外伝・今日のシシルシさん3
シシルシは暇を持て余していた。
室内にいるのはサキュバスのフェレだけだ。
一応シシルシの身の回りの世話をするはずなのだが、ベッドに寝っ転がって尻を掻いてアホ面晒して眠っている。
基本駄眠を貪る派のフェレは、一日20時間程眠り、シシルシが起きる時と寝る時だけ着替えなどを用意したりしてくれるぐらいだ。
シシルシとしてもやる事さえやってくれれば問題は無いので放置している。
しかし、暇している本日は話相手の一人でも欲しいモノである。
残念ながら今日は大悟も用事があるようで部屋から出てくる気配が無い。
ソルティアラのくぐもった声が聞こえるのだが、部屋に鍵がかかっているので入れないのだ。
シシルシが少し力を出せば入れることは入れるが、ただ気まずい雰囲気になるだけなので二人の居る部屋に入る気はない。
では、どう時間を潰すのか。
シシルシは城の探索を行う事を決定した。
顔に笑顔を張りつかせ、我が道を行くとばかりに行き交う人間には元気な挨拶を。
時折深淵の覗く視線を織り交ぜ、二度見する人族の反応を確かめながら、一つの部屋に向う。
そっと中を覗くと誰も居なかったので部屋に侵入。
謁見の間にやってきたシシルシは玉座に座ってぼすぼすと跳ねる。
長時間の座席に対応するように柔らかい素材を存分に使っているのだろう。座り心地が最高だ。
魔王城の玉座もこんな感じだったのだろうか? セイバーやギュンターに座らせてもらえば良かったと思う。
しばらく楽しんでいると、気配を感じた。
慌てて部屋から出ようとするが、気配が侵入して来るのが玉座の横合いだったため時間が無い。
仕方無く玉座の背後に潜んでなんとかやり過ごせないか。無謀な挑戦を行おうとした時だ。
ガコンッと玉座の背後が沈み、階段が現れる。
シシルシは迷うことなく階段に侵入すると、玉座の背後が壁に包まれ元に戻る。
階段の最上階でしばし息を潜める。
すると、気配がしていた誰かが二人、入ってきた。
「それで、連合からはなんと?」
「魔王領との和平を偽装する案に賛成と反対に別れ紛糾した。未だに数国が反発している。偽装であろうとも和平を結ぶべきではない。徹底抗戦だ。とな」
「ふむ。ではどこも真に和平を求めてはいないということですな」
「ふん。長年争っている相手だ。今更手を返す気などないということさ。この戦はどちらかが滅ぶまで終わらん。それより宰相。議会でムーラン国の処遇が決まった。平民は兵として各国に割り振られるので送る人材を表にでも纏めてくれ」
「了解いたしました。ああ。国王陛下、そのムーラン国王様が面会に来られるようですよ。娘の処遇について話がしたいそうです」
「奴隷堕ちしないだけマシだろうに? ウチの貴族に嫁入りさせてやるというのに何が気に喰わんのだ?」
「あの貴族、変態で有名ですよ国王陛下。容姿も最悪ですし」
「だから選んだのだ。ムーランはもう終わったということがまだ分かっておらんようだな」
その後、件のムーラン国王との会談が行われたのだが、謁見の間であったせいか、椅子に座る国王とその眼前で眼下に佇むムーラン国王という図での会談は、終始国王の優位で話が進んだ。
その話を聞いていると、ムーラン国王が可哀想、というかこの国王を屈辱で歪ませてやりたいという欲求がシシルシにムクムクと湧き上がった。
シシルシは階段を下りて走る。
どうやらここは王族の緊急脱出路になっているようだ。
地下道を走りまわり地図を頭に叩き込んでから王国外の脱出口から脱出。
急ぎムーラン国王のいる貴族街へと向かう。
行き交う貴族がシシルシを見て怪訝な顔をして来るが、気にせずムーラン国王に与えられた屋敷に突撃。
警護の兵士が止める暇も与えず屋敷に入り込んだシシルシは、商談を持ち掛けるのだった。
深夜、夜間警備として王の寝室前で立っていた二人の騎士は、就寝したはずの王がいる部屋から、扉が開かれるのに気付いてぎょっとした。
泣き腫らした眼の女が一人、肌蹴た衣装そのままに現れたのだ。
ソレがムーラン王国の王女であることは、謁見に付き従っていた兵士達の知るところであった。
二人の兵士と視線が合った彼女は、辛そうに涙ぐみ、そして走り去る。
何があったのか、二人は理由を察してしまった。
王女はそのままの恰好で城内を駆け抜け、複数の目撃者を作りながら玉座の間に入り忽然と姿を消したと言う。
後日、噂が一気に広まり、ムーラン国の王女がルトバニア王国の貴族に嫁ぐという話が突然断ち消え、代わりにルトバニア国王が密かに王女を夜な夜な手籠にしているという噂だけが城内ばかりか城下町にまで広まる噂として出回ったと言う。王たちが火消しに躍起になっているそうだ。
「なぁ、シシー、最近大人しいけど、何見てるんだ?」
「んー? 大悟ちゃんも見る? とある国の王様が別の国でスパイに探らせてる機密情報の報告書」
シシルシの手元に何故かルトバニアの最重要機密が書かれた報告書が毎日届くようになったのだが、誰が手渡しに来ているのか、他の誰にもわからなかった。




