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魔王領慰問団2

 翌日、慰問団が出発した。

 団員は俺と矢鵺歌とラオルゥ。ついでにエルジーともう一人、小柄で手足の長い男だ。

 骸骨馬車で西領へと向かう。


 西方海将軍はセイウチみたいな気の良いおっさんだったはずだ。

 先触れは若萌が出しておいたそうで、向こうは歓待してくるかもしれないそうだ。

 別にそんな必要はないのだが。と思ったが、ギュンターから必要な事だと言われると、仕方無いと思わざるをえない。

 一応、人族のお客様もいるので歓待には参加した方がいいようだ。


「これから行く場所は最西なのですね。そこには何が?」


「港町だ。結構盛んらしいぞ」


 馬車の外から潮風が入り込む。

 もう間もなくです。と、今回は付いて来た護衛騎士のお兄さんが告げる。

 この人はロアード。もともとはギュンターの護衛騎士だったのだが、魔王の近衛兵なので、今は魔王になった俺を護衛する騎士である。


 港町は随分整備されていた。

 街人に話を聞くに、魔将が暇潰しに色々やってるせいで他の町よりも整備が整っているそうだ。

 道は石畳。港も作られ、船らしきものまで無数に存在している。

 流石に鉄の船はないが、木造船なら下手な豪華客船並みの巨大船が停まっていた。


「凄い……人族領でもここまでのモノは……」


 思わず漏らしたエルジーが慌てて口を噤む。

 隣にいたはずの男は早速消えていた。

 どうやらこの周辺の情報を探るために同行して来たらしい。

 放っておいてもしばらくしたら戻ってくると思われるので気にせず慰問に向う。

 というか、そもそも慰問ってなんだっけ? もう、むしろ暇つぶしに遊びに来たってことでよくないか?


「オウッ、これはこれは魔王様。ようこそお越しくださいましたな」


 魔将のいる屋敷に向うと、両手を広げてようこそっとばかりに歓迎ムードのおっさんが現れた。

 姿はセイウチとかトドを思わせる顔で、目が綺麗。

 時々オウッオウッと声をあげてるのがなんとも微笑ましくなるおっさんである。


「オウッ、西方海将軍、トドロキでございます」


 どうぞこちらへ。案内された場所は食堂で、まさに豪勢な食事がならび、歓待準備が整っているのを見せつけられた。

 ここまでされるとちょっと引く。小市民だぞ俺。

 席を引かれて案内される。

 一応、ここの主はトドロキのはずだが、何故俺が家主席に座らされるのだろう?


 どうぞどうぞ。とトドロキ自らお酌をしてくれるのはいいんだけど、俺、スーツ姿だから飲み食いできないからね。

 矢鵺歌とラオルゥにあげたいけど、これ、喰わない訳にはいかなそうだよなぁ。変身解くか?

 トドロキさんは全く悪意なく、俺が視線を向けるとどうしました? と、もきゅっと首を傾げる。


 中身良い年のおっさんのくせに愛らしさがあるのはどうなんだろう。

 ええい、そんなきらきらした目で見んな。

 なんかもう撫でまわしたくなるだろ。

 ゴマアザラシみたいな顔しやがって。


「いかが致しました? もしかしてお口に合いませんで?」


「いや、そうじゃなくてな……」


「トドロキよ、セイバーはその状態では食事ができんのだ。一応人族のお客がおられる場所で脱ぐ訳にもいかんしな。後で部屋にでも持っていってやると良い」


 ラオルゥに言われてようやく気付いたトドロキ、三歩ほど下がって綺麗な土下座を披露する。


「申し訳ありませんでした魔王陛下。知らぬこととはいえ、このような失態」


「いや、まぁ、気にすんな。後で食べさせてもらうよ。おいしそうだし」


「恐悦至極にございますっ!!」


 腰の低い奴だな。

 

「ところで、此度はどのような目的で?」


 土下座を終えたトドロキが不安げに聞いて来る。

 今まで慰問など一度も無かったのでなぜ直接訪れたのか理解できないのだろう。


「なぁに、慰問とは名ばかりの各地を遊び回るだけさ」


「と、言ってるから気軽にしていても問題は無いと思うわ」


 俺の言葉に矢鵺歌が被せる。

 本音を言えば不正してる奴がいないか直接見に来ただけ。なんだけど、流石にソレを言うといろいろ面倒になるので言わないでおく。


 しかし、漁業が盛んな御蔭か魚料理が多いな。

 流石に生魚を食べるような食文化は無いらしく、煮るか焼くかをした食材ばかりだ。

 寄生虫は怖いからな。

 というか、この世界にも寄生虫はいるんだろうか?

 ゾンビ化の危険も合わせて調べておいた方がいいな。


 前に居た世界みたいにゾンビパニックはもうこりごりだし。

 和やか。とはいいがたいがそれなりにゆったりとした会食を終え、俺達はこの屋敷で一晩泊ることになった。

 安全性を考えてなのか、俺の部屋にラオルゥと矢鵺歌がやって来たのだが、結局ベッドは二人に取られ、本日も床で寝る俺だった。


 ちなみに、今日も暗殺者さんは来ていたが、全く襲ってくる気配はなかった。

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