外伝・いつかのシシルシさん2
「地神烈破ッ!」
赤髪の男が気合い一撃、巨大な両手剣で敵を薙ぎ散らす。
真っ二つに引き裂かれたデスサイズベアが倒れるのを見て、シシルシは目を見開いていた。
「すっごーい。デスサイズベアってレベル400くらいだよね。うわぁ。赤いおぢちゃん強ーい」
「はっ。仮にも魔王討伐隊だっつの。この程度は楽勝だぜ。つかこの辺りは比較的弱い魔物が多いな。向こうの方なんざ1000レベルオーバーの魔物が闊歩してやがったぞ?」
「あー、あの辺りはディアリッチオ様の領地だから。あまり入らない方がいいよ? ディアリッチオ様に見つかったら木にされちゃうんだから」
「あー、恐い魔女か魔術師の噂みたいな奴魔族領にもあるんだな。まぁいいや。とりあえずあの周辺あるいてりゃ1000レベルオーバーの敵と闘えるから、次はそっちだ。シシルシのレベル今どれくらいだ?」
「えっとねー。300越えたよ。真名無効覚えた!」
「お。いい能力覚えたじゃねーか。あとは隠蔽系覚えられりゃ最強だな」
「レベリングって凄いねー。シシー戦ってもないのにレベル上がってる」
「まぁ、俺らも勇者が教えてくれなきゃ分からなかったんだがな。この技術のおかげで俺らは着実にレベルがあげられるっつー訳だ。人間の剣聖と呼ばれる存在とパーティー組んでレベル上げしたおかげで皆が一気に1000越えたからな。ありゃすごかった」
「ほぉー」
シシルシは感心したように呟きながら、一気に上がったレベルを確認する。
今までは5やら6やらでゴブリン一匹倒せる程度のレベルだった。
ソレが今やデスサイズベアを単独撃破可能な域に達している。
次のレベル1000オーバーと言われている魔物と闘えば、おそらくデスサイズベアすらも楽に倒せる存在になるだろう。
「っしゃ、イイのが居たぞ。バックホルンだ!」
牛のような生物を見付けて男がニヤリと笑みを浮かべた。
背後に流れるような巻角を持つ牛は、近づいて来る男に気付いて、逃げることはせず興奮したように後ろ足をたしんたしんと地面に打ち付け勢いを付ける。
弾丸を思わせる突撃。
男はソレとまともに喰らい……と見えるほどに接近されてから真上に飛び、回転しながら切りつける。丸ノコと化した男が地面に着地する時には、二つに分かたれたバックホルンが地面を滑るように息絶えた。
シシルシのレベルが猛烈な勢いで上がっていく。
レベルアップ音がけたたましいくらいに上がる。
レベルを確認すると、600にまで上がっていた。
「っし、もう一匹居るな、連続レベルアップだ! 今日中に1000越えるぜ!」
「なんか凄い勢いでレベル上がってるよぉ、あはは。何コレレベルってこんな楽に上がるんだ」
何もしていないのに上がっていくレベルに、ちょっと楽しくなってきたシシルシは、手頃な相手を探し、少し遠くにいたにっちゃうを見付ける。
シシルシに気付いて威嚇するように跳ねるにっちゃうに抱き付き、固定して。思い切り、パンチ。
ボグチャ、と潰れたにっちゃうで、自身の強化された肉体を確認する。
「うーん。ムッキムキにはなってないなぁ」
「そりゃそうだろ。俺だって戦いに意識を切り替えてねェ状態で刺されりゃ村人にだって殺されるっつの。どうもこの世界にはシステムってのがあるらしくて、戦闘状態になればレベル差が反映されるらしいんだが、通常時には一般人と変わらなくなっちまうらしい。だからレベル上げまくったからって浮かれんじゃねーぞガキ。つかにっちゃうイジメんな」
「はーい」
とりあえず頷いておき、シシルシは考える。
つまり、シシルシがやろうとすれば寝込みを襲うだけでこのレベル不詳の男を倒し、その経験値を手に入れられるのである。
まぁ、そんなことをするつもりはシシルシには全く無かったが。
「さて、レベル1000越えたら次の狩り場に移動だな。西の方にドラゴンの住む土地があるんだ。山だけどな。レベル2000越えがごろごろ居やがるからそこで俺ぐらいのレベルにしてやんぜ」
「ふーん。ちなみに赤いおぢちゃんってなんレベル?」
「俺か、8000だ。丁度切りよく8000だぜ。いいだろう。次に目指すのは8888だな」
何故それを目指したいのか理解は出来なかったシシルシだが、自分とのレベル差が凄過ぎて驚きを浮かべる。
「とりあえず、そろそろ夜になる。キャンプ張るぞキャンプ」
「キャンプ?」
「おう、ちょっと待ってな。今いい場所探すから」
「森以外は見晴らしのいい原っぱだよ?」
「うぐっ。と、とにかく探してくっから待ってろっつの」
「はーい」
しばらく待って、赤髪の男と共にキャンプ候補地に向う。
テントなどはないので完全な野宿だが、男は手慣れた様子で火を起こし、草原の中央で野営を始める。
シシルシはその周辺に適当に腰を降ろし、周囲を見回す。
男は警戒すらせずに寝転び、早々に寝息を立て始めた。




