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第二十話「条件」

※改稿済み(2017/4/2)

 颯爽とフィルと郷田の間に割り込んだシャーロットに、郷田が訝しい視線を飛ばす。


「お前、誰だよ? 邪魔すんじゃねえよ」


 郷田の言葉など聞き流すように、シャーロットは涼やかに言った。


「私もあなたに決闘を申し込ませて頂きますわ」

「はあ? 何言ってんだ……おめぇ……」


 シャーロットは爽やかに微笑んだ。そのシャーロットを郷田は厭らしい目付きで舐めまわす。


「まあ悪くねぇな。こんなクソガキを相手にするより、こっちの方が愉しめそうだ!」


 しかしフィルがシャーロットに抗議した。


「師匠、この戦いは僕から彼に挑んだんです! 戦いの優先権は僕にあります。僕はこんなやつになんか負けません! この郷田だけは許せないのです!」


 フィルはそう言うと、郷田を睨み指差した。

 

「フィリップ王子、あなたがどんなに喚こうが無駄よ。私は国王陛下との契約を忠実に遂行するだけだわ」


 シャーロットは、一枚の紙を取出し、周囲の者達に見せつけた。

 シャーロットと国王の間には、とある契約書が交わされていたのだ。

 その契約書の一文にこうあった。


『如何なる状況下であっても、フィリップ王子の命を死守することが最優先である』


 つまりフィリップ王子の身に危険が及んだ場合、彼女の意思に関係なくシャーロットはフィリップ王子を守り通さねばならない契約なのだ。


 うん、実に素晴らしい契約だ。強引ではあるが、シャーロットの立場からしてみれば、理に叶っている。誰にも文句は言わせないぞ。


「で、でも……師匠! ぼ、僕は……」


 フィルは困惑している。シャーロットのその言葉は、郷田よりフィルの方が実力が劣っていると暗に示しているようなもんだからだ。


 シメオンが慌ててシャーロットに抗議した。


「こらこら、何をしておる! この決闘は神聖な戦いだ。決闘を穢すつもりか? 乱入など以ての外である。実にけしからん!」


 声を荒げるシメオンに対し、シャーロットも強く言う。


「これが神聖な戦い? バカにしないでほしいわ」

「な、なんと……! か、神を冒涜するのか!」

「いいえ、冒涜してるのはあなたの方よ。こんな決闘を女神アリスティアは、お望みではないですわ。むしろ悲しんでいらしゃいますわよ」

「何を申すか! この背教者め!」

「あなたには何を言っても無駄の様ね……」


 シャーロットが肩を落としたように溜息をつく。

 すると、郷田だ。


「おいおい、司祭のおっさん。オレ様は別に構わないぜ!」

「し、しかし……それでは……」

「おいおい、勇者のオレ様に楯突く気かよ?」


 郷田の言葉にシメオンが動揺の色を見せた。その心の隙を突くかのように、シャーロットがさらに言葉を続けた。


「それに私にも戦う理由があるのよ。先日、竜王様を襲撃した件よ」

「竜王など知らぬ! この戦いに関係ない話ではないか!」


 何か焦ったようにシメオンが否定した。


「ふ~ん、そうなのかしら? ねぇ……郷田君?」

「……はあ? 何が言いたい? 勇者が竜王を懲らしめて何が悪い? なぁそうだろ骨山?」

「そうだそうだ! 郷田君のいう通りだぞ!」


 骨山が郷田に同調したように擁護する。

 清家と間宮はその様子を黙って見ているだけだが、その顔色は何か後ろめたいことを隠しているような、罪悪感が滲み出ているような気がした。

 

 その後も、シメオンはなんだかんだとシャーロットに抗議していたが、その論点は既にズレまくっていた。そうまるで竜王など知らぬ。その一点張りだ。


「もうよい! 見苦しいぞシメオン!」


 怒鳴ったのはオースティン公爵である。

 

「郷田が二人の挑戦を受ければ良いだけの話であろう。双方ともやりたがっているのだ。好きにさせてやれ!」


 シメオンはオースティン公爵に頭を下げつつも「ぐむむ」と、不服そうに唸っていた。

 そしてシャーロットが勝ち誇ったように、


「国王陛下、それから公爵? お認め頂き感謝いたしますわ!」


 そのシャーロットの言葉に安堵した国王が立ち上がろうとしたその時だ。

 ヴィンセント王子が国王の腕を鷲掴み、黙ってろと言わんばかりに強引に着席させたのだ。

 あれはいくら身内とは言え、国王に取る態度では無い。非礼極まる行為だ。

 俺から注意してやろう。と、思ったのだが、ウルベルトがキレた。


「今の陛下への振る舞い! 無礼であるぞ! ヴィンセント!!!」

「無礼なのは貴様だ。身分をわきまえよウルベルトよ」


 ウルベルトは全身を震わせ、ギリギリと奥歯を噛みしめる。このままヴィンセントに飛びかかりそうな勢いだ。流石にそれはマズイ。ウルベルトを失う訳にはいかない。俺はウルベルトをなだめた。


「も、申し訳ありません……坊ちゃん……」

「こんなことで大切な執事を失う訳にはいかないよ」


 無闇に王族に逆らうと不敬罪を問われかねない。とりあえず大事に至らないようだ。

 ヴィンセントはさほど気にしている様子が無いのでほっとしたのだが――――その刹那、


 ヴィンセントがその三白眼から強い波動のようなモノを飛ばして来たのだ。

 その波動を一身に受けたウルベルトが、恐怖に取りつかれたように震えだし、膝をつく。しかもその眼は死んだ魚のように放心状態であった。


 その影響はメアリーにもあった。メアリーもウルベルト同様、その表情が蒼白になり、倒れそうになったので、俺は彼女を強く抱きしめた。


「くっそ……あいつ何をしやがったんだ? 魔力をまるで感じなかったぞ! 魔術じゃないのか?」

「ル、ルーシェ様……ご、ごめんなさい」


 しばらくすると、二人とも正気を取り戻してきた。恐らく何か一時的な効果を発揮する技なのだろう。そう二人は一時的な恐慌状態に陥ったのだ。


 郷田が悪態をついていた。


「なあ、もういいだろ? いい加減、始めようぜ?」


 そう言いつつも郷田は、シャーロットに戦う条件を示した。


「エルフの姉ちゃんよ、クソ王子の前に決闘を受けてやる! ただしオレ様にも一つだけ条件がある。あんたも契約を盾にしたんだ。だったらオレ様が勝ったら、オレ様の奴隷になる契約を交わしてもらうぜ!」




 とんでもない条件なのだが、シャーロットは薄くほくそ笑むだけであった。


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