第七十一話「一万二千年前」
俺は精神年齢30歳のミッドガル王国の王子。
今は8歳で、元ブサメンヒキニートのナイスガイだ。
初恋で撃沈し、『告白魔』たる不名誉なあだ名をつけられ、それをきっかけに部屋へと引き籠った。
親孝行する間もなく両親は交通事故で他界。
それからは孤独と絶望との戦いの人生であった。
失った過去は取り戻せない。
否。
「俺は不可能を可能に変える男だ」
などとカッコイイ事を言ってみたが、全てはタイムマシーンがあるからである。
タイムマシーンを使えば連続する時間軸を旅することができる。
その連続した時間軸には、俺が過去に殺した同級生が生きている時間もある。
過去に戻れば、俺に殺された同級生を俺が俺から救ってやることも可能だ。
だからと言って、この世界で既に死んだ彼らが生き返ることはない。
彼らが死ななかった場合の別の未来が作られるだけだ。
では、この世界で死んだはずの彼らを、この世界に連れてくると、どうなるのだろうか?
もし、それが可能なら奇妙な状況が生まれるのでは、ないのだろうか。
かつて未来からきたドロシーは俺に言っていた。
『俺が生きてる未来が一つぐらいあってもいいと』
つまり、俺がこの世界で召喚勇者に殺されなかったとしても、未来から来たドロシーの世界の俺はやはり死んだままだと思う。
それは未来からきたドロシーにとって、状況は一切好転していないことを意味する。
俺を連れて帰りたいと思わなかったのか?
それとも、連れ帰ることは不可能なのだろうか。
それを確かめるには俺自身がタイムマシーンを使ってみる必要がある。
◆◆◆
『主よ、クララとともに待っておるぞ』
クララとは、花咲く氷の女王の卵から産まれた、ホワイトドラゴンにドロシーがつけた名前だ。
クララはドラちゃんの娘でもある。
ドラちゃんはクララを鼻の上に乗せては可愛がっている。
クララもドラちゃんが父親だとわかるのだろう。
とても微笑ましい光景だった。
俺はドロシーと二人で、竜王城へと足を運んだ。
久しぶりに会う、竜王様は前よりも随分と元気になっていた。
「竜王様、お久しぶりでございます」
「お父様、お元気そうでなによりなのです!」
ドロシーにとって、竜王様は父親同然だ。
竜王様にとっても、ドロシーがたったひとりの家族なのである。
俺がドロシーと結ばれたら竜王様は必然、俺の伯父となる訳だ。
ならば、竜王様は俺にとっても家族同然である。
「王子よ、今日はどういった用件で参ったのじゃ?」
バケツ? いや、あのロボットに用事がある。
「竜王様、ここにヘンテコなロボットがいますよね?」
「はて? ロボットとは如何なるものか?」
眉間にしわを寄せる竜王様に、ドロシーが補足してくれた。
「アールフォーのことですよ、お父様」
ロボットにはアールフォーって名前があるようだ。
「あ、そうです、そのアールフォーに用事があるんです」
「その辺、ウロウロしてるじゃろ、探してみるとよいぞ」
どうやら勝手に動き回ってるようだった。
しかし、あのロボ。
どうして俺にあんな映像を見せたのだろう。
竜王様もドロシーも、あの映像を見たことはないそうだ。
「んじゃ、適当に探してきます。竜王様、ありがとうございます!」
俺とドロシーは城内を探し回った。
アールフォーは直ぐに見つかる。
竜王城の通路の一角で、城の補修工事をしているようだった。
「お前、アールフォーって言うんだな」
話しかけると、首がグインと回転し、カメラのレンズのような目を俺に向けた。
ロボットと意志の疎通ができるのか。
わからないけど、話しかけてみる。
「この前の映像のをもう一度見せてくれないか?」
「アールフォー、お願いなのです!」
ドロシーも頼んでくれた。
ピポパポと、電子音が鳴ると前回見た映像と同じものが流れた。
今度は画面全体を慎重に注視する。
前回はミリタリー装備で固める結城孝生こと伝説の六英雄に気を取られ、背景を見ていなかった。
その背景に何かしらのヒントが隠されてるやもしれない。
市街戦でもあったのだろうか。
コンクリートで建造されたと考えられる、建物が崩壊していた。
空爆でも受けたのだろう。
建造物はどこぞの大型ショッピングモールのようだった。
……あっ! あの朱色の看板は見たことがあるぞ!
俺も買い物に足を運んだことがある。
たしかラテン語で永遠を意味する名のショッピングセンターだ。
と、なると……。
俺が過去生きていた時代とそう遠くない時代だ。
もしや、これが第三次世界大戦なのか?
