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第七十話「紅の魔女っ子」

「おかえりなさいっ! ルーシェリア!」


 ユーグリットへ帰還すると、真っ先にハリエットが飛びついてきた。

 なんてゆーか、上品で高級感溢れる香りがする。

 

「ルーシェリア、どこか怪我したんじゃないの?」

「ちょ、ちょっと痛かったかな……」


 プレゼントで貰ったクリスタルは、ハリエットとどこか、繋がってたようだ。

 俺が負傷したことはハリエットの知るところだった。

 メアリーが申し訳なさそうに周囲に事情を話す。

 ハリエットの表情は、みるみると蒼白なる。

 そしてハリエットは、容赦なくメアリーを睨みつけた。

 う~ん、なんだかやりにくいなぁ……。

 

 ここはユーグリット王城の吊橋の上。

 気候は静まり、雪化粧が夕陽でオレンジ色に染まっていた。


『主よ、無事でなによりだ。遠慮したのか? 呼べば迎えに行ったものの……』


 ドラちゃんはガーゴイルの攻撃で少々負傷していた。

 だから、俺達は飛んで帰って来たのだ。


 国王のベオウルフから、宮廷魔術師のエルヴィスに、その弟子のソーニャ。

 親父のアイザックに母親のエミリー、そしてシャーロットにフローラが、にこやかに出迎えてくれた。


「ルーシェリア王子よ、よくぞ無事で帰還された。疲れたであろう、今夜はゆっくりと休息するがよい」


 国王ベオウルフが俺にそう声をかけ肩に手を置いた。

 ベオウルフの愛剣、隼の剣を返そうとしたのだが、彼は首を横に振った。

 

「貴公の役目はまだ終わってはおらぬぞ」

「えっ!? どういう意味なんです?」

「ハリエットが花嫁修業で、貴公の家に押し掛けると抜かしおったわ!」


 俺達は明日、ミッドガル王国に帰還する。

 その際、ハリエットも一緒に着いてくるという話になってるようだった。


「あなたは、わたくしがいないと、命がいくつあっても足りないわ」


 両親も了承済みで、これは既に決定事項であった。




 ◆◆◆




 その日の夜。

 

 俺はベットでゴロゴロしながら、窓から覗く星々を眺めながら頭の中を整理していた。

 そして、あの強く光り輝く星、ポラリスだ。

 月にしたってそう。

 よくよく考えてみると、地球で長年見てきた月と瓜二つじゃないか。

 答えは最初から、すぐそこにあったんだ。


 過去に救った少女が白鳥渚の娘。

 トラックに撥ねられ負傷した俺の命を救ったのは白鳥渚。

 なんとも言えない複雑な心境だ。

 どんな因果なのか、俺はその白鳥渚とは敵対関係。

 すーっと息を吸い長い溜息を吐きつつ、胸にそっと手を当てた。

 負傷した胸は、傷跡もなく完治している。


「神聖魔法ってマジでパネェな……」


 一人ベットの上で呟く。

 明日から我が家は賑やかになる。


 俺達の帰りを待ちわびてるウルベルトにドーガにアニー。

 メアリーにドロシー。

 新たに家族として加わるハリエット。

 頼もしい親父に、優しい母上。

 俺は親父にだけ何一つ隠さず、己の出生の秘密から母上のことを話した。

 親父は一言「そうか、良くやった」と褒めてくれた。

 何食わぬ顔で、全ての事実を受け入れることができる、親父に感謝した。

 母上には親父が必要とあらば、そのうち打ち明けることだろう。


 今夜は思考を巡らすことが多い。

 俺は俺自身のことも深く考える。

 俺の魔術の才は、無限の魔力が起因していると結論付けた。

 魔力が無限だからこそ、魔術の才が卓越してるのではないのだろうか。

 疲れ知らずで、いくらでも魔術の修行に打ち込める。

 まさにそれだと、感じ得た。

 

 しかし、何故俺の魔力は無限なんだろうか?

 過去の両親の血をそのまま受け継ぎ、アイザックとエミリーの遺伝子情報が組み込まれているからなのか?

 少なくとも、そのおかげで、イケメンになれたという実感はある。

 両親とも本当に美男美女だからな。


 さて、残りの問題も頭の中で整理しとかないとだ。


 俺は帰り道、もう一人の人物を拾って帰る予定だ。

 その子は、俺の弟子となった魔術師見習いの淫魔族の少女だ。

 彼女を魔法都市エンディミオンにある学院に通わせようと思ってる。

 あくまで、マリリンが望んだ場合の話ではあるが。


 また、ミッドガルに戻るとヴィンセント王子と顔を合わせることもあるだろう。

 俺の記憶喪失を良いことに、今まで素知らぬフリをしていたのだろうか。

 そもそも奴は俺が記憶喪失だって事を、知らないのだ。

 だとすると、大胆不敵というか大した度胸である。

 まずは直接、本人に、それとなく問い詰めてみようと思う。

 奴が俺を狙う理由なんて、そもそもないのだから。

 それとも、ただ単に俺が鈍感で気が付いてないだけなのかな?

