第五十話「魔法都市エンディミオン」
※改稿済み(2017/5/9)
ミッドガル王国より南西の海に浮かぶ小さな島がある。
その島には毎年、魔術師になることを夢見る者達が訪れている。
それもそのはず、魔法都市エンディミオンには、魔法学園があり、そこでは魔術の技量に応じて、それに相応しい魔術師としての称号が授与されるのだ。
また、称号を得た者は、魔術師ギルド公認魔術師としての権利も得られ、それは同時に魔術師ギルドの庇護の傘に入るということで、様々な情報が提供される他、魔術師としての人権も保障される。
かつてこの世界では、魔女狩りに似た魔術師狩りという迫害の歴史がある。
その当時の人々は魔術を知らず、魔術を恐れ、魔術を異端の力と見做した。
そんな迫害の歴史の中で、魔術師達が結託し創設されたのが魔術師ギルドであり、その創設者の代表者がブリジット・アーリマンである。
魔術により迫害を受けた者、もしくは魔術に魅了され志す者。多くの者達が自然と南西の孤島に集い始めたのだ。幸いなことに孤島は水資源にも恵まれており、自ずと発展を遂げ、一つの都市を形成した。
今では多くの者達が、宮廷魔術師を志し、学園都市として名高い魔法都市エンディミオンへと足を運び、その門戸を叩くのであった。
◇◆◇
俺達は地平線を飛び越えるように海を渡り小さな島を目指している。
すると、緑豊かな小さな島が見えてきた。
「王子っ! あの島なのです!」
ドロシーが晴れやかな笑顔でそう叫ぶ。砂浜から広大に広がる森を越えると、魔法都市の全景を視界に捉え、その先にクレムリン宮殿を彷彿させたような美しい建造物が目に入った。
「ドロシー、あれが魔法学園なんだね」
「はい、なのです」
魔法学園の上空まで辿り着いた俺達は、建物の前の広場にすとんと着地。
周囲を見渡すと、ベンチで読書している学生や、木漏れ日の下で昼寝してる学生などが真っ先に目についた。
「ずいぶんとのんびりした空気の場所なんだね」
「今の時間はお昼休みなのですよ」
「ああ、なるほどね。副学長がいる事務局はあの建物の中だよね?」
「はい、なのです」
建物に向っていると、すれ違う男子生徒が足を止め、俺達にきょとんとした視線を向けてきた。
「あのう。ひょっとしてルーシェリア王子じゃないですか?」
「う、うん。そうだけど?」
「おー! やっぱりルーシェリア王子なんですね!」
彼はそう言うと、満面の笑みを浮かべ、その直後、大きな声で周囲の生徒達に呼びかける。
「おーい! みんなー! 黎明の魔術師ルーシェリア王子のご帰還だー!」
広場にいた多くの生徒達が振り返る。
「おー! ほんとだ!」
「きゃー! ルーシェリア様よっ!」
「え? え? どこどこ?」
見知らぬ彼の一声で、その場にいた学生達の多くが集まって来た。
どうやら俺は人気者のようだ。あっという間に紺色の学生服に身を包んだ彼らに囲まれ、男女問わず握手を求められ、中にはこっそり俺に触って「きゃきゃ」と、喜んでいる女子生徒達までいる有様だ。この場は大歓声に包まれた。
「ねぇねぇ、ルーシェリア様。今日はどんな用事で来られたんですか?」
「あ、えーと……」
「もうずるい。わたしも王子様とお話がしたいの!」
「皆が一気に話しかけるからルーシェリア様、困ってるじゃないの!」
にへっと笑みを零すだけでも女子生徒達は大騒ぎ。参ったな……。
「王子様? その隣の方は魔族じゃありませんの? 髪が青いですわよ」
一人の女子生徒がそんなことを言うと、別の女子生徒が、
「あ、あんたドロシーじゃないの! どうしてあんたが王子と一緒にいるのよ?」
「ご、ごめんなさいなのです……」
ドロシーは委縮し、申し訳なさそうに俯いたので、俺は彼女の手を優しく握った。
「えっ!? どーゆこと?」
皮肉めいたことを言った女子生徒が、戸惑いの表情を見せたので、
「ドロシーは僕の婚約者だ。ドロシーをないがしろにする者は許さないよ。特に君と君だ!」
軽口を叩いた二人の女子生徒の表情が瞬時に青ざめ、
「ご、ごめんなさいっ! ごめんなさい!」
「ルーシェリア様、大変失礼しました!」
二人は慌てて逃げるように去って行った。
「ふ~」
「王子、ありがとうなのです……そしてごめんなさいなのです」
「ドロシーが謝る必要はないよ。悪いのはあいつらさ」
なんてやり取りしていると「ルーシェリア王子はやっぱりカッコイイよね!」「うんうん、ドロシーちゃん、おめでとう! 王子も妬けるね!」ドロシーに祝福の声が上がった。魔族の血を引いているからといって、誰もが差別してる訳でもなさそうだ。少しほっとしたよ。しかし、ほっとできたのは束の間。今度は質問攻めだ。
だが、その女子生徒達の囲みを必死に掻い潜ってくるつわものがいる。
赤毛の女の子で瞳が大きく、猫のような耳がある女の子だ。そして、その子が満面の笑みで、俺の名を呼ぶ。
「ルーシェーた~ん! 会いたかったにゃーん!」
彼女は勢いよく俺に抱きついてきた。同時に俺の顔が彼女の豊満な胸に、ぎゅにゅっと埋まった。息ができねぇ……。
「ぷっはー! 突然なんなんだ! びっくりするだろ!」
ちょっと得した気分だけど。とか思っていると彼女はおもむろに頭を俺に突き出していた。
「え!? ……なに?」
「いつものように、頭を撫で撫でしてほしいにゃんにゃん!」
いつも? 初っ端から抱きついてくるし、ひょっとして深い仲なのか?
