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第五十四話「報告」

※改稿済み(2017/5/23)

 翌朝。

 ベッドでゴロンとしながら、ラルフ達と交わした会話を振り返っていた。

 昨日のお昼。学食で久々にラルフやミルフィーと語りあったのだ。


 彼らと過ごした過去の記憶はないものの、愉しい時間を過ごせたのは言うまでもない。

 ……だが、気になる話が持ち上がったのだ。


 学園祭だ。その学園祭で魔術を披露し合う魔術大会が開催されたらしい。

 当時の記憶がない俺は、彼らの話に頷く他なかったのだが、なんでもその魔術大会で決勝戦に進出したのは、ラルフとソーニャらしいのだ。さすがだよ。


 ラルフは氷属性が得意。一方、ソーニャは風属性が得意。

 二人の勝負は一進一退で、互いの実力は拮抗していたらしいのだが、それでも勝負が決しようとした時、武舞台に黒ずくめの衣装を纏った無法者が乱入した。


 勝負を邪魔されたラルフは、無論、抗議の声をあげたらしいのだが、無法者は有無言わずラルフを闘気でふっ飛ばし、反撃に出たラルフが無法者の頭上に巨大な氷の塊を出現させたようなのだが、それは素手で軽々と粉砕されたらしいのだ。


 その直後、ラルフは回し蹴りを喰らい場外。


 武舞台に残ったソーニャは、その無法者に対し、風魔術を駆使するものの、最終的には胸倉を掴まれボコボコに殴られるのみだったらしい。


 そして、この時、俺は動いたようだ。


 ラルフの話だと、俺はその無法者の名を叫んだようなのだが、残念なことに意識が混濁していたラルフやソーニャはハッキリと聞きとれなかったようなのだ。


 無論、その者が誰なのかラルフが確認するように俺に聞いてきた。


 しかし、思い出すことも出来なければ、心当たりもないのだ。ただ、その風貌から推測すると一人の男が俺の脳内に浮上した。


 ミッドガル王国第三王子であるヴィンセント・フェリエール・シュトラウスだ。

 

 黒ずくめの衣装で、三白眼もとい闘気使い。


 ひょっとしたら彼なのかも……と、一応、ラルフに伝えたのだが……。


『さすがにそれはルーシェの勘違いだろ? 第三王子がわざわざ魔術大会に乱入すると思うか? そこになんのメリットがある?』

『言われてみれば……』

『だろ? きっとお前の見間違いなのさ』


 とまぁ、こんな感じで、俺と無法者の対戦はと言うと。

 その場に駆けつけてきたビディが即座に止めに入ったらしい。


 しかも止めに入ったビディは俺に対して『命拾いしたわね。ルーシェちゃん』と、そう呟いて額の汗を拭っていたようだったのだ。

 

 


 ◇◆◇




 そして――――昼からシュトラウス家は大忙しだ。

 理由はドロシーの引っ越し作業。


 ドロシーが本格的にお邸で寝泊まりすることになったので、元々あった地下室を俺の土魔術で改良を加え快適空間に早変わりさせた。


 付与魔術師のドロシーは、魔力結晶の欠片を利用し、光る魔道具を作成。途端に地下室が明るくなる。しかも光源のON・OFFは、魔力操作で手軽にできる優れモノだ。


 竜王城から浮遊魔術で運んできたドロシーの荷物を皆で地下まで運び込む。


 タイムマシンもお邸の地下に運び込もうとしたのだが、竜王様が『それはアカン』と、血相を変えて言うので残念だけど諦めた次第だ。まあ、必要な時は竜王城まで足を運べばいいだけだしね。


 と、言うことで、汗水流したメンバーは、俺とドロシー、メアリー、ウルベルト以外にもう二人いる。その二人はウルベルトの部下で、名前はドーガとアニー。


 二人ともこれから日夜泊まり込みで、警備を勤めてくれることになったので、今日より一緒に暮らすことになるのだ。


 一段落したところでドロシーが皆にお礼を伝える。


「皆さん。引っ越しのお手伝いありがとうなのです!」


 魔女っ子スタイルで、嬉しそうにはにかむドロシー。彼女は未来の俺の嫁だ。


「あたい達もお世話になります。ルーシェリア王子」

「うむ。よろしく頼むぞ少年」


 そう言ったのはアニーとドーガ。


 アニーは活発そうな女性で歳は20代らしい。それ以上の言及は『禁則事項です』とのこと。赤毛のそばかす美人で目もぱっちりのスレンダー。中級騎士の称号を持っているらしく、剣の腕はお墨付き。巨人化しないよね? いえ……なんでもないです。


 もう一人はドーガ。歳は38歳。ふっくらとした丸顔に見事な髭を生やし、どっしりとした体型で、人並み以上に任務に忠実な彼。シュトラウス家に一歩踏み込んだ瞬間から、お邸の警備を始めるほどなのだ。しかもフルプレートだし。重そうだけど心強いね。


 またドーガはウルベルトの部下なのだが、ウルベルト自身が彼に尊敬の念を抱いている。

 なんでも大先輩もとい師匠だと言うのだ。まぁウルベルトは貴族なので、身分はウルベルトの方が高いのだが、ドーガは国士無双の槍の使い手で、たった一人でゴブリン千匹も屠ったそうだ。その勲功で聖騎士の称号を叙勲する機会があったらしいけど、何故だか断ったようなのだ。


