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 閑話「シャルル・シャーロット」

 ミッドガルを旅立って、二日目の朝。


 ドラゴンの背に跨りながら森の妖精であるシャーロットは、考え事をしていた。


 ルーシェリア王子と初めて会話を交わしたのは、弟子のフィリップ王子が郷田という異世界人と決闘で対峙しようとした日が初めてである。


 シャーロットが王宮に迎えられた時には、ルーシェリア王子はいなかった。

 ルーシェリア王子が魔法都市エンディミオンに留学した時期と入れ違いで、王宮で働くことになったからだ。


 シャーロットの王宮での仕事は国王の一人息子のフィリップ王子のお世話である。

 森の妖精として自由気ままに生きてきた彼女にとって王宮で働くことは、あまり気が進まなかった。


 だから最初は国王の申し出を丁重にお断りした。

 しかし、何度断っても国王エイブラハムは諦めなかった。

 最終的には国王の熱意にほだされ引き受けることになった。

 まさか国王陛下自ら、シャーロットの棲む『迷い子の森』まで足を運んでくるとは考えてもみなかったからだ。


 久々に訪れたミッドガル王国は大きく変貌を遂げていた。

 見知った顔の者など誰一人としていなかった。

 長寿のエルフのシャーロットにとっての久々とは、900年振りのことである。


 この時、フィリップ王子は6歳。

 ルーシェリア王子は3歳である。


 初めて見るフィリップ王子は、特に優れたところもなく凡庸な少年だという印象であった。

 かつての英雄王レビィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世の面影はない。

 彼だけではなく、国王にもアイザックにもその面影はない。


 長年の友でもあり、ライバルでもある闇エルフのブリジット・アーリマン。

 彼女はアイザック殿下のご子息のルーシェリア王子を、弟子として迎え入れたと聞いた。


 シャーロットにとって、どうでもいいことでもあった。

 ただ、フィリップ王子の口癖は事あるごとに、『弟のルーシェリアに負けたくない』であった。

 彼はひたむきだった。

 必死だった。

 だが、フィリップ王子には魔術の才はない。

 彼も子どもながらに理解していた。

 そんな彼は剣技を極める道を選んだ。


 伝説の六英雄と謳われるシャーロット。

 かつて彼女は精霊魔法だけではなく、細身の剣を振るい魔神戦争を戦ってきた。

 剣技も達者なのである。

 自己流の為、剣術の称号を持つことはなかったのだが。

 もっぱら剣王レベルの力量はあると囁かれてもいた。


 そして、フィリップ王子に剣技を教える師匠となった。

 自由を愛する彼女にしてみれば、師弟関係など煩わしいだけでもある。

 当初はそう思っていた。

 フィリップ王子の熱意に打たれるまでは。

 子どもながらにして、将来この国を背負う存在だと言うことを彼は理解していた。

 ルーシェリアに負けたくない。

 その想いとは別に、国民に慕われる国王になりたいと、強い想いも抱いていた。

 英雄王でもあり、六英雄のリーダであったレヴィのように。


 彼の欠点をあげるとするならば、国を愛する想いが強すぎるが故に、少々勝気で短気な性格だけである。


 その性格が災いし、軽はずみに郷田の挑発にのってしまったのだろうが。

 シャーロットにとっては溜息がでる出来事でしかなかった。


 その日。

 決闘の日。

 

 シャーロットは初めて、ルーシェリア王子と顔を合わせた。

 平静を装ってはいたが、王子を見た時、シャーロットは声を張り上げそうになった。

 今まで誰にも感じたことがない。

 ミッドガル王家の者から誰一人として感じたことがない。


 レヴィの面影をシャーロットは、ルーシェリア王子の中に見た。

 ルーシェリア王子が微笑んだ。


 顔立ちは別人なのだが、その笑顔、とても懐かしく感じたのだった。

 更に驚いたのが彼の魔術の力量だった。

 瞬時に郷田を凍結させた氷属性の魔法。


 あれほどの瞬発力のある魔術は見たことがなかった。

 いや、そもそもレヴィが生きていた時代は、今の時代よりも魔術が忌み嫌われる時代でもあった為、魔術師達は息を潜める存在でもあったのだ。


 魔神戦争後、ブリジット・アーリマンが魔術師ギルドを創設するまでは。

 そんな闇エルフのブリジット・アーリマンは仇敵でもあった。

 彼女は闇の勢力の先鋒のような存在でもあったからだ。


 だが……しかし。

 

 邪神が倒され、魔神戦争は終結した。

 それと同時に闇の者達は邪神の支配下から解放された。


 シャーロットは、ドラゴンの背の最後尾からずっとルーシェリアを見つめていた。

 彼は、旧友のドラゴンの飛行を補助する為に、風魔術を苦もなく、延々と持続させている。


 魔力に底がないのだろうか。


 四属性の魔術を器用に操り、あのミッドガル王国の季節はずれの大雪。

 彼の仕業だとも、まことしやかに囁かれていた。


 たしかにルーシェリア王子は天才だと思う。

 しかし、一国を覆うような大雪を降らせるほどの魔力。

 魔力総量に自信のあるシャーロットにしても、信じられない話である。

 シャーロットは無意識に魔術師ギルドへも足を運んでいた。


「そのことは内緒よ?」


 赤眼のエルフはそう答えた。

 事実であった。

 内緒の話が噂として囁かれてる違和感を覚えながらも。

 ルーシェリア王子の力量を知れば知るほど、事実だと思い知らされる。


 そう、ルーシェリア王子の魔力総量は異常なのだ。

 彼は本当にアイザックとエミリーの息子なんだろうか?

 メアリーはルーシェリア王子の出産に立ち会ってると聞いている。

 ならば、そうなのであろう。


 人族の子であり王族の子。


 この前、誕生日を迎え、8歳になったと聞いた。

 この子なら、旧友のドラゴンを使役できる。

 魔力は支配力にも繋がる。


 この子ならばとの想いもあった。

 かつての邪神の魔力すらも凌駕してると感じたからだ。

 旧友の火吹き山の王にも感謝され約束も果たせた。

 彼が使えるに相応しい主を連れてきたからだ。


 これで王も安泰だろう。

 邪神が再臨したとしても、火吹き山の王には邪神の支配力は及ばない。

 それとは別に、魔族の血を引くドロシーのことも心配だった。

 そのドロシーは、どんな縁なのか、ルーシェリア王子を敬愛している。


 彼女のことも安心だ。

 ルーシェリア王子には悪いけど、利用させてもらった。

 六英雄で魔族出身のジェラルドの孫娘も、ルーシェリアの弟子になった。


 ――――ごめんね……ルーシェリア。


 でも、君がいれば多くの者たちが、救われる。

 そう……そんな私も救われている。


 君はいれば、レヴィを失った私の心の隙間も埋まりそうだ。


 ありがとう……ルーシェリア。


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