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第十九話「森エルフ」

※改稿済み(2017/4/1)

 この身体にあるはずの記憶が失われている俺は、ミッドガル王国の王宮事情に疎い。

 疎いのだが、この場の空気に激しい違和感を覚える。ドス黒い何かを感じる。もし俺の不安が的を得ているのであれば、フィルは窮地に立たされている。そう言っても過言ではない。


 国王エイブラハムの表情は辛辣だ。大切な一人息子が死んでしまう可能性を孕んでいるのだから。国王の妻であるお妃様は、フィルを生んでしばらくした後、この世を去ったらしい。フィルにとっても国王にとっても唯一の肉親であり家族なのだ。


 こんな決闘は即刻中止にしたいはずだ。どうして国王は一喝して決闘を中止に追い込まないのだ?

 それが出来ない理由でもあるのか? その理由が国王の両翼に控えている二人にあると考えるべきなのか?


 オースティン公爵とヴィンセント王子は冷静沈着だ。言い方を変えると冷酷無比といえよう。


「坊ちゃん……シメオンのヤツ……裏切ってるやもしれませぬぞ?」


 ウルベルトもこの場の異様な空気を察し、その表情には緊張が見てとれた。


 シメオンは俺の命を救ってくれた司祭だ。なので今までは身近な存在のように感じていたのだが……。

 

 ひょっとして、シメオン司祭とオースティン公爵は水面下で繋がっており、フィルを亡き者にしようとマジで企んでるんじゃないだろうな? 


 オースティン公爵が手を上げ、シメオンに合図を送った。その合図を受けシメオンが中央に進み出た。


「これよりフィリップ王子と郷田殿の決闘を、女神アリスティアの名の下で開始する! これは聖なる戦いである。勝利した者には女神の加護が与えられるであろう!」


 郷田が意気揚々と中央へと歩を進め、皮肉を込め言い放った。


「クソ王子、ビビって来ねーと思ってたぜ!」

「それはこっちの台詞だ!」

「けっ、マジで生意気なやつだ。てめぇ後悔すんぞ!」


 国王の方へ視線を移すと、鎮座している国王の両肩を、オースティン公爵とヴィンセントの二人が、国王が立ち上がれないように抑えつけているようにも見て取れる。


 国王はこの国の最高権力者ではないのか? あっ! まさか……そうなのか? そういうことなのか? この国の最大権力者は国王ではなく、オースティン公爵ってことなのか?


 晩餐会でフィルが郷田に決闘を申し込んだ時の異様な拍手。それってつまりオースティン公爵が裏で糸を引いているってことなのだろうか。あの場の半数以上がフィルを焚きつけるように、盛大な拍手を送ったのだ。だとしたら、フィルはこのまま見殺しにされるぞ。派閥とかあるのかも。


 骨山が郷田に声援を送った。


「郷田君! 異世界人なんかコテンパンにしちまえー!」

「おう、骨山。オレ様が負ける訳ねぇだろ? こいつらにオレ達を召喚したことを後悔させてやる!」

「さすが郷田君! その意気だよ。元の世界に帰れたら最新のVRマシーン。パパにお願いして買って貰うよ!」

「ああ、もう帰る必要なんかないけどな」

「えっ!? ヤダよ! ぼ、ぼくはお家に帰りたいよ……」


 骨山ががっかりと落ち込んでいると、間宮が落ちついた声で、


「郷田君。けして異世界人の力を侮ってはいけませんよ」


 間宮が郷田に注意を促した。


「相手はガキだぞ? バカ言ってんじゃねぇよ!」


 郷田は間宮の助言を一笑に付し、大剣を弄びつつ不敵な笑みを浮かべた。

 そして清家雫はフィルを見つめ、郷田に視線を移すと沈痛な表情で、


「郷田君、無茶して怪我させたりしないでね……相手は子どもなのよ」


 清家の言葉に郷田はぺっと唾を吐き、大剣をフィルのいる前方に突き出す。


「さて、さっさとおっぱじめようぜ! クソ王子!」

「……くっ、その減らず口、叩きのめしてやる! 望むところだ!」


 フィルは果敢にそう言うものの、郷田の放つ威圧感に圧され、汗が滲み出ていた。


 この勝負、素人の俺の目から見ても明らかだ。フィルの実力は郷田の足元にも及ばない。

 フィルが握る子ども用の剣など、一撃でへし折られそうだ。


 ウルベルトはその視線の先に郷田を捉え、静かに剣の柄に手を掛けた。

 そしてメアリーが見かねて動き出そうとしたので、俺は咄嗟にメアリーの手を掴んだ。


「ルーシェ様……やめさせないと!」


 俺はメアリーを真剣に見つめ首を横に振る。

 

 風と水の混合魔術を脳裏に思い描く。イメージが魔術術式に変換し構築された。凍結の魔術だ。郷田が一歩でも動いた瞬間に、カチンコチンに凍結させてやる!

 それはフィルを守るためだけじゃない。未来の家族を守るためでもあるんだ。卑怯者と罵られ、誹謗中傷を浴びようが知ったことじゃない。 


 ――と、意気込んでいたら、誰かが俺の肩にぽんと手をかけ「ルーシェリア王子、ここは私に任せてくれないかしら?」と、涼やかな声が俺の鼓膜を振動させた。


 その声の主はシャーロットだった。彼女は俺に柔らかく微笑み、郷田を鋭く見据えた。

 

 そして――――彼女は颯爽とフィルと郷田のいる場所まで歩いてゆく。


「その勝負、待って頂けないかしら?」

「あん?」

「えっ!? なに? お師匠様?」


 郷田とフィルがシャーロットの方へ振り向く。

 

「私から提案があるの。少しいいかしら?」

 

 決闘を止めに入ったのだろうか? 




 俺は固唾を呑みつつ、その行方を見守るのであった。


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