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第四十一話「反撃の狼煙」

※改稿済み(2017/4/26)



「あなた。わたし達を舐め過ぎ。天才魔術師でも生身。刺したら死ぬ。死にたいの?」


 メアリーに短剣を突きつけたまま、白鳥渚はさらっと澄まし顔で言う。

 

「多勢に無勢で余裕見せてるのは、そっちじゃないかな?」

「うるさい。耳が痛い。少しでも呪文を詠唱したら、この女を殺す」

「無理だと思うよ」


 短剣の尖端がメアリーの頬を掠めそうなので、俺はその尖端を軽く指で摘む。


「なんのつもり?」

「さあね?」

「怪我するよ?」


 白鳥渚が少しでも力を込めたらメアリーは傷つきそうなのだが、脅しには屈しないと言わんばかりにメアリーは微動だにしない。そして、俺がこれから何をするのかも理解してくれてるようだ。


「こんな短剣じゃ話にならないね。今すぐ降伏するなら許してあげるよ?」

「バカにしてるの?」

「ああ、こんな児戯に付き合ってる暇はないからね」

「可愛くないね」

「当然だよ」


 俺の精神年齢は30歳だからな。今更高校生のカツアゲにビビってたまるかよ。


「忠告はした」

「冷たい……」

「だろうね」


 氷結の魔術を無詠唱で発動させた。短剣が瞬間的に凍りつき、その冷気がそのまま白鳥渚の全身をピキピキと凍らせてゆく。


「なっ、いやっ! やめてっ」

「もう無理」


 白鳥渚はメアリーに短剣を突きつけたままの態勢で、凍りついた。

 これで他のクラスメート達も臨戦態勢を解いてくれたらいいのだが、そう都合よくはいかないようだ。俺達を取り囲むクラスメートの誰かが鬨の声をあげた。


 桐野、一条、姫野は動かない。

 だが、残りのクラスメート達が一斉に行動に移り襲いかかって来た。


「メアリー飛ぶよ」

「あ、はいっ!」


 ふわっとメアリーと一緒に空中に浮いた。天井スレスレまで浮いたので、クラスメート達を見下ろすような感じ。召喚勇者の中には間宮のように賢者適正を持った魔術に長けている者もいるだろう。が、俺は無詠唱。この世界の誰よりも早く魔術を発動させることが出来る。


 そして、魔術の詠唱を始めた奴が眼下にいるのだが、呪文すらまともに暗記できてないようで、あわわと焦っている。しかも体内に循環する魔力の魔力操作すらロクに出来ていない。これが首席で魔法学園を卒業した俺との年季の差というものだ。努力した記憶はないけど。


 ――――多少は手加減してやるか。

 

 掲げた手のひらの上に顕現させた火球を撃ち放つ。


「あ、熱い、も、燃え……あっぎゃあああああっ!!!」


 

 まず、一人。


 さらに5人、固まっている場所にも火球を撃ち放つ。


「あいつなんで詠唱なしにっ!」

「う、うわぁぁぁぁぁっ!」

「熱いっ!」

「し、死ぬぅぅぅ!」

「うげぇ……」


 クラスメート達は逃げるように散ったのだが、俺の火球は床に着弾したと同時に熱風を巻き上げ燃え広がるのだ。燃え広がる炎がクラスメート達を容赦なく飲みこんでゆく。

 彼らは炎から逃れきれず絶望の底に叩き落とされたかのように倒れ込んだ。


 そのタイミングでメアリーが、


「ルーシェ様、右です!」


 しがみついているメアリーが叫んだ。

 右から勇者適正らしき者が剣を振り上げ、この高さまで跳躍していたのだ。


 ――――だが、「遅いっ!」


 彼は散弾銃のように撃ちだされた岩砲弾を全身に受け、弾け飛ぶと血反吐を吐き、床に倒れ込んだ。

 床が鮮血で染まり、ピクリとも動かない。残り5名か。


 しかし――まさかと思うが今の攻撃で死んでないよな?

 加減が難しいのだ。一人一人強さが違うからな。


「ルーシェ様っ! 一人足りません!」

「ああ、わかってるよメアリー」


 隠蔽で姿を消しているのだ。魔力探知されてたんじゃ意味ねーけどな。


「そこっ!」

「うっ、うわあああっっ! ど、どうしてっ!」


 隠蔽していた彼は竜巻で天井まで舞いあがり、床に激しく打ち付けられた。

 白目を剥いているので、死んだか気絶だ。しかし、これぐらいで死ぬようでは、邪神に太刀打ちできるとは到底思えないけどな。弱過ぎる。


 それでもさらに挑んでくる4名のクラスメート達がいるのだが……次は女の子か。

 俺に畏怖を抱き隅で縮こまってくれてたら良かったのに。残念だがやる気だ。目が死んでない。見た目が子どもだから舐められてるのかもな。


 だが、攻撃の手を緩める訳にはいかないよ。俺の背中には大切なメアリーがいるからね。

 

 女子生徒は聖女適正の者が多かったが、賢者適正も混じってるかもしれないな。

 3名の女子生徒が魔法障壁を展開してきた。やるな。三段構えの魔法障壁。彼女達の前方に六角形の光の壁が三枚重ねで張り巡らされる。


 魔法障壁は外からの物理、魔術攻撃双方の威力を軽減させる。ならばやることは一つだろ。賢者適正の者が内より魔術を放ってくるのだ。しかも魔法障壁のエネルギーを受け、内から放たれる魔術の威力は数倍に跳ね上がる。


 やっかいだな……加減の調整が余計に難しくなるだろ!


