第三十五話「清家雫」
※改稿済み(2017/4/20)
メアリーとウルベルトを伴いミッドガル王城の地下牢まで足を運んだ。
日が射す窓もない地下牢は湿気が多く、カビ臭い上に不衛生なところで、牢獄を見張る看守の人相も少々強面だ。
清家と間宮はこんな悲惨な場所に投獄されているのか。
二人は何を想い何を考え、処刑が執行される日を待つのだろうか。
強面の看守が二人が繋がれている牢獄まで俺達を案内する。
ウルベルトは看守から牢獄の鍵を受け取ると、この場を去るように看守に命じた。
看守は仰々しくもすごすごとした態度で立ち去った。
牢屋に近づくと「ひっ」と、怯えた声が聞こえた。清家雫の声だ。
清家は女の子座りで項垂れるように座り込み、スカートから露出している足は、硬く冷たい石の床で擦ったような傷跡が多数見られた。
クラスでもそこそこ可愛かった清家なのだが、眼下にはどす黒いクマが浮かび、死んだ魚のような目をしていた。しかも、かなりの異臭を放っているのだ。
間宮が繋がれている牢屋の様子も窺う。
間宮は俺達が近づいてもまったく反応しない。壁にもたれ、全てを諦めたかのように片膝を曲げ座っていた。
俺達がここに足を運んだ理由は尋問だ。要はこの二人に尋ねたいことがあるのだ。
まずは清家雫からだ。
ウルベルトが鉄格子の鍵を開ける。ウルベルトは牢屋を潜ると、真っ先に「誰の命令だ」と、重くドスの利いた声で清家を尋問するのだが、清家が発したのは言葉でなく悲鳴だ。
俺とメアリーも牢屋を潜る。
「貴様っ! 答えぬかっ! 誰の命令だ! 誰が竜王様襲撃の指示をだしたっ!」
「ひぃーっ! ひっひぃーっ!」
清家は怯えた声を出すだけだ。
「貴様っ! 吐かぬと剣の錆にするぞ!」
ウルベルトは恫喝しつつ、清家の胸倉を掴み上げ、彼女を強引に立たせた。その途端、彼女の足に黄色い液が滴り落ちた。この時、俺は改めて思った。このウルベルトという若い騎士は、男にも女にも容赦がないと。ぶっちゃけモテないタイプだ。
「ウルベルト、やり過ぎだ。彼女恐がってるじゃないか。女の子にはもう少し優しく接してあげないとダメだよ」
「な、なんですと坊ちゃんっ!」
ウルベルトが俺に剣呑な目つきを向けてきた。俺はその目を鋭く睨み返した。
すると、メアリーが瞬時に厳しい口調で、
「ウルベルトっ! その目つきはなんですかっ! ルーシェ様に失礼ですよっ!」
「も、申し訳ありません。坊ちゃん……メアリー殿。つい熱くなり己を見失ってました」
ウルベルトは熱くなりやすい上に冷酷な男なのだが、親父の信頼も厚く、俺自身も彼のことを信頼している。不器用なだけだ。また郷田との一件で、俺はこの男にこの世界の厳しさを教えられたのだ。
「ウルベルトは下がってて、僕が聞いてみる!」
「お任せします、坊ちゃん! さっきはけして坊ちゃんを睨んだ訳ではございません。そのう……なんと言いますか……険しい視線のまま振り向いてしまっただけなんですよ……とほほ。誤解しないでくださいね……」
「ウルベルト様、私もつい怒鳴ってしまってごめんなさい」
「いえいえ……このウルベルトの不徳が招いたことでございます」
ウルベルトは心から反省しているようだから、俺はそれ以上何も言うことはない。そもそもウルベルトの躾をしに来た訳じゃないからな。
清家は凌辱的なことはされてないようだ。汚いパンツをそのまま履いているからだ。
ほっと安堵しつつ、俺は彼女に優しく問いかけた。
「清家さんって言ったよね? 大切なことなんだ。教えてくれないか? 君達は誰の指示で竜王様を襲ったのかい?」
シメオンの指示で動いたことは分かっているのだが、念のための再確認である。
「わ、わからない……わからないの。わたしは何も知らないの……お願い……許して……」
そう言って清家は懇願してきた。あの決闘の日のように。
ちょいと困ったな。本当はシメオンを裏で動かした人物を知っているのか、問いたかったのだが、この様子だと何も知らされてない雰囲気だ。
けれども俺が前に出たことで、清家の気持ちが若干落ちついたようだ。
「どうしてわたしがこんな目に遭うの! もういや……お願い! ルーシェリア様、ここからだしてっ! 元の世界に戻してっ!」
この世界に彼女らを召喚したのは法王庁だからな。戻してあげたくても俺にはどうにもできない。でも……俺の脳裏にちょっとした疑問が浮かんだ。元の世界って、そもそもどこなんだ?
時を操る魔道具。時を操る魔術は禁忌とされているのだが……まさかな?
「わ、わたしも学校になんて……行かなければよかった……」
清家が小さく呟いた。
「清家さん? 元の世界に戻す方法は僕には分からないけど、君達はどうやってこの世界に召喚されたんだい?」
清家が潤んだ瞳で俺を見上げる。
「教室の中に魔法陣のようなものが……」
「魔法陣?」
「そ、そして、その後……空間に穴が開いて……吸い込まれたの……」
なるほどな。そして、気を失い目が覚めたら白亜の神殿にいたそうだ。
「タイムマシンとか無かったよね?」
「……えっ!?」
「ルーシェリア様はタイムマシンって言葉を知ってるのですか?」
あかんあかん……この世界で使う単語じゃないな。
「いやいや、そういう文献もあるんだよ」
と、適当に誤魔化していると、
「きっとわたしは罰を受けたんだわ……ごめんね……ナユタくん……」
「ナユタ……」
その名を聞いて俺は戦慄を隠せなかった。
心配したようにメアリーが、
「ルーシェ様、一体どうしたのです? 彼女が何か言ったのですか?」
「う、ううん……何でもないよメアリー」
もう捨てた名であった。
過去の俺の名だ。
漢字に直すと那由他である。
こんな状況で思わぬ名を聞いたもんだ。しかし清家は何でナユタに謝罪したのだ?
ここで尋ねるのはヘンなのだが、それでも俺は気になってしまった。
「そのナユタって者は何者だ? そいつが黒幕なのか?」
「違う……違うんだ……その子はわたしに勇気を振り絞って告白してくれた男の子の名前だよ……」
でもお前……逃げるように去って行ったよな……。
「わたしも……いじめられると思ったんだ……わたしは卑怯者なの……本当はずっとナユタくんが気になってた……」
顔面偏差値がカースト底辺だった俺が今更そんな話を聞いても素直に喜べないのだが、話を聞いていると嘘を言ってるようには思えなかった。
しかも校舎を抜けた彼女は、ずっと罪悪感を抱きつつ、一人苦しんでいたらしい。
つまり要約するとイジメに遭っていた俺と仲良くすることで、自分もイジメの対象になることを恐れたということだ。
そこまで清家の話を聞くと俺も情が湧いてくる。考え込んでしまう。
元から涙目だった清家なのだが、今度は澄んだ瞳で、
「ルーシェリア王子……わ、わたしは……処刑されるのですか?」
処刑は決定事項だ。
いくら王子の俺でも簡単には覆せない。
彼女にそう伝え、俺達は清家の繋がれている牢屋をでた。
清家は縋りつくように鉄格子を握りしめ啜り泣くのであった。
改稿作業してて切に思うのですが、以前頂いた感想がとても役にたってます。
感謝してます!




