第八十二話「魔力結晶を求めて!」
最下層は幻想的な空間だった。
天井はキラキラと煌めくヒカリゴケによってエメラルド色に彩られ、俺達の正面には青く揺らめく地底湖が広がっていた。
その地底湖の水面より少し上空に真紅の輝きを発する結晶が、俺達の来訪を待っていたかのように浮いていた。
本来の魔力結晶は紫色なのだが……。
この魔力結晶は異彩を惜しむことなく放っていた。
「王子っ! これは凄いですよ! 魔力が凝縮し湖面で浄化されて真紅の輝きを放っているのです!」
世紀の大発見でもしたかのように、ドロシーの瞳が輝いている。
「わぁ……素敵な輝きですね、ルーシェ様」
メアリーは真紅の魔力結晶に魅入られ目が釘付けになっている。
「さっさと持ち帰りましょう」
ハリエットは地底湖の手前にある瓦礫の山に登ると、得意げな笑みを浮かべ髪を掻きあげると表情を緩ませる。
真紅の魔力結晶から計り知れない魔力をヒリヒリと感じる。
無限の魔力を持つ俺ですら、内包されるその魔力に圧倒された。
突如、クララがドロシーの頭上からハリエットの方へと飛び立つ。
「ピィーピィー」と、鳴くクララにハリエットが手を差し伸べようとした時、それは起こった。
「イヤアァァァ!!!」
ハリエットが踏む瓦礫の山が、起き上がるかのように動いたのだ。
突然のことにハリエットはバランスを崩し、地面へと転げ落ちた。
白いドレスがめくれ上がり、白いふとともを露わにしたハリエットが巨大な影を見上げる。
魔物だ。
しかし、俺の魔力探知に引っ掛からなかった。
ただの瓦礫の山だと思っていた。
だが、それは魔物だったのだ。
巨大だ。
人族の成人男性の身の丈の5倍は優にある。
巨石で造られた……巨人。
動く石像、ゴーレムだ。
ゴーレムの双眸が光った。
倒れ込んでるハリエットにゴーレムの剛腕が振り下ろされる。
その右腕は、俺が即座に放った岩砲弾で粉砕される。
「ちょっ……なんなのよっ! これっ!」
ハリエットが叫んだ時にはメアリーとドロシーも動いていた。
倒れ込んでるハリエットをメアリーが立ちあがらせる。
ゴーレムは痛みなど感じないと言わんばかりに、ハリエットとメアリー目がけ踏みつけようと膝をあげた。
俺は片膝を付き、地面に手を当てる。
氷の魔術だ!
地面を這うように、氷の柱がゴーレムを襲う。
ゴーレムは足をあげたまま瞬時に凍結。
だが、ほっとしたのも束の間、いとも簡単に氷にヒビが入った。
失ったはずの右腕も徐々に修復されていく。
メアリーとハリエットは、ゴーレムが凍結した隙に一定の距離を保っている。
ゴーレムの左手にメアリーとハリエット、右手にドロシーとクララ。
正面に俺だ。
またしてもゴーレムの双眸が怪しく光る。
この間、俺はこのゴーレムから一切の魔力を感じてない。
こいつは生物ではない。
無機質に命が吹き込まれている化け物か、機械だ。
しかも自動修復機能付きだ。
俺は右腕をあげた。
烈火に燃え盛る紅蓮の炎をイメージする。
超特大のお見舞する。
火球は瞬く間に巨大な火球へと成長する。
そして好都合なことに、ゴーレムのヘイトは俺にあるようだ。
地響きをあげながら俺に向って猛烈に突き進んでくる。
その距離、約10メートルほどか。
「ルーシェ様っ!」
「王子っ!」
「ルーシェリア!」
皆の声が俺に届いた。
その瞬間には火球を解き放っていた。
ゴーレムは紅蓮の炎に飲み込まれた。
誰もがそう思った。
だが、燃え盛る紅蓮の炎からゴーレムが平然と俺の前へと姿を現しす。
まさに魔神だ。
火球がまったく効いてない。
効いてないと言うよりむしろ、ゴーレムに吸収された。
そんな感じだ。
ドスンドスンと無機質な塊が接近してくる。
俺は一旦、空に非難。
流石に空までは追っては来れない。
ざまぁと思った矢先、ビームだ。
奴の双眸からビームが発射された。
俺は辛うじて、空中で身を捻りビームを避ける。
避けたビームが天井を貫いた。
恐るべき破壊力だ。
初めての経験だ。
土魔術、風と水の混合魔術の氷魔術、それに得意の火魔術までもが無効化された。
しかも、粉砕した奴の右腕は完全に修復されている。
「んもぅ、ルーシェリア! なに、チマチマやってるのよっ!」
ハリエットだ。
彼女は攻撃系の魔術は一切ない。
魔術というよりも神聖魔法だ。
神聖魔法は神の奇跡の魔法なのだ。
よって、回復系もしくは魔法防御系に尽きる。
「僕だって、こんなに手こずるとは思ってなかったんだよ!」
ゴーレムからまたもやビームが放たれた。
そのビームは避けずとも屈折し、天井を穿った。
ハリエットの魔法障壁がビームを屈折させたのだ。
「王子、かの邪神も4大元素の魔術は無効化したと竜王様より聞いてます! ゴーレムを翻弄するなら光もしくは闇属性が効果的なんです!」
と、ドロシーが叫ぶが、俺は4元素以外の魔術は使えない。
そもそも闇魔術は闇の種族の専売特許。
それはひとえに、ダークサイドに堕ちろということか?
