魔王領慰問団11
メロニカは俺の目の前で青い顔で震えていた。
不正がバレたことに対する恐怖感がハンパないのは、サイモンの処刑を間近で見ていたからだろう。
もしかしたら自分も内臓を取られるんじゃないかと気が気でないようだ。
さすがに妹に入れ替わって自領で喰っちゃ寝してたらなぁ。
といっても流石に女の子相手にあんなことするのは、いろいろ問題があるような?
『お前からそんな良識的な思考がでてきたことに驚きだよ』
いや、悪であると認定すれば容赦はしないんだけどさ。妹が優秀で今まで何とかなってた訳じゃん。だったら俺が処刑とかする必要無いかなって、妹には謝らないとだろうけど、今日からしっかり働いてくれりゃ問題無いよ。
沙汰を待つ少女は哀れな程にプルプルと震えており、俺の横に佇むペリカの方が可哀想なモノを見る目で姉を見ているという、なんだろうこのざまぁ感。
まるで悪役令嬢の悪事がバレた断罪現場のようではないだろうか?
「さて、メロニカ」
「ひゃ、ひゃひっ!」
「其の方、妹に任務を任せ、自領に籠っていたそうだが、何をしていたか報告はしてくれるのかな?」
「あ、は、はい。それは。と、とても重要な任務がございまして、妹に交代して貰い、その、あの……」
「ソレが貴様の事実で、よいのだな?」
「あ、それは……その……」
怯えるメロニカの目が泳ぐ。その視線の先には、歪にくねった一本の木が映る。
天幕の中になぜか一本生えている謎の木が気になってしょうがないのだろう。
よくよく見れば見知った顔をしている気もするだろうしな。
「ああ、ソレが気になるか? ディアの怒りに触れたアウグルティースの成れの果てだ。水やらないと枯れるらしいんだ」
「ひぃぃっ!? すいませんっすいませんっ、妹に仕事を任せて家で寝てましたっ」
土下座しながら下がっていくという謎の行動するメロニカ。姉の動きが面白かったのかペリカが噴き出しそうになっている。噴き出すなよ。折角の厳粛っぽい空気が台無しになるから。
しかし、アウグルティースのことを教えただけでなぜ怯えるのだろう?
俺は別に何をする気も無く事実を教えただけなのに。
「では、サボりを認めると」
「お、お願いします、どうか、どうか酷いことはっ。お願いします。なんでもします。子を産めというなら喜んで孕みますっ、ですからどうか魔木化や内臓取りなどご無体な事はっ」
「そこまで怒ってはいないさ。こちらのことはペリカが居たことで混乱も起こっていないしな。これから精力的に頑張って貰えれば俺から何か言う事は無い」
「へ?」
俺の言葉に思わず顔を上げたメロニカは呆けた顔で俺を見た。
「あ、あの、本当に?」
「ペリカに感謝しろよ。お前の代わりにここを守って来たんだ」
「あ、ああ……ペリカ、ごめんね。役立たずなお姉ちゃんで、ごめんねぇ」
涙に鼻水、液体塗れで泣きだしたメロニカ。がペリカに擦り寄る。両手の翼で妹の翼を掴みぶんぶんと振りだす姉に、妹が凄い迷惑そうな顔をしているのが印象的だった。
「じゃ、じゃあ姉さん、ここのこと、これからお願いしても、いいですか?」
「当然よ。元々私の仕事だったし、魔将として、これからは誠心誠意働きます魔王陛下っ」
「よかろう。ではペリカは貰って行くぞ」
「はい?」
喜びから一転。俺の言葉に再び呆けた顔をするメロニカ。一人百面相でもしているんだろうか?
「あ、あの、ど、どういう?」
「だからペリカを貰って行くと言ったんだけど?」
「そ、そんなっ、お許しをっ、私ならば何をされてもっ、魔木化や内臓取り以外でしたら何でもいたしますっ、妹は、妹には何も罪はないんですっ、お許しをっ」
なぜか必死に俺に擦り寄ってくるメロニカさん。しっかし、本当にペリカとそっくりだな。微妙にメロニカの方が胸が大きいかなってくらいだろうか? あと眠そうな目をしてるのが違いになるくらいか。メロニカさん垂れ目だな。
「あ、あの姉さん。私、罰を受けるんじゃなくて、近衛部隊に引き抜かれるだけだよ?」
「……は?」
やはり勘違いしていたらしいメロニカがペリカと俺を何度も見回す。
「え? 近衛?」
「う、うん。実力を買っていただいたようで、直属の部隊に来ないかと。私も、その、姉さんがここに戻るなら仕事無くなっちゃうし、家でゆっくり過ごすよりはいいかなって」
いつの間にか妹が自分より重役になると知ったメロニカさんは未だに理解できないようで思考放棄したように「え? え?」を繰り返していた。その姿はまさに鳥といった様子だ。首を動かしながら虚空に向けて「え?」別の方向に向けて「え?」。思わず鳩かよ!? と叫びたくなった。
メロニカは無事魔将として復帰してくれるようでなにより。
俺はペリカを新たな従者に加え、北の戦地を後にするのだった。




