魔王領慰問団3
「オウ、内密の話があるとか?」
翌日、俺はラオルゥを連れてトドロキの部屋にやってきた。
ラオルゥを連れて来たのはスパイ共が来てないことを確認して貰うためだ。
矢鵺歌はロアードに護衛を任せて来たので多分大丈夫だろう。
まさか魔王の俺はともかく勇者を暗殺しようとして来るとは思えないし。
「ああ。ここの警備態勢が余りにも杜撰過ぎるのが気になってな。いくら戦争は無いと言っても町内で犯罪などもあるだろう? 流石に警備兵ほぼ全員が軍人将棋などをしているのはどうかと思うぞ?」
「そ、それは……」
目を泳がせるトドロキ。仕方無いだろう、今まで平和過ぎたのだ。だからこそ、この西方は一番組しやすい急所と化してしまっている。
「いや、分かっているんだ。ここは平和な町だ。軍人など不要な程に。しかし、海に魔物が出現したりはするだろう? その辺りを迎撃するためにも少しは鍛錬をしておいた方がいいのではないか? アレでは高給取りだろう?」
「オウ、それは、なんとも……今までが今まででしたため少々遊ばせ過ぎたかもしれません」
脂汗を流し始めるトドロキ。
ちょっと可哀想になって来るな。だが、ここで切り上げる訳にはいかない。
「今回の慰問。確かに兵を鼓舞するために回っていることも確かだが、一緒に来ていた人族がいただろう?」
「はい。最初は驚きましたが魔王陛下が連れて来たのなら信用出来る人物かと」
「いや、アレは敵だと思ってくれ。魔族と人族を結ぶ和平の一環として交換留学者として受け入れた相手国のスパイだ」
「なっ!? そ、それでは……」
「つまりは魔族領の西側はあまりにも無防備で攻め落としやすいことが相手国に漏れることになった。そういう事だ。別に魔族領に機密は無いと思っていたが、流石にこれは捨て置けん」
「オウ!? で、では以後、下手をすればここも戦場に?」
「人族の判断次第だが、海路で襲いかかってくる可能性は出来たとみていい。もっとも、遠回りしてまでやってくる阿呆がいるかどうかだがな。そもそもが魔物の出現する海を渡って来ようという度量と運が無ければここまでは来れん。だが可能性がある以上はせめて本国から援軍が来るまでもたせられるくらいの力は必要だ」
「オウ、了解いたしました。すぐにでも全軍に通達を……」
慌てて頭を下げるトドロキ。いや、急がなくてもいいんだよ?
「阿呆。今から動きだしてどうする。まだエルジーどもはここにおるのだぞ? 始めるにしても一週間ほどは時間を開けた方がよかろ。あと急に戒めを行ったところで反発心だけが募るだろう。少しは考えてモノを喋れ」
ラオルゥに窘められてオウと叫ぶトドロキ。まったく意識すらしてなかったようだ。
……大丈夫だろうか?
治世に関しては彼はかなり優秀だろう。しかし、こういう事には余り頭が回らないらしい。
「そうだな。兵の練度についてはまた後日でもいい。とりあえず今は、港の防衛法だな。船で遠距離の敵に攻撃する方法はあるか?」
「オウ、矢を飛ばす巨大兵器がございます。しかし船に取りつけてある大型のモノですので持ち運びは……」
「ソレを港に数台作ればいい。船団が迫ろうとも陸から迎撃が出来るようになる。既にある技術の応用ならばそれ程時間はかからんだろ。あとは物見だけをしっかりとさせておけば練兵を無理に行わずともかなりな防衛になる。兵に訓練をさせるのは少しづつ慣らして行く方がいいだろう」
「オウッ。必ずやご期待に添えますよう」
できるなら鉄製の船を作らせたいところだが、俺の知識に作り方が無いのでどうにもならない。
出来るのはこのくらいだろう。
ラオルゥを見てみるが、他に意見は無いようだ。
「オウ、そう言えば、あの背の低い男の人族が各地で目撃されております。我が領の営みを探っていたようですが、放置していて良いのかと、報告が。放置していいと伝えましたが良かったでしょうか?」
「人族のスパイたちには好きなだけスパイ活動をしてもらう事にしている。機密な情報があるならば秘匿し続けろ。あと偽情報が奴らから出回る可能性がある。気を付けておけ」
「オウ。了解しました」
後は何かあったかな?
腕を組んで思考してみるが、今のところ彼に伝えることは……
「ああ、そうだ。フラージャのいた封印の間があっただろ」
「オウ、あの不可侵地区でございますな。それがなにか?」
「内部に封印されていたフラージャが死んだからな。あそこを有効活用できる手立てはないか考えておいてくれ」
「は?」
寝耳に水だとばかりに呆然とするトドロキ。
まぁ、フラジャイル・ヘルディガンドが既に死んでますと言われてもピンと来ないだろう。
ラオルゥに殺されたのであそこ何も無い空家になってるんだよな。誰か住まないかな?