しょうがないので、撫で撫でした。
「気持ちいいにゃん。満足したにゃん!」
目をうっとりさせる女の子は猫耳だし、猫型の獣人なんだろうな。
「もう! ミルフィー! いくら王子と仲が良いからって割り込むのはズルイわよ!」
「ごめんにゃん! 禁断症状が抑えきれなかったにゃん!」
俺はこの学園で真面目に魔術の勉強をしていたのだろうか。アイドルのようにモテモテだよな。悪くない気分だけど、過去の俺と比べると、ちょいと切ないかな……なんて、センチな気分に浸っていたら、男の声だ。
「おい、ルーシェ! いつまでくだらないことをやっている! 何か大切な用があって来たんじゃないのか?」
誰もが王子や様などの敬称を付ける中で、この俺を呼び捨てにするヤツは誰なの?
一瞬、怒鳴られたように感じたが、語尾は穏やかで気遣ってくれてるような印象を受けた。
声がした方に振り返ると、そこには白い学生服を着たイケメンがいた。
端正な顔立ちに切れ長の目。おまけに銀髪だ。歳は14,5ぐらいだろうか?
「なんで白い制服着てるんだ?」
俺の呟きにドロシーが答えてくれた。
「あの制服は、特待生の制服なのですよ」
「特待生?」
「はい、それに彼は王子の無二の親友なのですよ」
ドロシーの話を聞くと彼の名はラルフ・ラファイエット。氷系の魔術を最も得意としている成績優秀者。どこかの国の貴族出身らしい。また、4年間の学園生活で、俺はソーニャとラルフ、ミルフィーの4人で良くつるんで遊んでいたようなのだ。
ちなみにソーニャは卒業済みで、今は北のユーグリット王国で宮廷魔術師見習いとして頑張っている。
ふと、気がつくと、俺を囲んでいた女子生徒の半数ほどがラルフの方へ靡いていた。
しかも、ラルフはだらしない笑みを浮かべている。
「なんだよ……あいつ……人には偉そうなこと言っといて、デレデレしてるじゃないか……」
ボソッと呟いてしまった。
俺の呟きを聞いたドロシーがクスッと微笑む。
とりあえず、俺とドロシー、ミルフィーとラルフを含んだ4人で静かな場所に移動。
幸い、ミルフィーとラルフの両名は魔族に対して、特に偏見がないようで、ほっと安堵した。
ドロシーとも仲良くしてくれるようだ。
――――しかし、何よりも問題なのは俺の記憶が消失していることだ。
彼らと接することによって、何かしらの記憶が蘇ってくれるといいのだが。
友達とは言え、記憶のない俺にとっては、彼らは初対面と変わらない。
彼らの趣味趣向も知らなければ、今までどんな話を交わして来たのかも分からないのだ。
そう考えると、記憶を失っている事を話すべきか、話さぬべきか悩むところでもある。
だが、今はその時期ではないと、俺の直感がそう告げた。
「今日は副学長に届け物があって来たんだよ」
「じゃあその後にでも、久々にアレに挑戦しようぜ。なあ、ルーシェいいだろ?」
あれって何だろう……。
ラルフがヘンな笑みを浮かべて肩に腕を回してきた。
悪いことを考えてるような笑みだ。
ミルフィーも何かに期待を寄せてるかのように、わくわくしているじゃないか。
けれどもドロシーは、なんの変哲もない木をぼーっと眺めていた。あの木にクワガタでもいるのかな?
まずは、彼らに所用を先に済ますと伝え、俺とドロシーは事務局へと向かうのだった。
「エコーズって、アルム軍とセリカ軍って合流するの?」
「ああ、エコーズはACT3までだよ!」
「はあ……そうですか……」
……会話が噛みあわんかった。
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