魔王領慰問団5
魔族兵が数人、森から走り出る。
森前で待っていた兵士達とバトンタッチして、追い掛けてきた魔物を誘導し始める。
おお、あれがデスサイズベアか。物凄い鋭い爪がまさにデスサイズだ。
威嚇の魔法で足止めしたり、誘導したり、時に回復したりしながら橋へと誘導。そのまま橋に追いだすようにして人族領にプレゼント。
丁度巨大なカマキリを撃破し、一息ついた人族の兵士たちは、新たに現れた魔物を見て悲鳴を上げる。
うわぁ、これは酷い。エンドレスで魔物との遭遇戦か。レベルは上がるかもしれないけどこれは危険だな。
「でも、これって向こうのレベル上げ手伝ってるのと一緒じゃない?」
「それに関してはレベルの上がった人族は率先して次に投入されますので、こちらは複数体を投入します。ほぼ確実に人族が敗北しますね。万一生き延びても次で、その次でと、今のところ英雄というべき強力個体は出現していません。候補は一人現れていますがね。最悪我々が参戦すればいい話ですし。魔物と協力すれば危険人物だけの排除は可能です」
「なるほど……」
折角レベルが上がってもそいつから率先して倒される。アイテムさえ奪ってしまえば復活もしないので人族のレベルアップも殆ど無い。
前線から遠ざけられて復活したとしても王国の兵士である以上率先して前線投入されて使い潰される。結果的に、レベル上げが行われること無く、兵士達は使い潰され、強力な力を手に入れ単体で魔物を撃破できる人材が育たず、戦線膠着となっている。
これって、向こうの王様の采配ミスだろ。
適度に強くなった人材を投入させて回復に下げてを繰り返した方が効率的なのにひたすら攻撃じゃ、いたずらに兵士が死ぬだけだぞ。
エルジーもそれに気付いたようで神妙な顔で俺の横に立っていた。
これ、かなり重要情報だよな。向こうに渡していいモノだろうか?
まぁ、最悪の場合ギュンターが出張るだろうし、ここの魔将たちも結構なレベルにはなってるはずだから問題は無いか。
「あ、ちなみにデスサイズベア等の強力個体は倒される前にこちらでトドメを差してますので致命的な経験値が向こうに入るのは稀ですね」
サイモンの言葉に矢鵺歌が成る程、と頷く。
その視線の先ではデスサイズベアが戦線に投入され、獅子奮迅の闘いを繰り広げている。
人族も慌てたように応戦するが、もはや戦線は一気に押し広げられて橋の向こう側まで押し込まれている。
「見てください、アレが向こうの奥の手。といっても前回の闘いでデスサイズベアを倒した人物ですが。ああ、倒したといってもトドメはこちらで刺して経験値はこちらの魔将が頂きました」
おお、結構強いぞ。なんだあのおっさん。
動きも素早いし、思い切りもいい。
しっかりとデスサイズベアの動きを見て懐に入って一撃。
デスサイズベアの悲鳴が轟く。
「伝令、次の魔物投入を」
「了解!」
サイモンの言葉に兵士が走り去っていく。
どうやらデスサイズベアが敗北するのを既に見抜いたようだ。
残りの四騎将も橋に向ってデスサイズベアを即座に倒せるように待機。
終わりだ。とばかりにおっさんが剣を振るった瞬間、デスサイズベアの首が背後から薙ぎ散らされた。
慌ててバックステップを行うおっさん。
デスサイズベアのアイテムが回収され、魔将とおっさんが少しの間対面する。
何かののしるように叫んでいたが、直ぐに次に投入された魔物の群れとの戦いになる。
デスサイズベアがいなくなればおっさんの存在理由がなくなったのか、後方に連れ出されるおっさん。兵士数人に捕獲され、連行? されながらも魔将たちに中指突き立てファッキンクソ野郎とか叫んでいる。
たぶんだけど、正々堂々闘いやがれとか言ってるんだろうな。
魔物の撃破を終えた四騎将が戻ってくる。
基本、雑魚魔物のトドメは部下の兵士が行っているらしい。頑張れ兵士達。
逐次投入される魔物全てが人族に向っていると言う訳ではないのだが、その辺りをサイモンが指揮して人族に向わせている。
ふむ。これはサイモン下手にここから移動させるのは避けるべきだな。
というか、今まで彼が離れる時はどうしてたんだろう?
聞いてみたところ。そういう時のために指示だけできる存在を数体教育済みなのだとか、まず優先すべき一人を決めて、そいつにも何かあれば次の人物。といった具合に四人程の予備がいるそうだ。
「全部を一人の人材にさせようとすると私くらいの才能が必要ですが、一つづつならば適任はいるのですよ」
などと宣うサイモン。自分の才能に自信があるのはいいけど、ちょっとイラッとくるな。
さて、戦闘については問題無さそうなので放置して、ここで行われている妖しい動きを探ってみるか。
どんなものが出てくるのか楽しみではあるな。
サイモンに真名命令して報告させてみようかな?