白鳥渚が眠る石碑に、大きな戦争があったと記されてもいた。
なら、このロボット。
俺が過去に生きていた同時代から存在してることになる。
こいつなら、わかるはずだ。
映像は前回、ブチっと切れたところまで差しかかった。
でもまだ続きがあるような気がする。
映像が激しく揺れる。
結城孝生が走りだした。
映像が揺れているのは、アールフォーが彼を追いながら撮影しているからだろう。
そして俺は目を疑った。
彼らは一体、何と戦ってるのだ?
――――彼らが戦ってる相手は人間ではなかった。
異形の存在だ。
とても形容しがたい。
形容しがたいが、一言で言うなれば、この世界では見慣れた存在だ。
俺は魔法都市エンディミオンで、解き放たれた歴史を垣間見た。
無論、人類のルーツまでは解き明かせなかったが。
少なくとも、遙か遠い人類の歴史を知ったと感じ得た。
進化論と創造論。
そのどちらとも言えなかった。
宇宙からの移民族。
地球では、それが最古の人類であったからだ。
真の意味で人類のルーツを探究するなら、それは地球の外を追い求めねばならない。
そう考えざるを得なかったのだ。
俺が生きた過去の時代。
『メガラニカ』の時代と書き記されていた。
つまり、魔法文明よりも科学の文明が凌駕してた時代と言うことだ。
今、俺が生きてる時代は、そうではない。
科学は衰退し、どちらかと言うと、魔法文明が勝っている。
『レムリア』の時代なのだ。
ユーグリットからの帰り道。
俺は、とある事をシャーロットに尋ねた。
『魔神戦争で、戦った邪神ってどんな姿だったの?』
『なんて答えたらいいのかしらねぇ……口じゃとても説明しにくいのよ』
『そうなの?』
『鋼の肉体を持ってたのよ』
『鋼の肉体?』
『そうよ、魔法の大半が無効化されるし、刃も受け付けない存在ね』
邪神はよっぽど鍛え抜いた肉体でも持っていたのか?
それとも、SFにありがちなパターンで、マザーコンピュターが暴走し、機械が人を襲ってるとか、そんな風に考えていた。
だが――――
結城孝生が戦ってる相手は、機械じみたモノではなかった。
どちらかと言えば生物だ。
生物と言うよりも魔物だった。
そう……今、俺が生きている、この時代に存在している、ごくごく普通の魔物なのだ。
それはゴブリンでもありオークでもある。
他にも様々な魔物がいるようだが。
頭が混乱してきたので、一度、頭の中を整理してみた。
俺がブサメンで生きてきた過去の時代は『メガラニカ』で、科学文明。
その科学文明を滅ぼしたのが、賢者率いる『レムリア』勢力。
そして俺が今、生きてる時代は、明らかに『レムリア』だ。
魔法文明が科学を凌駕しているからだ。
そう考えると、俺はその『レムリア』の猛攻があったブサメン時代。
既に、エミリーの胎内で眠っいたことになる。
複雑な気分だ。
それもそうだ……・
俺がこよなく愛してやまなかったPCやエロゲーは、『メガラニカ』の時代なればこそのモノだからだ。
……ってことは?
次の魔神戦争で俺達が負ければ、また『メガラニカ』の時代が訪れるってことじゃないか。
そうなればまた、PCやゲームを満喫できるってことなのか?
俺は自分の浅はかな考えを戒めるように、首をふるふると振った。
そして物想いに耽ってる俺にドロシーが遠慮がちに尋ねてきた。
「王子、何かわかりましたか?」
「なんとなくね……でも、肝心なことが、わからないだよね」
結城孝生がマシンガンでゴブリンを蹴散らし終わったところで、映像は切れた。
「このアールフォーが僕達に見せた時代って、いつ頃なんだろうね?」
「アールフォーに聞いてみるのです」
「えっ!? ドロシーは、アールフォーと話せるの?」
「もちろんですよ、長い付き合いなんですもん」
そうだった……。
ドロシーの中学生みたいな容姿と、子どもぽい口調で、すっかり忘れてた。
彼女は300歳を超えてるんだった……。
アールフォーとも300年来のお付き合いなんだろう。
「王子、わかりましたよ」
「え、本当?」
「はい、1万2千9百89年と2カ月に11時間37分32秒らしいのです」
どんだけ、こまかいの……。
ヤレヤレと思った。
1万2千年前って、寝過ぎだろ、俺っ!
それだけの過去に戻るには、どれほどの魔力結晶が必要なんだろうか。
こりゃあ……骨が折れそうだ……。
しかし、過去から召喚された勇者達がいるんだ。
不可能ではないと彼らの存在が、証明している。
俺達はアールフォーに礼を伝え、竜王様と挨拶を交わし、なるはやに帰宅した。




