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第三十三話「夜明け」

※改稿済み(2017/4/16)

「ルーシェ様は、まだ7歳ですよ。結婚とか言う話は早すぎます!」

「あ、へ……ちょ、ちょっとメアリー!」


 メアリーは頬を膨らませつつ、俺の魔法衣の袖を引っ張った。

 ドロシーは〝ぽか~ん〟と口を開け、まるで夢から目覚めたかのように、視線を逸らしキョロキョロとした。


 ひょっとして……メアリーは俺に対してやきもちを妬いたのか? 

 

「ルーシェ様はまだ7歳なのです。それに……」

「それに……?」

「だって……」

「だって?」

「もう、いいですっ!」


 ミッドガル王国では10歳で成人扱いされるのだが、実際に10歳で結婚した話は聞いたこともない。せいぜいあっても婚約が関の山だ。


 しかしメアリーが俺にやきもちを妬くとはなぁ。

 確かメアリーは16歳で、ドロシーは300歳以上のロリババアだよな。

 二人は結婚できる年齢だろうけど、俺は7歳だぞ? 精神年齢は29歳+7歳なのだが、見た目はピカピカの小学一年生なのだ。新品のランドセルを背負っていても不思議じゃないのだ。とてもじゃないが、ラブコメチックなアバンチュールまでの発展など到底ないと踏んでいた。


 が、しかし。


 メアリーが俺にやきもちを妬いてくれたなら素直に嬉しい。

 

「ねぇ、メアリー?」

「申し訳ありません……ルーシェ様……とても素敵なお話でしたのに……私」


 メアリーはしゅんとしたように落ち込んだ。怒ってもない。喜んでいるようにも見えないのだが、笑顔だ。でもその笑顔は悲しみを堪えつつ、見繕ったような笑顔だった。


 まずったかもしれない……。


 俺も薄々と感じていたのではないのか? メアリーの俺への接し方は単なるお目付け役という職務だけの接し方ではないと。恋愛感情に似た何かが芽生えてるんじゃないかと。


 でもさ……俺7歳児だもんな。だから気のせい……そう考えるようにしていた。

 だって……ヘンに期待して爆死したくないだろ? 高校時代の時のようにさ……。


 この身体の7歳までの記憶――――それがない俺はメアリーに対し知らず知らずのうちに慎重になっていたのかもしれない。メアリーは俺が生まれた頃から傍にいる。突然、俺が豹変したら彼女が引くだろ? こんなのルーシェ様じゃない〝いやっ!〟なんて拒絶されたら心が折れそうだったからな。


 ……俺はこの世界で俺自身の謎も解き明かさなくてはならない。

 なんちゃってな。


 高校時代のクラスメート達は召喚勇者とかって呼ばれているけど、俺は何なの? この身体が過去の俺の肉体と別ものなら、これは異世界転生だと納得できたのだが。そうじゃないしな。


 もう過去のように人生を投げ捨てたらダメだ。そう過去? 過去なのか?

 どうして俺はそう感じたのだろう。まっ、いいか。


 とにかく過去のように、いつまでも豆腐メンタルヒキニートじゃダメだ。

 俺が彼女達を守らないといけないのだから。


 未来で起こりえる惨劇。打ち勝つには俺自身が成長しなくてはならない。

 強い意志で未来に挑まなくてはならない。未来から来たドロシーとマリーとの約束を果たしたい。


 俺の娘、マリーはたぶんメアリーとの子どもだ。

 そう考えつつ、俺は優しくメアリーの名を呼ぶ。


「ねぇ、メアリー」

「あ、はいっ……」

「メアリーにも大切な話があるんだけどさ。聞いてくれるかな?」


 俺がそう言うとメアリーは悲しげな瞳を向けてきた。迂闊なことを口走ったら泣き出しそうな顔をしていた。


「えっと、僕が病から目覚めた日の翌日だったかな? マリーって少女のことを僕は君に尋ねたよね? 覚えてるかな?」

「あっ! はいっ! もちろん覚えてますよ。マリーちゃんでしたよね?」

「実はね。未来から来たのはドロシーだけじゃないんだよ」

「……えっ!? そうなのですか?」


 マリーはメアリーに凄く懐いていた。あの時は姉妹のようだなぁと感じたものだったが、マリーのママだったから、照れくさくて俺に言わなかったのかもしれない。あくまで仮定の話なのだが、髪の色も瞳の色もマリーは俺とメアリーにそっくりじゃないか。

 

 それに過去の知識だとメアリーはマリアの英語形であり、マリーはマリアのフランス語形だ。それって偶然なのか? マリーの名は俺が付けたってマリーは言っていた。

 つまり、それを知っている俺がそう付けても不思議じゃないのだ。


 さらにマリーの正式な名はマリーステラだ。『ステラ』はラテン語で星を意味する言葉。


 空を見上げた。

 夜空には美しい星の海が広がっている。

 今夜は未来の俺にとって、大切な思いでの日であったに違いないのだ。 


「ルーシェ様……そ、そのう。その子が私とルーシェ様との間に生まれた……」

「うん、そうだよ。雰囲気もどことなくメアリーに似てたしね」


 メアリーは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうだ。

 でもメアリーはマリーのことを覚えてない。とても残念そうだ。

 やっぱりメアリーは俺のことを好いてくれてるのかもな。ドロシーのようにあからさまに嬉しさを表現してくれないが、メアリーの表情が晴れやかだ。


 だが――――もう一つ重要なことがある。未来でメアリーは殺されていると聞いていたのだ。だが、そこは伏せておいた。


 郷田が死んだことで未来が変化したかもしれないが、だからと言って人は交通事故で突然死することだってある。剣と魔法の世界だ。魔王だっているらしい。何が起こるか想像つかない世界だ。


 俺が強くなればいい――――それだけだ。そして家族を守る。


 大切なものを守る為に生きていく。

 そこにどんな苦難が待ち受けていようと、メアリーとドロシーが、傍にいれば俺の心はくじけることはない。今は心からそう感じた。


「あ、王子っ、メアリーさん! 流れ星なのですよ!」


 ドロシーが流れ星を指差した。

 俺とメアリーも星空を見上げる。


 流れ星かぁ……。

 そういえば魔逢星ってなんだろう……。

 シャーロットが、かつて経験したような魔神戦争が本当に起こりえるのだろか?

 勇者に魔神か……本当にここはゲーム。いや……厳しい世界なんだなぁ。



 楽しい時間は直ぐに流れたようで、ふと気がつけば日が昇り始めていた。


 新たなる夜明けだ。


 黎明の魔術師、ルーシェリア・シュトラウス。

 この世界での俺の名だ。


第四章【完】です。次回から新章に突入します。

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