第五話「イケメン補正」
※改稿済み(2017/3/26)
マリーが俺のことをパパと呼び、将来三人の嫁を娶るという話なので、未来の嫁について尋ねることにした。
「最初のママの話から聞かせてくれないか?」
「うん、いいよ」
俺の人生でこれほどまで気持ちがプラス面に高揚したことが、かつてあっただろうか。
わくわくが止まらない。
「えっとね、最初のママは魔法が使えてね」
「うんうん」
「パパ……ちょっと鼻息が荒いよ?」
「おっと、そりゃ失礼」
どなたか存じませんが、こんな俺に素晴らしい未来を提供してくれてありがとうございます。鼻息を抑えつつ俺は見知らぬ女神様に感謝した。
感謝していると、部屋のドアを優しくノックする音が聞こえた。
「ルーシェ様。夕飯の支度が整いましたよ」
そこにはランタンで廊下を照らすメアリーが立っていた。
マリーの話に夢中になっていた俺は時間をまったく意識していなかった。
そう外はすっかり暗くなっていたのだ。
それでも燭台の蝋燭が部屋を明るく照らし出してくれている。その蝋燭の炎の揺らぎに合わせるように、メアリーがマリーを叱りつけた。
「あ、こら、マリー。ダメじゃないの! ルーシェ様は病み上がりなんですよ。ベッドの上にまで乗っちゃって……ルーシェ様が疲れちゃったらどうするんですか!」
すると、マリーはしょぼんとしつつも、その原因を俺に押し付けてきた。
「だってルーくんが寂しいって言うんだもん」
マリーは、俺に向って屈託のない笑みを見せ、誤魔化そうとするのだが、俺の娘だ。それに対して俺が抗議する訳がない。可愛い娘なのだから。
でも……メアリーがヘンな誤解をしたら、どうしようかと思う。
少女をベッドに誘った変質者だと思われたらシャレにならないぞ?
杞憂だった。俺の見た目は29歳のヒキニートではないのだから。
「ルーシェ様もご無理してはいけませんよ? 元気になったとはいえ二週間も寝込んでいたのです。油断大敵ですよ!」
マリーは素直に「ごめんなさーい」と返事。俺はにへらと笑みを浮かべる他なかった。
すると、メアリーが心配そうに俺のおでこに手を当てる。
「うん、大丈夫のようですが、熱がぶり返したら大変ですよ? 旦那様が元気になったルーシェ様と食卓を囲みたいと申しておりましたが、ルーシェ様のお食事はお部屋までお運びした方良さそうですね」
今晩の夕飯は腕を振るうと言っていた。それに俺はもう元気なのだ。
「僕はもう平気だよ。僕も皆と一緒に食べるよ」
俺の返事にメアリーは笑顔で頷いてくれた。メアリーは笑うと八重歯が可愛らしい女の子だった。
「では、ルーシェ様。お着替えして下の階に降りましょうか。マリーはちゃんと手を洗うのですよ?」
「は~い!」
マリーはぴょこんとベッドから飛び降りると、手を洗いに部屋から出ていった。
そのマリーの後ろ姿を眺めていたら、大きな疑問が俺の脳内に押し寄せてきた。
やけにこの家に馴染んでいるんだな? マリーはいつからこの家に棲みついているんだ? そもそもこの時代の人間じゃないだろうに……。
そんなことを考えていると、メアリーが着替えを持って来てくれた。
「さあ、ルーシェ様。脱ぎ脱ぎしましょうか」
メアリーが器用に俺の汗臭い服を脱がしてゆく。そして……ズボンを脱がされ、パンツ一枚になった。それなのにメアリーの手は止まらない。俺のパンツを脱がそうとする。
「ちょ、ちょっとメアリー! パンツは自分で履き変えるよ」
「えっ!? 突然どうしちゃったんですか?」
「だ、だって……恥ずかしいだろ……」
「ダメです! ルーシェ様。メアリーのお仕事なんです!」
メアリーはぷくっと頬を膨らまし、ちょっとムキになっているような気がする。
無理やり俺のパンツを脱がそうとするのだ。
「や、やめてよー! 自分でするから出ていって!」
身体は子どもだが、俺の精神は29歳なのだ。
羞恥心で頭の中が真っ白になり、思わず強く怒鳴ってしまった。
メアリーがしょんぼりした。
「ごめんなさい……ルーシェ様……もうそういうお年頃になっていたのですね……」
そう言うメアリーはどこか寂しげだった。年頃の女の子と手を繋いだこともない俺だ。
そんな俺でも二次元の攻略は得意だが、三次元の扱いは不慣れだった……猛反省だ。メアリーに嫌われたくない。
「ご、ごめん……強く言い過ぎたよ……」
「ううん、私こそごめんなさい。部屋の外でお待ちしてますね」
◆◇◆
目が覚めてから、部屋で初めて一人になった。
「ふうぅぅ……」
何故だか妙に気持ちが落ち着く。そう俺はベテランヒキニートだったのだ。
ある意味、一人だけ空間の愛好者ともいえる。
着替えを済ませたので、部屋から出ようと思った矢先、何か黒い影が動いたような気がして俺は立ち止まった。
「お化けじゃないよね……」
その方向へ視線を移すと、楕円形の大きな鏡があった。
揺らめく蝋燭の炎が鏡に人の姿を映し出しているのだが、そこにいるのは見知らぬ子どもの顔である。
魔法ありきの世界だ。鏡の中に魔物が潜んでいても不思議じゃない。
だが、その魔物が襲ってくる気配は感じられない。それどころか俺とまったく同じ動きをするのだ。
鼻をほじると、鏡の中の彼もほじる。
ちょっとばかりバカにされているような気分だ。
けれども鏡に映る少年の姿は、目を見張るような美少年であり、俺と同じ服を身に纏っている。
ひょっとして……これが俺なのか?
でも鏡に映る俺は、メアリーやマリーと同じ亜麻色髪で、瞳の色も琥珀色なのだ……。
俺の髪は黒で瞳も黒のはずなのだが――――その鏡に映る彼の姿は、やはり俺だ。間違いない。
正直驚かされた。顔だけがまるで別人だ。とはいえ、感覚的なことなのだが、ブサメンだった俺の面影も残している。でもブサメンではなくなっていた。
超絶美形ではないが、マリーが言っていたようにイケメンである。しかも可愛らしい美少年だ。
あっかんべーしてみる。ズボンを下ろしケツを丸出しにしてみた。
こんな不格好な姿をさらけ出しても、絵になるほどの美少年。
不遇な人生を歩んで来た俺は心の底から感動した。
「ルーシェ様、まだですか~?」
ドアの向こう側からメアリーの声が聞こえた。
「う、うん。もうちょっと待って! 今行くよー!」
メアリーにそう言いつつも、鏡から目が離せない俺がいるのであった。




