第二十二話「ルーシェリア・シュトラウス」
※改稿済み(2017/4/2)
――――突如、この戦い場に異変が起きたのだ――――
音が聞こえない。
――静寂だ。
シャーロットの奏でる声音も。
郷田の呻き声も。
二人の位置を中心とした一定の範囲から、物音ひとつ聞こえてこない。
俺は同時にその場を支配する魔力を感知した。
シャーロットは口パク状態になっている。
郷田を締め上げていた樹の根が、地面へと還っていく。
シャーロットもこの異変にハッと気がついた。
俺は魔力の流れを追跡。目があった。間宮だ。
間宮が魔術で後方支援していたのだ。
この魔術は沈黙。一定範囲内の音を消しさる高等魔術だ。
シメオンはにやりと厭らしい笑みを浮かべ、間宮を褒めていた。
あいつが指示してやらせたのか? 汚ない手を使うやつだ。
何が神聖な戦いだ。そんなもんは最初から無かったんだ――――
自由になった郷田は地面の剣をゆっくりと拾い上げ、シャーロットを睨む。
さすがのシャーロットも成す術がないのだろうか。後ずさる。
郷田が豪快に笑う。
「ファッハハハッ、勇者のオレ様にそんなチンケな術。通用する訳ねぇだろうが! 貴様は殺す! 絶対ぶっ殺す! ぎったぎったに切り刻んでやる!」
「白目剥いて死にかけていたのに、よく言うわね……」
シャーロットは皮肉りつつも、郷田の変貌ぶりにかなり警戒している。
郷田の全身が気を纏うかのように発光し、その光がボロボロになっていた郷田の鎧を粉砕。
上半身裸が裸となり、筋肉が隆々と盛り上がる。筋肉は鍛え抜かれた鋼のような光沢を帯び、その姿はまるで、怒りに打ち震えた七つの傷を持つ男のようだった。
ぶっちゃけヤバそうだ。郷田の筋力はさらに上昇したようで、両手振りの大剣を片手で軽々と弄んでいる。郷田は何か特殊能力でも持っているのだろうか。
その疑問にウルベルトが答えてくれた。
「坊ちゃん……あの技は戦士の技ですよ」
「戦士の技?」
「ええ、それもかなりの素質が必要な技ですよ。体内の魔力を闘気に変換し、身体能力を飛躍的に高める技なんです」
ウルベルトの話によると、先ほどヴィンセントが使ってきた技も闘気系の技らしかった。
「大丈夫かな……シャーロット?」
「心配には及ばないでしょう。彼女は伝説の六英雄。ミッドガル王国を建国した英雄王と同格の強さなんですよ。シャーロット殿が負ける訳ありませんよ。あははは」
ほんとかよ? ラスボス感が半端ない……シャーロット大丈夫なのかな?
心配していると、骨山が復活した郷田にぷるぷる震えながら声を投げかけた。
「さ、さすが郷田君だよ。さくっと殺しちゃいなよ」
「う、うるせぇぞ! 骨山! 貴様は黙ってろ! この女を殺し、そこのクソ王子の取り巻きも皆殺しだ!」
怒り心頭のようだ。死にかけていたんだからな。
「おおっ! 素晴らしいぞ! さすが第一の勇者だ。その娘を殺し生贄に捧げるのじゃ!」
シメオンのやつ壊れたのか? 精神が崩壊しちまったか? 女神が生贄求める訳ねーだろうが!
それにしても間宮のやつ……味な真似をしてくれたな。圧倒的勝利だったのに。
しかも王様とオースティン公爵の両名は、郷田の呪縛が解けた理由も理解できてないようだ。
ヴィンセント王子は、気が付いているようだが……だんまりかよ!
郷田がシャーロットに猛攻撃を仕掛ける。粗削りな郷田だが、筋力、素早さが格段に跳ね上がっている。シャーロットは郷田の剣撃を避けるだけで、精一杯のようだ。
師匠の危機にフィルが勇み立つ。
「ぼ、僕のせいだ! 僕がお師匠様を助けるんだ!」
てか無理だ。悪いけどフィルじゃ足手まといになるだけだ。
なので、俺は身を呈してフィルを制止した。
「ルーシェリア、邪魔だよ。どいてくれ!」
「ダメだ……絶対にダメだ!」
俺でも引き算ぐらいはできるからな。マイナス壱が弐になるだけだ。
シャーロットの息が上がってきている。もう時間的猶予が無い。俺がでるしかない。
俺は一歩踏み出した。
「ルーシェ様、何をお考えですか?」
「あいつら、神聖な決闘とか言いつつ、インチキしてるんだ」
「あの骨山とかいう者の投石の件でございますな」
「違うよウルベルト。そうじゃない。間宮が沈黙の魔法を使って、シャーロットの魔法を無効化したんだよ」
フィルは頭に血が上り、怒りで拳を強く握り締めた。
「そうだったのかルーシェリア! もう許せない!」
フィルが駆けだしそうになる。慌ててウルベルトがフィルを掴む。
「離せ! ウルベルト!」
「だ、ダメです絶対に離すことはできません! お父上を悲しませたいのですか!」
「で、でも……師匠が!」
「心配無用です。このメアリーが不正を正します! ですからフィリップ王子、落ち着いてください!」
俺はメアリーのドレスを掴み首を振った。
「メアリー、それもダメだよ。僕がやる。このくだらない戦いを終わらせるのは僕の役目だ。だって僕は『黎明の魔術師』ルーシェリア・シュトラウスなんだろ?」
「ル、ルーシェ様……で、でも……」
「メアリーを危険な目に合わせる訳にはいかないよ。君は僕の大切な人なんだから」
「ルーシェ様……お願いです。絶対に死なないで……私を悲しませないでください」
「心配ないよ。一瞬で終わらせて来るよ」
この身体には7歳以前の記憶が無い。記憶はないけど、生きてきた軌跡はあるんだ。
もしこの俺にその記憶があったら、もっともっとメアリーのことが大好きなはずなんだ。
そのメアリーを俺は悲しませたくない。メアリーの前では強くありたい。
シャーロットが転んだ。郷田が薄気味悪い笑みを浮かべ、大剣を振りかざした。
瞬時に魔術術式を脳裏に描き、俺は岩砲弾を撃ち放ち、風の魔術で疾風し郷田の前に立ちはだかった。
「もう茶番はおしまいだ。僕がケリをつけてやる!」




