兵士が書いたとしか思えない文章もあった。
他にもとある貴族の不正疑惑や、下町に蔓延る裏組織の所在地なども記されている。
側で見ていた兵士達が覗き込もうと必死になるが、シシルシはさっさとしまうと、皆を見まわした。
「今日はね。ちょっと図書館に行って来ようと思うの。調べたい事が出来たから行ってくるね?」
「了解しました。私はその間寝ておきますね」
おいっ、と思わずロバートがツッコミ入れる。フェレは気にすることなくふっと笑みを浮かべてお辞儀をすると、早々に暇を告げる。
「では皆様、お先に失礼いたします」
「待てそこのサキュバス。貴様だけ報告も無く動きもなしか」
「私はシシルシ様のお付きですから。では失礼」
「……全く。同じ淫魔として恥ずかしい限りですな。申し訳ございませんシシルシ様」
「気にしてないよー。じゃ、今日も皆がんばってねー」
そして本日のミーティングが終わりを告げた。




