第二十六話「お出かけ」
※改稿済み(2017/4/6)
翌日の朝。
「ルーシェ様、冗談が過ぎます! ダメと言ったらダメです!」
「僕は本気だよ。別に大丈夫だって!」
「何が大丈夫なのですか!」
朝からメアリーと言い争っている。竜王様に会いに行くと伝えたら、メアリーが猛反対するのだ。
なぜなら竜王様はミッドガル王国より召喚勇者歓迎の晩餐会に招待され、その道中に不意打ちを受けたのだ。その怒りは計り知れない。そんな状況の中、のこのこと出向いたら、その身を危険に晒すだけだとメアリーが言い張るのだ。
「ぜ~ったいダメです! こればかりはいくらルーシェ様のご命令でも従えません!」
今回の件に関しては国王も頭を抱えている。首謀者が法王庁所属のシメオンであったとしても、公式に招いたのはミッドガル王国なのである。どんな言い訳も通じない状況なのだ。千年以上、培ってきた信頼が崩れ去り、対立の構図が生まれてしまうのは誰にでも容易に想像がついた。
けどな……だからこそ俺はじっとしていられない。ドロシーも心に傷を負ったかもしれない。ドロシーのことが心配なのだ。ドロシーの助けになってあげたい。何よりも会いたいのだ。
しかし何を言ってもメアリーは俺の話をまともに聞いてくれない。断固反対するだけだ。
そのメアリーが澄ました顔で言う。
「ルーシェ様の足元も、ほうきを掃くので動いて頂いても、よろしいでしょうか?」
「う、うん……」
ひょいと移動する。素直に従ったのにメアリーは俺を不満げに睨む。
「だいたいルーシェ様はどうして、そんなに竜王様にお会いしたいのですか?」
「そ、そりゃあ……心配だからだよ」
「ルーシェ様が心配してもしょうがないのです。陛下にお任せしておけばいいのですよ」
メアリーの言うように、これから謝罪の使者が竜王様の元へ飛ぶことになるだろう。
その使者が死者にならなければいいのだが。
「で、でも……」
「でもじゃないです!」
……どう話したらメアリーは納得してくれるのだろう。素直に話そうかな……ドロシーに会いたいって。
「竜王様の側近に凄腕の魔術師がいるんだよね?」
「ええ、前にルーシェ様がお尋ねになったドロシーさんですね」
「うん、そう、そうだよ! 僕って魔術師だろ? 彼女がどんな魔術師なのか興味があるんだよ!」
しかし、メアリーは深い溜息を吐きつつ、眉をしかめた。
「どうしたらルーシェ様は諦めてくれるんですか?」
「うーん……」
「他のことなら何だっていたしますよ?」
本当なのかな? 何でもって嘘じゃねーだろうな!
「だったら……おっぱい揉ませてくれない?」
「……えっ!? な、なに言ってるんですか!」
メアリーの顔が瞬時に赤くなった。
俺は唐突に何を言ってるんだ? ……流石にまずかったよな……欲望丸出しじゃないか……ああ、後悔だ。
「で、でも……ル、ルーシェ様が……それで竜王様へのご訪問、お諦めになるのでしたら……好きなだけ揉んでください!」
戸惑いつつもメアリーはそう言った。揉んでも良さそうな雰囲気だ。そして彼女は頬を膨らまし、そっぽを向いた。
その仕草、可愛い。たまらんぞ。揉みたい揉みたい揉みたい……でも揉んだら俺の負けだ。ドロシーに会いに行けなくなってしまう。精神的優位に立てなくなってしまう。
本気で悩んでると、騒々しく階段を駆け上がってくる物音が鳴り響いた。
このお邸にはメアリーと俺の他には執事として雇われた若き騎士、ウルベルトしかいない。両親は国王の命を受け、ユーグリット王国へ向かっている最中なのだ。
ドアがノックされる。ドアを開けたらやはりウルベルトだ。
そのウルベルトの表情がやけに険しい。息も切らしている。早朝から王城へ出仕していたはずなのだが、何かあったのだろうか。
「大変です! 坊ちゃん! シメオンが毒殺されました!」
「えっ!? な、なんだって!」
ウルベルトの話によると、シメオンが昨晩とった食事に毒が盛られていたようなのだ。
何者かの手による暗殺かもしれない。
まずいことになった。シメオンの独断で竜王様を襲撃したとは考えられない。
シメオンに指示した黒幕がいるはずなのだ。黒幕が謎のままでは竜王様に対して弁解の余地が立たなくなる。
また、それとは別にウルベルトはもう一つ話を持ってきた。
第一の勇者であった郷田が死んだことにより、新たな勇者が現存の召喚勇者の中から選抜されるようなのだ。それはそれでウンザリだ。その勇者が第二の郷田になりかねないからだ。
俺もメアリーもウルベルトの報告に驚いたものの、メアリーは話が終わるとまた不機嫌そうになった。俺が見つめると相変わらずぷいっと顔をそむけるのだ。このバトル。ウルベルトの報告でリセットされたと思ってたのになぁ……。
「で、メアリー殿。何かあったのか?」
俺とメアリーを交互に観察したウルベルトが、場の空気を察したようにメアリーに問いかけた。
「聞いてくださいウルベルト様……ルーシェ様ったら竜王様に会いに行くって、お諌めしても聞いてくれないのですよ」
「……ほう、竜王様に会いに行くと?」
「はい、そうなんですよ。ウルベルト様からも厳しく言ってあげてください」
「ふーむ、実に面白いじゃないか!」
「えっ!? ど、どうしてです?」
ウルベルトの意外な言葉にメアリーが戸惑いを見せた。
その途端、俺の目はきらめいた。
「竜王様は寛大なお方です。この件を解決したら坊ちゃんの株が上がること間違いなしでしょう!」
「で、でも……危険すぎます!」
「なあに、心配ないですよ。まずは一般人のフリをして竜王様に会いに行ってみましょう」
ウルベルトの話によると、普段なら誰でも気軽に竜王様にお目通りが叶うそうなのだ。
今は状況が状況だけにどう転ぶかは分からないのだが、竜王様の様子を窺ってから判断しようという話に纏まった。
本来の竜王様は慈悲深くお優しい方だそうだ。一般人のフリをしていれば何も問題はない。
メアリーも渋々同意してくれた。よし! 即刻出かけよう。でも……どんな服があるんだ?
「ルーシェ様……」
「はい?」
「お着替えにどんだけ時間かけてるんですか!」
ドロシーに会うのだ。なるだけおしゃれしていきたい。
「だったらこれなんかどうですか?」
メアリーがクローゼットからローブを持ってきた。
おお! 何気に悪くない。
しかもこれは俺のお気に入りの服のようなのだ。
魔法学園卒業の日に、俺の師匠がプレゼントしてくれた魔法衣らしく、魔法防御が高いらしい。しかも、カッコイイ。
丈が長く全身をすっぽりと包みこめる感じで、青を基調に白い縁取りがある。アニメの主人公が着てそうな服だ。
よし、これに決めたぞ!
「……ってか……君達?」
ウルベルトは騎士とは呼べないような、粗末な衣装を纏っていた。
見るからに貧乏そうだ。
メアリーに関しては、もはやただの街娘にしか見えない。
あれだけ猛反対していたのに、今のメアリーの表情はやんわりと緩んでいた。




