魔王領慰問団4
「ここは?」
「北方の戦場だよ。北にある王国と戦争してるからさ、一度見ておこうと思って」
「……私が言うのもなんですが、見てよろしいので?」
エルジーが心底心配したような顔をする。
俺、もしかしてアホだと思われてないか?
まぁ、最前線にスパイをわざわざ案内して来てるんだからコイツが魔王で本当に大丈夫か? と思うよな。
「ラオルゥ、確か北は四騎将だっけ?」
「うむ。基本兵力はコボルトとトロール。ゴブリンとオークは少なめらしいぞ。あとはハウンドドック系とサイクロプス系が少々。海を隔てている唯一の橋をどちらが手に入れるかで未だ攻防を続けているはずだ。あそこを落とされると一気に雪崩込まれかねん状況だな」
背の低い男がメモ帳みたいなものに書き込みを始めた。おそらくラオルゥからの情報を報告用に纏めているのだろう。
こんなのでも情報になるのか? うーん、やっぱこいつ等連れて来ない方がよかったんだろうか?
まぁ、大丈夫だよな多分。
「これは魔王陛下。このような戦場にわざわざ来られたのですか!?」
魔将達がやってくる。
その中でも胃を押さえているのがサイモン君だ。内臓が無いぞう。状態を思い出したのか青い顔をしている。
(そういえば、若萌さんが妖しい動きがあるっていってましたよね?)
不意に、矢鵺歌が耳打ちして来る。
そういえばそんな事も言ってたな。こいつ等まだ俺の暗殺諦めてないってことか?
それとも何かあるのだろうか?
四人を見回してみると、皆が青い顔をしているのが分かる。全員やましい事に覚えあり、と。
「こ、このような場所までな、何の御用でございましょう、魔王様」
というか、全員俺を見て震えているんだけど、これは何か隠してるというより俺を恐れてるだけじゃねェの?
『そりゃそうだろ。サイモンに何したか忘れた訳じゃないだろ』
そういえばそうだったな。んじゃぁ見た目じゃ判断できないか。
さて、探っていくしかない訳だが、どの辺りから尋ねてみるか。
「最前線と聞いてましたが、戦闘の気配がありませんね?」
「そういえば。魔将が全員こっち来てるけど大丈夫なのか?」
天幕が幾つもある陣地には数十体の魔族がいるが、皆休息しているような様子だ。
戦に向うといった殺伐とした雰囲気が無い。
まさに休暇中の軍隊といった感じだ。
「はっ。最前線はあちらの橋になりますゆえ、この陣地内は安全地帯となっております。また東側はディアリッチオ様の領地に属する魔神の森がございます。あちらからの魔物が人族に雪崩れ込むようにサイモンが策を練っているため我が軍の損失が最小に抑えられているのです」
「我が軍が行うのは森の魔物を橋へと誘導して人間族に流すことだけです。デスサイズベアが釣れた日はもうお祭り騒ぎです」
そういえばディアの屋敷がこの近くに……ねぇよ!?
アイツの屋敷もっと南側じゃねぇか。あそこの街だろ!?
ってことはアイツの領地がここまで伸びてるってことか。というか、ここの森滅茶苦茶広くねェか? 中央付近に凄いデカイ樹があるし。なんか一つだけ突き出てて滅茶苦茶目立つぞ。
時折光ってるし。
「とりあえず、改めて自己紹介してくれ。こっちのはエルジー、それと……」
「ガロン」
「ガロン君らしい。人間族のスパイさんだ。そこらへん闊歩するけど気にせずいつも通りにしてくれ」
「スパイ!? スパイが堂々と情報収集するのを黙認せよというのですか!?」
驚いたのはサイモンだった。慌てて告げるが、そんな驚く事か?
「あれ? もしかして機密とかあったか? 魔族に知られて困る秘密とか無いと思ったけど」
俺の言葉に四人の魔族は互いに視線を交錯させる。
「流石に危険な秘密はございませんが、人族に知られて困るかどうかは向こうの判断次第となります。ですので情報の流出は極力抑えた方がよろしいかと」
代表するようにサイモンが告げる。
「いや、でもこっちが情報得て向こうが情報得てないというのもフェアじゃないだろ。報告じゃ既に機密情報貰ったと若萌が言ってたし」
「え?」
これい驚いたのはエルジー。まだ数日と経ってないのに自分たちより先に魔族側に機密が奪われたことに驚きを隠せなかったようだ。ガロン君も思わず大口を開けていた。
「あの、我が国の機密を……ですか?」
「ああ。なんかシシルシからこんなの貰った。と魔族領に送られてきたよ。特殊部隊から各国に侵入させている葦の数までかなりな重要機密だそうだ。少し前にディアから念話が届いた」
ディアの奴がいるだけで魔族の勝利って確定してんじゃないかな? 念話も可能ってどうなんだよ。
「なんてこと、直ぐに連絡を……」
「エルジーはここに」
焦るエルジーを窘め、ガロンが走り出す。
あー、これって結構彼らに取っちゃ緊急事態だったか。言うんじゃ無かったかな?




