第三十二話「やきもち?」
※改稿済み(2017/4/16)
召喚勇者達と同じ世界の記憶があることを伝えたら、二人とも驚いてきょとんとした。
そして、暫しの沈黙。
なんだ俺だけがその場に取り残されたような微妙な空気。アウェイ感半端ない……。
言葉にしてハッとしたのだが……それって俺自身がこの世界の住人であることを否定しているかのようだ。得体のしれない存在。特にドロシーにとって異世界から召喚されてきた勇者達は畏怖の対象……いや、忌むべき者かもしれない。
――――ああ。
突如、俺の脳裏に激しい後悔の念が押し寄せてくる。
メアリーもそうだ。召喚勇者達の存在を快く思っていない。氷漬けになった郷田にメアリーが向けた視線は、冷酷で蔑視の感情が色濃くでたものだった。
後悔だ。迂闊だった。嫌われてしまう……
二度目の人生早くも詰んだ……
彼女達の沈黙が長い……
それが答えだ。
たまりかねた俺は小さく口にした。
「嫌われちゃったよね……」
悲しみで涙が零れそうだ。
しょぼんと項垂れていると、全身が温かいものに包まれた。
メアリーがそっと抱きしめてくれていた。
あれれ……? なんで? 急にメアリーが抱きつくものだから、ドロシーが頬を染め目のやり場に困ってる。何だかそんな雰囲気。
「私は誰よりもルーシェ様のことをわかってるつもりでした。それなのに……何も気づけてなかったのですね……ごめんなさい……」
土下座で済まないと思っていたが、逆に謝られちゃったぞ……?
「お、王子が召喚勇者達と同じ世界の記憶を保持していても、王子は王子なのですよ。王子はわたしを助けて……」
ドロシーは途中で言葉を濁した。何を言いかけたのだろう。
二人は絶対に俺の心を裏切らない。俺の独りよがりだった……素振りだな。
そして、ドロシーは髪をいじりながら、
「いつまで抱き合ってるのですか? 今夜の星はとても綺麗なのですよ」
ポツリとそう言った。
打ち明けたら気持ちが軽くなった。彼女らは迷うことなく俺を受け入れてくれた。
ドロシーに会いに来て良かったな。
しかし、ここからが本題だ。
だが、もう躊躇う必要はない。
未来から来たドロシーが俺の将来の嫁であったことを話す。
「わ、わわわ……わたしが王子のお嫁さんなのですかっ!」
「うん、信じられないかもしれないけど……未来から来たドロシーがそう言ったんだよ」
「わたしが……わたしがですか……」
ドロシーは取り乱したように動揺し、頬を真っ赤に染め、
「王子、嘘でも嬉しいのです。とっても幸せなのですっ!」
「う、嘘じゃないよ! 作り話みたいだけど本当なんだよっ!」
もじもじと照れているドロシーは可愛いな。
未来から来たドロシーは300歳を越えていると言ってたけど、どこからどう見ても少女だな。メアリーよりも幼い容姿だし、これが記憶にある29歳の世界なら、犯罪的だな。
でも、ドロシーは魔族の血が混ざってるって言ってたから、寿命が長いんだよな。
「王子の話……わたし信じます。よろしくお願いなのです!」
ドロシーは将来、俺の嫁になることを受け入れてくれた。
本来ならこんな突飛な話、信じろと言うほうが無理があるのだが、あっさりと信じてくれた。なんでもドロシーは時を旅する魔道具の研究に没頭していたそうなのだ。
こっそり内緒で。禁忌なのに。
でも、だからこそドロシーは信じてくれたのかもしれない。
「王子……あ、あのう……今のお話は秘密にしてほしいのです」
「あ、うん……わ、わかってるよっ!」
「はいっ! ありがとうなのです!」
バレたら大変だよ……ほんと……お邸にあった『黄金の夜明け』にも禁忌を侵した者は、魔法都市の地下牢に投獄されると書いてあったし……。
俺を信頼して話してくれたんだよな。そう考えると嬉しいぞ。
「王子っ!」
「なんだい?」
「まるで、夢物語のようなお話なのであります」
ドロシーは夢見る乙女のように、とろんとしていた。
「で、でも……わ、わたくしドロシーは王子に相応しい存在なのでしょうか? わたし……わたし……嬉しくて死にそうなのです!」
「あはは……」
いくら未来で俺の嫁であったとしても、この時代では初対面だよね? ……ちょっと大袈裟に喜び過ぎじゃないの? 今まで一言も会話を交わしたことがないんだよね? 実は俺、凶暴なヤツかもしれないぞ?
でもでも、素直に嬉しいぞ! こんな経験、初めてだからな。
自覚するとちょっとした放心状態で頭が真っ白になってきた。ドロシーじゃないけど俺も夢心地なんだろうな。
幸福感に酔いしれていると、軽くつんつんされた。
メアリーだ。
彼女は頬をぷくっと膨らませていたが、もの悲しげな雰囲気も漂わせていた。