光魔術も無論、俺には使えない。
ただのヒキニートの俺に、光は眩し過ぎたのだ。
そして、このメンバーには光と闇の魔術を使えるものがいない。
ドロシーが杖を光らしてるのは、正確には光魔術ではなく、杖を魔道具として媒体にした付与魔術なのだ。
なら電撃系ならどうだろう。
奴の体内が機械ならば、電撃でショートさせることも可能なはずだ。
「ルーシェ様っ!」
メアリーが銀の短剣を抜き放ち心配そうに叫んだ。
「心配無用だよメアリー、次の魔法でかたをつけるよ」
ビームを放つには一定の溜め時間が必要そうで、連射はできないようだ。
俺は意を決し、空洞に雷雲を発生させた。
もし奴の体内が機械ならば、その電子回路を粉砕してやる!
稲妻をゴーレムに脳天へ直撃させた。
ゴーレムは「プシュー」と、煙をあげると機能停止した。
奴の紅い双眸から光が途絶えた。
「ふう……」、これが効かなかったら正直な話、どうしようかと思ったぜ……。
「やったわねっ! ルーシェリア! さすがだわ!」
「王子、グッジョブでなのです!」
「ルーシェ様、お怪我はありませんか?」
ふわっと地面に着地した俺に3人が駆け寄ってきた。
結果、邪神と戦う前の予行演習のようなもんだ。
『キノウシュウフクチュウ、サイキドウジュンビニ、イコウシマス』
全員がギョッとした。
煙をあげて機能停止したゴーレムの双眸が点滅している。
ちょ、マジかよ……。
勘弁してくれよ……。
『サイキドウマデ、ノコリジカン、18ビョウ』
俺は背にある剣を抜いた。
ユーグリットの国王ベオウルフから預かってる名剣だ。
「ドロシーこの剣に付与できる魔術はあるか?」
「はい、なのです!」
俺の握る隼の剣が光を帯びた。
「剣の硬度が上昇する付与魔術ですよ、王子!」
「僕がこれから何をするのか、わかってるんだね!」
「もちろんですよ!」
14秒…………13秒…………12秒…………時がカウントされる。
俺は風魔術で疾風の如き勢いで地を蹴り空を駆け、ゴーレムの胸に隼の剣を突き刺す!
「接近戦は無茶よ! ルーシェリア!」
「ルーシェ様、いくらなんでも無謀すぎます!」
メアリーとハリエットが飛び出しそうになったのを、ドロシーが制止してくれた。
「サンキュウ、ドロシー! 無茶かどうかはやってみなきゃ、わからないさ」
ドロシーの物質強化の付与でゴーレムの硬い装甲を貫いた。
これならいけそうだ!
本来は、剣を通し内部に電撃を送り込みたいところだが、俺の電撃魔術は雷雲からしか撃ち放つことしかできない。
ならば、高熱を送りこんでやるまでよ!
無限の魔力を増幅させ、爆発的に火魔術を一気に奴の体内へと流し込む。
石でできた奴の身体が熱で赤く変色し、膨張した。
頃合いだな……。
俺は剣を引きぬくと同時にハリエットに叫んだ。
「魔法障壁だ!」
風のように舞い戻った俺を包みこむように前方に障壁が完成した。
その直後、ゴーレムが大爆発した。
衝撃で天井からパラパラと砕け散った破片が落ちてくる。
クララが「クピィー」と、鳴いてドロシーの頭に止まった。
「ふう……今度こそ終わったよな?」
跡形もなく木端微塵だ。
これで復活するようなら手の打ちどころがない。
残る手段は逃げるだけだが、ゴーレムの破片の中にあったコアを破壊したようだった。
完全勝利だ。
「ありがたく、魔力結晶を頂いて帰るとするか……」
3人が俺に抱きついた。
湖面を滑るように移動し、魔力結晶を手に取った。
握った瞬間、力が漲ってくるかのようだ。
サイズはゴルフボール程度だが、遠目からは放つ光で大きくも見えていた。
ゴーレムはこの赤石を守護するガーディアンであったのだろう。
ここから魔力結晶を持ち帰っても、また新たなものがここで結晶化する。
しかも湖面が魔素の毒素を抜いて、純粋な魔力結晶となってるとのことだ。
流石に300歳以上、生きているドロシー。
ドジでおっちょこちょいだが、色んなことを知っている。
湖面の奥には魔法陣があった。
乗ると自動的に起動するようだ。
1階層~78階層、飛んで最下層まで自由に行き来できるようになったようだ。
一旦、78階層で桐野祐樹達に目的達成を伝え、俺達は1階層へと戻るのであった。