 なんでだろ? 聖騎士になったら貴族の仲間入りなのにね。深い事情がありそう。


 ともあれ、シュトラウス家の防備はこれで完璧だ。


 


 ◇◆◇




 数日後。


 庭を散歩していると、アニーが頬を膨らませぷんぷんしながら駆け寄って来た。

 その後ろから慌てたようにウルベルト。ドーガとメアリーも一緒だったみたいだ。


 アニーは不満そうな顔を俺に向けると、


「ルーシェリア王子、聞いてください。ウルベルト隊長は庭の手入れを全部、あたいに押し付けるんです!」


 ドーガが「わっははっ!」豪快に笑う。

 ウルベルトはバツが悪そうに髪を掻くと、


「ずっと門前に立ってるだけじゃ暇で死にそうです……と、ぶつぶつ愚痴ってたのは、アニーだろう?」

「じっとしてると寒くて……凍えそうになるんですよ」


 そう今の季節は冬なのだ。

 

「ならば馬の世話を任せてもいいぞ? 騎士で馬が苦手なんて話にならんからな」

「う、馬はちょっと……」


 馬に餌を与えた際にくしゃみをされ、顔が鼻水だらけになった過去でトラウマらしかった。


「でしたら、お邸の方を手伝って頂いてもよろしいでしょうか?」


 メアリーがアニーに提案。


「ほ、ほんとっ! そっちのほうが助かるかも!」


 アニーは嬉しそうにメアリーの手をぎゅっと握った。

 

「私も寒いのは苦手なんですよ。ましてやアニーさんも女性なのですから、門前の見張りは堪えますよね。そこは殿方にお任せ致しましょう!」


 二人のやり取りを見て、ウルベルトはヤレヤレといった表情。

 ドーガは一人でも十分だと言いたげに、胸をドンっと叩く。


 そんな中、メアリーはアニーに何かを決意した表情を見せ、


「アニーさん、私に剣術を教えて頂けませんか?」

「えっ……剣術?」

「はい、私はこの中の誰よりも非力です。いざって時にルーシェ様をお守りする為にも、強くなりたいのです!」


 メアリーの目は本気だ。

 戦うメイドか……しかし、メアリーに剣術なんて向いているのだろうか?

 それなら俺が魔術の手ほどきしたほうがいいんじゃないの?


「あたいは構わないわよ? ただし……やるからには覚悟はしてもらうわよ?」


 アニーもメアリーの意気込みを真剣に受け取る。

 

「……でも、あなたの細い腕じゃ、剣なんて振るえそうにないわね。短剣を使った護身術を教えてあげるわよ」

「是非、お願いしますアニーさん」

「ええ、あたいも張り合いが出来たってもんよ。よろしくねメアリー!」


 メアリーは大満足のようだ。

 

「アニーさん、こちらこそよろしくお願いします!」


 明日から早速、メアリーはアニーに稽古を付けて貰うようだ。

 頑張れよメアリー。



 

 ◇◆◇



 

 数ヶ月後。


 一面を覆っていた雪が溶け始め、ほんのりと雪に埋もれていたものが顔を出し始めた。

 吹く風は冷ややかさを含んではいるものの、温かい日差しが心地いい。

 そう春の訪れである。


「坊ちゃん!」


 部屋でメアリーとのんびりしていたら、ドアが乱暴に開いた。


「やいやい! ウルベルト! ノックもしないで! びっくりするだろ!」

「申し訳ありません! 坊ちゃん! 一大事です!」


 ウルベルトに普段の余裕が感じられない。何かあったのだろうか?


「アイザック殿下とエミリー様が行方不明になられました!」

「な、なんだって!?」

「ほ、ほんと……なのですか、ウルベルト様……」


 詳しい事情を聞いた。


 ユーグリット王国の西にかつて千年ほど前、邪神が復活した跡地と見做されている大空洞がある。両親はユーグリット王国の調査隊に参加し、その場所の調査に赴いたらしい。


 だが、そのまま帰って来ないまま数ヶ月の時が流れてしまっているようなのだ。


 ユーグリット王国まで馬車で三ヶ月は要する。

 これはマズイかもしれない……。

 

「ウルベルト!」

「はっ!」

「僕はこれからユーグリット王国へ向かう準備をする!」


 間髪いれずに俺は叫んだ。

 何かに巻きこまれたのか? 

 両親を失いたくない。

 探しに行かなければ!

 

「ぼ、坊ちゃん……それとはまた別の案件の報告もございます」

「……別の?」

「はい」


 ウルベルトが俺に書簡を手渡してきた。

 オースティン公爵こと伯父上からのものであった。


 先日の召喚勇者の件が書かれていた。

 手紙によると、逃亡した3名は、法王庁に捕らえられ即刻処刑されたらしい。

 そして召喚勇者の生首がミッドガル王城まで届けられて来たらしいのだ。

 

 つまり、召喚勇者や司祭がアリスティア神殿にて、俺とメアリーに対して行った無礼な振る舞いに関してはこれにて手打ちにしろと暗に告げるものだった。というか命令に近いものだ。


 伯父上にしてみれば、僅か8歳の俺だ。約束通り知らせてくれただけでも良しとしよう。 


 今はぶっちゃけ召喚勇者のことなんてどうでもいい。


 ユーグリット王国へ、一分でも早く向うことが先決なのだ。


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