第三十七話「誕生会」
※改稿済み(2017/4/23)
今日は俺の誕生日であり、これから誕生会が開かれるのだが、その前に驚く事実が判明した。この星の一年は365日らしいのだ。それはつまり太陽の周りを回る地球と同じだ。それって凄い偶然だよな? ひょっとしてこの星は地球なのか?
窓から空を見上げると、雲が夕陽に照らされ金色に染まり始めており、懐かしい空気をしみじみと感じた。
「今日はルーシェ様の8歳のお誕生日ですね」
「うん、そうだね」
メアリーが天使のような微笑みを浮かべた。
「ねぇメアリーこの星の名前はなんていうの?」
「え? 星ですか?」
「うん。そうだよ」
意表を突かれて質問されたメアリーは悩ましげに考え込むと、「あのう……ルーシェ様……空に浮かんでる星々のことですよね?」
質問を返された。ちょっとずれてるけどまぁいいか。
「ま、そうなんだけど、この世界のことだよ」
「この世界は女神様が創造されたんだと思いますよ」
「あは……そうなのね」
この世界が宇宙に浮かぶ星の一つという認識がメアリーにはないようだ。
地動説や太陽暦について語っても、彼女は意味がわからないまま、感心したように頷くのみ。料理が得意で宮廷作法にも精通しているのに、その辺の知識は持ち合わせてないようだ。あまり困らせてもアレなので、
「あ、そうだ! 僕も何か手伝おうか?」
先ほどからメアリーは調理場とテーブルを息つく暇もなく往復しては、料理を並べてくれている。
「大丈夫ですよ。ウルベルト様のようにお皿を割られては後始末が大変ですから……じゃなくて……ごめんなさい。もう少しで準備が整いますので、待っててくださいね」
「あ、うん……わかったよ」
メアリーにこっぴどく叱られたウルベルトは、不貞腐れたようにテーブルに肘を付いて物想いに耽っている。
しかし誕生日が12月24日だったとはなぁ……非モテ非リアの俺にとって、この日ほど憂鬱に感じた日は無かったのに。今では幸せすら感じるぞ。
お邸のドアベルを「ちり~ん」と、鳴らす音が聞こえた。誰かが訪ねてきたようだ。
メアリーは忙しそうなので、俺が出ると伝えて玄関へと向かう。
ドアを開けると見知らぬ美少女がにっこりと微笑んだ。
そして、おもむろに丁寧に包装された小箱を手渡された。
「ルーくん、久しぶりだね。お誕生日おめでとう!」
「ど、どうも……ありがとう」
初対面のはずなのだが、どこか懐かしい匂いがする。雪のような白い髪に、色素が薄い灰色の瞳が儚げな印象を醸し出しているのだが、にっこり微笑むその笑顔はとても素敵で、声にも張りがあり、見た目とは裏腹に活発そうだ。
あっ! 思いだしたぞ!
今朝、記憶の片鱗をフラッシュバックのように垣間見たのだが、その最後に魔法学園の制服を着た女の子がいた。そう、その彼女なのだ。
「ねぇルーくん、メアリーいる?」
「いるよ」
「お邪魔するね」
彼女は遠慮することもなく、中へと入って行った。歳はメアリーと同じぐらいだろうか。
「きゃー! ソーニャじゃない! 久しぶりね!」
「もうメアリー! ずっと会いたかったわよ!」
仲良しなんだろうな。二人は飛び跳ねるように喜びあっている。
料理も出揃い丸テーブルを囲っていると、メアリーが俺の両親のことをソーニャに尋ねた。
「アイザック様とエミリー様は元気にされていますか?」
「うん、ほぼ入れ違いで数日しか顔を合わせてないけどね。二人とも元気だよ!」
どうやら俺の両親に会ったようだ。
てことは、遥々ユーグリット王国から、足を運んで来たってこと?
両親の話を聞いたウルベルトが「殿下と奥方様は無事にご到着されたのですね。安心しましたよ」と、自分のことのように喜び、メアリーも笑顔で返事したのだが、ソーニャの関心は既に目の前の料理に移っていた。
「わああ、すごく美味しそう! これって全部、メアリーが一人で作ったの?」
ソーニャはそう言うと、にまーっとした笑みを浮かべ、俺の脇腹を軽く肘で突っついてきた。
「ルーくんは幸せ者だよねっ!」
「え、なんで?」
「んもう! わかってる癖に! メアリーはルーくんの良いお嫁さんになると思うよ」
ウルベルトが口に含んでた酒をぶはっと、噴きだした。
き、汚ねぇな……まったく……折角の料理が台無しになるだろう。
それに失礼なやつだ。メアリーが俺の嫁だと何か文句でもあるんか。
ジト目でウルベルトを睨む。
ウルベルトはバツが悪そうに、口元を引きつらせていた。
「あはっ! ルーくんもウルベルトさんも真に受けちゃって、冗談に決まってるじゃない!」
そう言いつつ笑うソーニャが、「そうだよね?」と、メアリーに投げかけたのだが、メアリーはリンゴのように頬を染めていた。
しかし、元気な女の子だ。
俺とソーニャは、どんな学園生活を一緒に過ごして来たのだろう。
そんなこんな考えてるとメアリーが、
「さあ、ルーシェ様のお誕生会を始めましょう!」
特大の誕生日ケーキを用意してくれた。
この世界でもやるんだな。
俺はケーキに刺さっている蝋燭の火を吹き消した。
全員がパチパチと手を叩き、祝ってくれた。
ソーニャがチキンにかぶりつく。
女の子とは思えない食いっぷりだ。
ウルベルトも豪快に酒を愉しんでいる。
雑談で盛り上がってる最中、メアリーはこっそり囁いては、7歳までの俺のことを教えてくれている。
それで、だいたいの話が見えてきた。
やはり俺とソーニャは学友らしく、彼女は風属性の魔術がもっとも得意だそうだ。
そして4年間、俺とソーニャは同じ部屋で過ごし、彼女は当時まだ幼かった俺を可愛がってくれていたそうだ。
その途中もソーニャが学園での思いで話を、あれやこれやと俺に振ってくるのだが、わからないので相槌だけ打っている状況だ。
「もう……ちゃんとわたしの話、聞いてるの?」
「う、うん。聞いてるよ」
そう答えながら俺はもぐもぐする。
食べるのに忙しいと態度で示し誤魔化しているのだ。
それでもソーニャは懐かしいのだろう。
ラルフ・ラファイエットだとか、ミルフィーだとか記憶にない名前を羅列してくる。
学園で魔術大会があったらしく、その頃に知り合った学友達らしい。
で、学園を卒業したソーニャは、ユーグリット王国にて、宮廷魔術師見習いとして召し抱えられてるそうだ。
「ハリエット姫もルーくんに会いたがってたよ」
「……はい?」
ソーニャの顔がにやけている。
「ハリエット……?」
「もう……とぼけちぇって! 姫とキスしたんでしょ! ほんと、ルーくんはませてるんだからっ!」
姫ってなんだろう?
――――しかも、ちゅーしただって!?
「ふっふ~ん。姫からちゃんと聞いてるんだぞ! 結婚の約束もしてるんだってね!」




