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第三十一話「告白」

※改稿済み(2017/4/16)

 さて、二人に未来から来たドロシーとマリーの話をしようとしたが、チキンな俺は早くも躊躇ってしまった。


 ドロシーが未来から時空を操る魔道具を使って、この時代に来たという話だけでもぶっ飛んでいる。またそれとは別に7歳までの記憶を失っているのだが、それ以前の記憶があることを打ち明けようと思ったからだ。


 その記憶はこの7歳児の身体が馴染んでくるほど、不思議と鮮明に思い出せてくる。

 それは同時に存在する別の記憶の中にある苦い経験も彷彿させた。

 『告白魔』という不名誉なあだ名だ。あの日、あの場所、あの時のことが、脳裏に走馬灯のように蘇る。


 俺自身はこの奇妙な現象を日々消化できているのだが、彼女達にしてみれば奇想天外な話。気味が悪いと思われないだろうか。


 そう考えるとトラウマなのか、胸が不安でいっぱいになってきた。

 戦場にばらまかれた地雷を自らの意思で踏みにいくような心境だ。過去の二の舞にならないだろうか。

 

 ああ、不安でしょうがないよハリエット。……って誰だっけ?


「ルーシェ様? どうしたのですか? 何か思い詰めたような顔をして?」


 メアリーが心配そうに声をかけてくれた。彼女はいつも俺を見ているよな。

 

「う、うん……大丈夫。何でもないよ」


 そうだな。無駄に心配させたらダメだよな。ここにいる俺はブサメンヒキニートじゃない。メアリーもドロシーも俺をけして裏切らない。絶対に……心からそう思える。過去の呪縛に囚われる必要などないじゃないか。それなのに何故? 俺は不安なんだ?


 メアリーの手が俺の手に優しく重なった。


「ルーシェ様、何があってもメアリーはルーシェ様の味方ですよ」


 彼女のその言葉は俺の心中を察して? ……でたのか? 微笑みかけてくれるメアリーの瞳の中に吸い込まれそうだ。彼女は俺が生まれた日よりずっと傍にいてくれた存在。ずっと俺を大切に想ってくれていた存在なのだ。


 失いたくない――――あっ!


 そう思った時に、全身に稲妻のようなものが走った。


 確実性だ。確実性が乏しいのだ。

 郷田は死んだ。しかしその後も俺は不安を拭えなかった。何かしらの違和感を覚えていたのだ。ドロシーに聞かされたこの世界での未来での惨劇。そして、この世界で俺が手に入れた大切な者達。それを失ってしまうかもしれない恐怖に怯えていたのだ。

 

 そう、まだ見ぬ未来に確実なことなんてある訳がないのだ。

 魔逢星の件だってある。


 過去の記憶同様に部屋に引き籠ってるような心境じゃダメなんだ。

 本気で生きると決心したはずだ。

 誰も失いたくない。今度こそ幸せな家庭を築くのだ。


 躊躇うな俺。

 

「メアリー、ドロシー、二人に大切な話があるんだ」


 ちっぽけな勇気を振り絞った。俺の勇気が未来を大きく変えることを信じて。

 二人とも息を詰めるかのように、その場の空気を読み察してくれた。

 

 まずは記憶のことから話すか。記憶喪失になっていることはメアリーは知っているが、その先にある別の記憶があることは、まだ話していない。

 

「メアリー、前に話したよね。僕は記憶喪失になっているって……」

「ええ、もちろん覚えていますよ。未だに何も思い出せてないのですか?」

「うん……そうなんだ」


 本当の意味では記憶を失っていない。ブサメン時代の記憶が俺にはあるからな。

 そういう意味ではメアリーに嘘をついていたような気分だ。そう言わざるを得なかったのだ。


 そして、この身体の7歳までの記憶がない話をしたらドロシーが動揺の色を見せた。


「そ、そうなのですか王子……?」

「うん、そうだよ。学園時代の記憶も今の僕には何一つないんだ」


 何となくドロシーががっかりしたように見えた。


「ルーシェ様……私……」


 メアリーは薄々感じていたようだ。俺の記憶が未だ戻ってないことに。

 でも、敢えて触れずにいてくれたようだ。俺の気を煩わせることがないように。


 ここからが本番だ。未来から来たドロシーの話、そしてもう一つの記憶があることを打ち明けるのだ。


 ドロシーの青い瞳が月明かりを反射し、神秘的な海のようだ。


「あのねドロシー。僕は少し前に君と出会ってるんだよ」

「え?」


 ドロシーは意味が分からないという感じで首を傾げ、


「王子は記憶を失ってるんですよね?」

「うん、そうなんだけど、それは魔法学園での話ではないんだよ。信じられない話かもしれないけど、未来からドロシーが俺に会いに来たんだよ」


 ドロシーの首がさらに傾き、メアリーは指を咥えた。


「さらに言うと、僕には7歳以前の記憶があるんだよ」


 

 彼女達が困惑している。言っていることが支離滅裂だからだ。


「意味が分からないと思うけど、本当なんだ。しかも……7歳以前の記憶はこの世界とは違う世界の記憶なんだ」

 

 ついに言い切った。言ってしまった。

 けれども要点だけかいつまんで話しただけなので、彼女達はまだ何も理解していない。

 緊張していたとはいえ、我ながら不器用な話振りだ。


「違う世界ってなんなのですか?」


 メアリーが聞いてきた。


「僕にもあるんだよ。召喚勇者達と同じ世界の記憶がね」


 二人とも驚きを隠さなかった。


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