 う~ん、わからん!

 わからんことだらけだ。


 召喚勇者達にしたって、どうやって召喚されたんだ?

 当初はラノベやアニメの影響で深く考える事も無かった。

 そんなもんだろうと、軽く考えていた。

 法王庁はタイムトラベルを可能にする、何かしらの装置を隠し持ってるのではないのだろうか。

 今でこそ、そう考えてしまう。

 神聖魔法や、何らかの儀式で、過去から人間を召喚出来るはずもない。

 そんなものが存在してたら、それこそが超魔術と呼べる代物だろう。


 それとは別に……清家と間宮。

 あの二人は、出来ることなら助けてやりたい。

 成り行き上、俺と敵対関係となった訳だが、今では悪い奴らじゃないと思ってる。

 諸悪の根源は歪んだ教義を掲げる法王庁なのだ。

 それに、あの二人は俺の良き味方になる可能性も秘めている。

 とりあえず、帰ってからじっくり考えてみるか。

 

 竜の卵もドロシーはソーニャから受け取った。

 とても卵を可愛がっている。

 俺もどんな竜が生まれるのか、とても楽しみだ。


 そういや……エンディミオンで、俺の称号授与式もあるんだっけ……。

 明日帰還したら、暫くはのんびりと過ごしたいんだけどなぁ。

 色々考えてたら何だか眠くなってきた……。

 今夜は寝るとするか。




 ◆◆◆




 翌日の朝。

 

 早朝からてんやわんやだ。

 ドラゴンにも微妙な表情の変化がある。

 ドラちゃんは眼球を上にあげ、困った様子だ。

 そんなドラちゃんの背の上で皆が、はしゃいでいるからだ。


『主よ、静かにしてくれと伝えてくれぬか?』

「そ、そう、言われてもなぁ……」


 ドラちゃんの背には7人も乗っていた。

 俺、メアリー、ドロシー、ハリエット、シャーロット、アイザック、エミリーの総勢7名だ。


「8歳でドラゴンまで使役するなんて、ほんとにルーシェリアは、生意気なんですわ!」

「まぁ、まぁ姫様、そう言わずに落ちついてくだされ」

「だいたい、何でわたくしが、おじ様の後ろなんですの?」


 ドラちゃんに跨る順番で揉めているのだ。

 その原因が親父とハリエットにある。

 親父が俺の後ろに陣取ったのだ。

 それがハリエットにとっては不満のようだった。

 親父は親父で、少しでも前方に跨りたいらしい。

 二人の様子を眺めてたシャーロットは、既に呆れかえっていた。


「ならば……ルーシェリア、お前が後ろに行け!」

「い、嫌だよ! 僕だって一番前がいいんです!」

「なんだ……お前、意外とケチなんだな?」

「アイザック……子どもの玩具を取るような真似はみっともないですよ」


 エミリーの言葉に一同が笑った。


『主よ、飛び立ってもよいか』

「ああ、頼むよ」


 ソーニャが寂しそうだ。


「元気でなー! ソーニャまた会おう!」


 皆がソーニャに声をかける。

 ソーニャがにっこり微笑んでくれた。


 ドラちゃんは大空に羽ばたいた。

 途中、マリリンが住む村に立ち寄り一晩、過ごした。

 マリリンはドロシーが身につけてる真紅のドレス風の衣装が、たいそう気に入ったようで、ドロシーにせがんだ。


「私はやっぱり、こっちの服の方がしっくりくるのです」


 ドロシーは、テヘっと笑うと、いつもの黒の魔女っ子スタイルに着替えた。

 でも、やっぱりもう帽子は被らないようだ。

 これからは魔族の血にも誇りを持って生きていく。

 その決意の表れなんだろう。

 心配するな、青い髪がなんだ。

 俺はとっても気に入ってるぞ!

 帽子は紅く染め直し、マリリンの頭に被せた。


「うん、可愛いのであります!」

「ドロシーさん、ありがとう!」


 マリリンが嬉しそうにドロシーにお礼を伝えた。

 ドロシーもマリリンが喜んでくれて嬉しそうだ。

 黒の衣装の魔女っ子と赤の衣装の魔女っ子。

 二人並ぶと姉妹のように見てとれた。

 

 そして村長は朗らかな笑みを浮かべると「マリリンをよろしく頼みましたぞ」と、俺に託した。

 マリリンは、にっこりと俺を見上げ「不束者ですが、お師匠様、これからよろしくお願いします」と、可愛らしく微笑んでくれるのであった。


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