 魔法障壁の内側から火球が撃ちだされた。

 俺はその火球を遙かに上回る特大の火球を撃ち放つ――――


 俺の火球が賢者適正の女子生徒が撃ち放った火球を飲み込み、さらに魔法障壁を1枚、2枚と打ち破る。4名の女子生徒の表情が迫りくる恐怖で歪み、その直後には死を覚悟したように青ざめていた。


 しかし3枚目の魔法障壁を突き破ろうとした刹那、火球は剣で分断され、大きく逸れて床を燃やした。

 桐野が剣で薙ぎ払うように分断したのだ。


「ルーシェリア王子っ! お願いです! もう許してください!」


 桐野が土下座し、続きざまに一条も土下座した。

 

 ちょっとだけほっとした俺もいた。あのままの威力で火球が3枚目の魔法障壁をブチ抜いていたら間違いなく彼女達は死んでいた。意外とやるじゃないか桐野悠樹。


 しかし――――だ。


 困ったことに事なきを得た4名は、まだ攻撃の手を緩めようとしないのだ。

 致し方ない。


 七つの火球を生みだし、撃ち放とうとした瞬間、


「やめてっ! お願いっ! もうこれ以上誰も傷つけないでっ!」


 姫野茶々子が俺の前に立ちはだかった。都合が良すぎる。若き神官や衛兵達を皆殺しにした癖に、自分達が不利な立場になると命乞いかよ。


「邪魔だっ! どけっ!」

「どかないっ!」


 姫野にやる気がなくても、後ろの奴らはそうじゃないからな。

 彼女もろとも焼き払っても構わないのだが――――『郷田や骨山にだって家族がいたんだよ』そんな言葉が脳裏に過ぎった。


 姫野茶々子に桐野と一条も駆け寄って来た。

 また、この騒ぎを聞きつけた衛兵が通路の奥から姿を現したのだが。


 この場から脱走するように逃げるクラスメートが3名いる。

 この状況ならやりかねない。すれ違いざまに道を塞ぐ衛兵達を血祭りに上げつつ、逃げ去るだろう。

 

 逃がさないぞ!


 複数本の氷の槍を狙いを定め撃ち放つ。


 桐野達と4人の女子生徒達が自分達に向けられた攻撃と勘違いし「ひっ!」と、身をすくめ、しゃがみ込む。


「ちっ、外したか……」


 氷の槍は外壁に激突し、その一面をパキパキと凍結させただけで終わってしまった。

 枝道があったのだ。衛兵達が姿を現した方角と逆の方角に折れたのだ。しくったな……。


 そしてその後、後から駆けつけてきた司祭。さらに残りのクラスメート達に教師の八代。彼らの登場で、目の前の彼女らの戦意も消失したようなのだが……倒れ込んだ者達はその誰もが重傷だ。ひょっとしたら死んだ奴もいるかもしれないな……。


 確認しようと思ったのが、聖女適正の者達が怪我人の治療を始めていたので、もういいやって思った。


 今回のこの件、俺に非はない。と、思うのだが……姫野茶々子が、泣き腫らした目で俺に強く気持ちを訴えてきた。


「ひっ、ひどい……酷過ぎるよっ! また誰か死んだかもしれないじゃないっ!」


 そうかもしれないが、殺らなければ殺られていたのだ。

 抜き差しならない状況であったのだ。なのに、マジで酷い言い草だな。抗議の声をあげたいのは俺達の方だ。


 ふわりと着地した。と、同時にメアリーが厳めしい口調で、


「子どもを人質にしようなど下賤な者の考え方です。ましてやルーシェ様は、あなた達に忠告までしました。降伏しなさいと。その忠告を無視したのはあなた達ですっ!」


 その言葉を受けた姫野は何かをぐっと堪えたように、飲み込んだ。


 整然としていた場が落ち着きを取り戻して来た頃、隊長格の衛兵が状況の説明を俺に求めてきた。


「ルーシェリア王子……一体ここで何が起こったのです?」 

「見ての通りだ、反乱を鎮圧した」

「な、なんですとっ! お怪我はありませんでしたか?」

「ま、まーね……」


 ――若き神官の骸がこの惨劇を物語っていた。

 3名のクラスメートが逃亡したことも伝えつつ、俺の攻撃で誰も死んでないよね? と、周囲を見渡すのであった。


たぶん、主人公の攻撃で誰も死んでません。

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