交換留学生
「ほぇ? え? シシーが行くの?」
「もろもろ考えた結果、一番頼りになりそうなのがシシルシなんだ」
「……はぁ? テメェ良いように褒めちぎって俺様を遠ざけようって魂胆じゃねェだろうなセイバー? その首捻子切ってほしいのか?」
うおぉっ!? あ、焦った。一瞬で声音が切り替わったから今の声がシシルシからでたんだと理解するまでかなりかかった。
そういえばコイツ、こっちの方が地だったな。
「い、一応、理論的に言うならば、相手が人族だから暗殺の可能性もあるし、真名を奪って操ろうとしてくる奴もいる。だからただの魔族を向かわせるのは難しい。真名を奪われる心配が無く暗殺の心配も無い存在となると限られる。魔将でならコルデラが適任だろうけど、彼女にはサキュバスやらインキュバスの指揮を頼んでる」
コルデラは結構働き者だから今抜けて貰うのはこっちが困るんだよな実際。それに、暗殺面では彼女だと不安になる。
そういう理由から魔将たちは却下。
「矢鵺歌や若萌を向かわせるのは魔族、という観点からして違うし、ギュンターやユクリを直接送り込むと大問題だ。一応、向こうで言うならば王族だからな。となると、交換留学出来そうなのは魔神の四人に絞られる訳だが、真名を奪われる可能性を考えるとルトラは止めた方がいい。俺が真名を握ったと言ってもディアみたいに真名を剥奪できる人族が居ないとも限らないからな」
その段階でルトラは強制的に外れる。
となれば残るはディアとラオルゥ、そしてシシルシだ。
「まぁ、ここまで絞れば分かると思うが、ディアとラオルゥが人間に遠慮して大人しく出来ると思うか? その点シシルシなら猫被りは得意だろ? 人間相手に表のシシルシを出しておけば人族内にも魔族との和平を求める存在が増える可能性が高い。シシルシが居たからこそ俺は交換留学を受けたんだ」
真摯に告げると、うっと気圧された顔をするシシルシ、少し顔が赤い気がするのは気のせいだろうか?
「はっ。ま、まぁディアちゃんやラオルゥちゃんが行くよりはシ、シシーのほうが上手くやれるかな。う、うん。赤いおぢちゃんのお願いだし、特別に聞いてあげちゃおうかな」
急にそっぽ向いてそんな事を告げるシシルシ。指と指をつんつんとくっつけたり離したりしながら、恥ずかしそうに告げる。
それ、本当に恥ずかしがってるの? それとも演技?
目が合った瞬間漆黒の瞳がニタァっと笑みに変わった。ああ、演技なのね。
「ねぇ、赤いおぢちゃん。シシーが行くのはいいけど、メイドみたいなの数人連れて行くんだよね? そんなこと言ってたの覚えてるよ? シシーだけじゃ不安?」
「いや、シシーと他のメンバーには別の役割を持ってもらおうと思う。相手もこの国をスパイしようとしてるんだ。だったらこっちも人族の情報を頂いても良いだろう? ギュンター、スパイに適した潜入向きの魔族をピックアップしてくれ。コルデラにも連絡して精交渉も可能な淫魔を二人程紹介してくれ。別にそういう事をして情報を得ろというわけじゃなく、人族に襲いかかられても後に引きずらない方がいいからって理由だから別に立候補者がいればそいつでもいい」
「了解した。こちらで数名見繕っておこう」
「基本、シシルシの身の回りの世話をするってことを念頭に頼む。男で優秀な魔族がいるなら執事としてなら連れて行けるから1人か2人までなら大丈夫だぞ」
俺の言葉に頷くギュンター。どうやら交換留学に関してはこのくらいで良さそうだ。
シシルシの許可も得たし、早速これからの事を詰めて行こう。
「んーでもなぁ、シシーが暇になった時ラオルゥちゃんとかルトラちゃんとか赤いおぢちゃんみたいに遊んでくれる人とか遊べる人とかいないのがなぁ……」
「……大悟と、遊んでやってくれ」
すまん。大悟。
俺の言葉に我が意を得たりとばかりに深淵の覗く笑みを深く浮かべるシシルシ様。
本当にいいの? といった確認の笑みに、俺は引きながらも頷く。
「うん。じゃー赤いおぢちゃんの許可がでたから大悟で遊ぶことにするね」
大悟と遊ぶではなく大悟で遊ぶというニュアンスの違いが何も知らない大悟のこれからを連想させて可哀想になった。
すまん大悟。本当にすまん。俺は魔神にお前を売り渡しちまったようだ。
後は、お前自身でなんとかしてくれ。勇者だからなんとかなるだろ?
シシーなら死んでも生き返してくれるよきっと。
どうでもいいことを思いながらギュンターと若萌の報告を聞くことにする俺。
既に大悟が被るだろう被害は頭の中からすっぽ抜け、内政で行わなければならない仕事の内容が脳内へと入って来るのだった。
しかし、こうやって聞いているとギュンターと若萌が優秀過ぎて俺ってやることなさそうだな。魔族領の慰問くらいしかする事無いぞ。本当に各地回ってくか?




