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第十八話「陰謀」

※改稿済み(2017/4/1)

 翌日の朝。

 ベットから颯爽と起き上がった俺は、窓から外の風景を眺めた。

 雪は解け始め、徐々に日常の景色を取り戻していた。両親はこれから北方の雪国、ユーグリット王国へと出立する。二人とも旅仕度を済ませており、付従う者達が馬車を用意している光景が目に入った。


 階段を降りると、旅仕度を整えた両親が、メアリーと楽しそうに談笑していた。

 

「おはようございます。父君、母君」

「おう、ルーシェリアか後のことは頼んだぞ!」

「ルーシェや、メアリーの言うことをちゃんと聞くのですよ」

「はい、母君」


 エミリーが俺の頭を撫でてくれた。母にはアイザックがいるから、何も心配することはない。エミリーは馬車が引く幌付きの客車に入り、父は御者と行き先の地図を確認していた。準備が出来たようだ。両親は従者を伴いミッドガル王国を出立した。


 馬車を見送りながら昨夜親父が俺に話していたことを思い出す。昨夜親父はシメオン司祭のいるアリスティア神殿にまで押しかけ、何やら話を付けてきたそうなのだ。

 無論、フィリップ王子の決闘の件だ。親父が言うには決闘は開かれても戦い自体は行われないと言う話だった。


 フィルは感情的になりやすい性格であるものの、人柄も良く正義感溢れる少年だ。将来、国民に慕われる良き国王に成長するに違いない。


 ともあれ俺もミッドガル王城へと向かう。その王城の庭園でフィルと郷田の決闘が開かれるからだ。そして俺はメアリーの他にもう一人、新たな従者を引きつれた。


「坊ちゃん、そんなに心配することはございません」

「だといいんだけど……」


 俺にそう言うのは、親父が最も信頼を寄せている若き騎士ウルベルトである。

 ウルベルトは昨晩、我が家の執事として正式に迎えられたのだ。親父が俺の身を案じて配慮してくれたのだろう。俺としてもウルベルトは頼り甲斐のある兄貴って感じだ。


「ルーシェ様、心配いりませんよ。いざって時はこの私が止めに入ります! ルーシェ様は絶対に危険なことをしないでくださいね」

「うん、分かってるよ」


 大きな事件に発展しなければいいのだが……なんかイヤな予感がするんだよな。

 親父は戦いにまでは発展しないと言っていたが、果たしてそうなのだろうか。

 

 あの場にいたオースティン公爵は反対するどころか、決闘を容認し焚きつけた。それがどうしても腑に落ちないのだ。


 

 

 ◇◆◇



 

 王宮庭園にまで辿り着いた。そこには見知った顔ぶれや初めて見る人達もいる。

 フィルが俺に気がついたようで、駆け寄りながら俺の名を呼ぶ。


「ルーシェリア、来てくれたんだね。兄として嬉しいよ」


 フィルは屈託ない笑顔を俺に向け、にっこりと微笑んだ。

 俺は彼が傷つくところを見たくない。そうさせないのが俺の役目だ。


「フィル、この決闘は中止になるんだよね?」

「え!? そうなのかい? ルーシェリア」


 あれれ? そんな話になってるんじゃないの? ……と、考え込んでいたら、とても綺麗な女性が挨拶してきた。金色の髪を風になびかせ、何よりも特徴的なのが長い耳。すらっとしたスタイルで、若草色の鎧で身を包み、その腰には細身の剣を提げていた。

 そして彼女は翡翠色の瞳で俺を見つめてきた。


「お初にお目にかかりますわ。ルーシェリア王子」


 声音も奏でるように美しい。


「あ、はい……ええっと、初めまして」


 まるで妖精のようだ。俺の師匠のビディが闇側のエルフなら、彼女は光側のエルフなのだろう。その美貌についつい見惚れてしまった。見惚れているとフィルが自慢げにはにかんだ。


「えへへ、どうだいルーシェリア。羨ましいだろ? 紹介するよ僕の剣の師匠のシャーロットだよ」

「フィルの師匠?」

「うん、そうだよ」


 羨ましい……羨ましいぞ! コノヤロー! と、思っていたらウルベルトが、半ば興奮気味に駆け寄って来た。


「これはこれは、生ける伝説と謳われるシャーロット殿にお会いできるとは、このウルベルト感激でございます」


 彼女は何でも千年前の魔神戦争で、ミッドガル初代国王でもある英雄王、レヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世と肩を並べて戦った精霊使いのようだ。

 彼女のフルネームはシャルル・シャーロット・シルヴェスターという。

 そんな伝説上の英雄の一人がフィルの師匠だとは、いやはや驚かされたものである。


 ひょっとして……フィルはかなりの実力者なの? ……かな?


 周囲を見渡すと、フィルの父親であるエイブラム国王も直々に足を運んでいる。

 これなら余興で済みそうだ。国王の傍にはオースティン公爵とその御子息であるヴィンセント王子もいた。


 一方、郷田達の方を眺めると、シメオン司祭に骨山に間宮、そして清家雫がいた。


 こちらが国王軍なら、あちらは法王庁軍。勝敗は戦う前から決まっている。そう戦いは行われないのだから。シメオン司祭が俺達の方に近寄って来た。決闘を穏便に終わらせる為の策でも伝えに来るのだろう。そう御破算になるのだ。


「フィリップ王子、ご健勝でございますな、さあ郷田殿がお待ちかねですぞ。シメオンは公平に勝負の判定を下しまする。思う存分、力を振るってくだされ」


 シメオンはフィルにそう伝えると冷笑を浮かべ、郷田達の方へと戻っていった。

 ……? 決闘はなしじゃないの? 親父と中止の話し合いをしたんだろ? 


 ウルベルトに確認する。


「ウルベルト、どうなってるんだ? 戦い自体は行われないはずだろ?」

「坊ちゃん申し訳ありません……このウルベルトにも意味が分かりませぬ……」


 王様に確認しに行こうと思った。

 だが、行く手を阻まれた。ヴィンセント王子が俺の前に立ち塞がり、三白眼で睨みつけてきたのだ。


「どこに行くつもりだ?」

「王様のところだよ」

「邪魔立てするな……貴様はフィリップの傍にいればよい」


 邪魔とはなんだ? 何か不都合なことでもあるのか?


「心配無用だ」


 ヴィンセントはそれだけ言うと、国王の傍へと戻って行った。


 そして――その直後、伯父上のオースティン公爵が、シメオンに何やら合図のようなモノを送った。


 なにがどうなってるんだ? この一連の流れ、理解不能だ。


 まさかと思うが、王位継承権第二位の伯父上の陰謀なのか?


 フィルから王位を剥奪しようと企んでいるんじゃあるまいな。




 状況がさっぱり掴めない俺は、不安に駆られたのであった。


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