第十七話「予兆」
※改稿済み(2017/3/31)
長テーブルの向かい側にいる郷田が話しかけてきた。
郷田は俺とフィルを睨むように交互に見、その視線はフィルへと向いた。
「おい、クソ王子。オレ達を、よくもこんな低文明のクソ不便な世界に召喚してくれたよな!」
「な、なんだとっ!」
フィルが激怒して声を荒げた。表情は瞬時に紅潮し、今すぐにでも郷田に殴りかかりそうな勢いだ。
「おっと、クソガキそんなにいきり立つなよ。別に責めてる訳じゃねーんだぜ」
「ちょ、ちょっと……郷田君」
郷田の失礼極まりないもの言いに清家雫が戸惑う。しかし郷田の暴言は止まらない。フィルを挑発しまくる。フィルは10歳だぞ? なんで郷田のヤツ、ムキになってんだ? こいつはバカなのか?
「ふ、ふざけるなっ! 僕は最初から貴様らに何も期待なんか抱いてない。ここは僕達の世界なんだ」
さすがフィルだ。俺も同意見だ。そもそも郷田達を召喚したのはミッドガル王国ではない。法王庁なのだ。ある意味、言いがかりでもある。
郷田が少し声のトーンを落とした。
「だから言ってるだろ? そういきり立つなって! オレ様は感謝してるんだ。けどよ……お前も感謝しろよクソ王子。お前が王子でも国が滅びたら王族もクソもねぇだろ? 貴様がどう言おうがこの世界を救ってやるんだ。今後、オレに舐めた口を吐くんじゃねーぞ」
郷田の隣に座っていた骨山がケラケラと笑う。
「そうだぞー! 郷田君の言う通りだぞ! 郷田君は第一の勇者に選ばれたんだぞ!」
骨山は相変わらずの腰ぎんちゃく野郎だ。確か骨山には誉れある称号は与えられていなかった。ただの名誉国民の称号を与えられただけだ。つまりこいつの存在はモブ扱いなのだ。
フィルは歯を食いしばり、ギリギリ耐えているが、もう爆発しそうだ。それにフィルが舐められてるのは俺も悔しい。そう思い身を乗り出そうとした瞬間、
「あなた達っ! フィリップ王子に対して無礼です! 王族をなんと心得てるのですか!」
俺より先にメアリーがすっと立ち上がり、長テーブルを叩いた。食器が振動で揺れた。
「今すぐフィリップ王子に謝罪しなさい。それが出来なければあなたを不敬罪で処罰させて頂きます!」
「おいおい……お嬢さん。大袈裟なこと言ってんじゃねぇよ。そもそも今夜の宴はオレ達の歓迎会だ。無礼講でもあるんだぜ? とはいえ……お前可愛い顔してんな? 何ならオレが可愛がってやってもいいんだぜ?」
俺も我慢の限界だ。冷静な奴も必要だと黙っていたが、メアリーをないがしろにされて黙っている俺では無い。
「やい、郷田っ!」
「はん? 何だお前? なにか文句でもあるんか?」
「ああ、メアリーを愚弄するなら僕が相手してやるよ」
「はあ? 何言ってんだクソガキ! てめぇは黙ってろ!」
精神汚染させるような魔術は無かったかな。こいつをどうにか懲らしめたい。
「ルーシェ様、いけません! ここは私に任せてください!」
メアリーが俺を制止してると、郷田の隣にいる骨山が驚くような発言をした。
「そうだぞ! 郷田君は、さっきだって竜王を、ボコボコにしてきたんだ!」
――――はっ!? な、なんだって!? 一瞬、耳を疑った。
聞き違いじゃないよな? 骨山は郷田が竜王をボコったと、間違いなく言ったはずだ。
「おい、そこのヤツ、竜王様をボコったって何の話だ?」
俺は骨山を睨みつけた。
「郷田君は勇者だからね。竜王を倒す役目なんだよ」
郷田はニヤニヤしながら骨山の言葉に耳を傾け、
「まあ、さすがのオレ様も竜王がドラゴンに変身した時はビビったけどよ! でも、ちょろかったよな。あ、そうだ……あのチビの魔術師なんて名前だっけ? 土下座しながら竜王の命乞いしてたよな。まったく笑っちまうよな」
「おしっこまでちびって震えてたよね、郷田くん」
「ああ、オレ様に楯突くから、ああなるんだよ。マジでざまぁなかったな」
――――まさかチビの魔術師ってドロシーのことなのか?
郷田と骨山が顔を視線を合わせ、高笑いした。俺の怒りも同時に沸点に達した。
許せない。ぶっ潰してやる!
すると、先を越された。フィルが郷田に挑戦状を叩きつけたのだ。
「決闘だ! ミッドガル第一王子、フィリップ・アレクサンダー・シュトラウスは貴様に決闘を正式に申し込む!」
「はあ? お前がか……?」
郷田が爆笑した。
――――が、しかし、
「皆の者! 今の言葉を聞きましたかな? フィリップ王子が郷田殿に正式に決闘を申し込まれた。決闘は、明日の正午とする!」
すかさずそう言い放ったのは、俺もよく知る司祭。シメオン司祭であった。
何かの冗談なんだろうか? フィルと郷田が決闘だって? そんなことが許される訳がないだろう。
ところがだ――――その場に、大喝采が巻き起こった。
半数以上の王侯貴族達が、フィルの勇気を讃えるように盛大な拍手を送ったのだ。
10歳の子どもの戯言だぞ? どうなってるんだ?
唖然としていると、俺の親父がその場に駆けつけ、シメオン司祭に抗議した。
「バ、バカなことを申すでない! シメオン殿!」
「これはこれは、アイザック殿下ではございませぬか」
親父はシメオンに鋭い眼光を飛ばしたのだが、シメオンはすました顔で平然としていた。
「シメオン殿は戯言を申されているのか?」
「そうではない。決闘を申し込んだのはフィリップ王子。女神アリスティアは勇敢な戦士にこそ、恩恵を賜れるのじゃ」
郷田が割り込んで来た。
「いいぜ! バカ王子、受けてやるよ。正式な決闘だ! 死んでもオレ様を恨むなよ」
騒然としてる場に、国王エイブラハムも駆けつけてきた。
当然だ。フィルは国王の一人息子であり、将来この国を背負う男なのだ。
「フィリップ! バカを申すでない!」
「父君は僕が負けるとでも?」
「勝ち負けの問題ではない。そなたが怪我でもしたらこの国の行く末はどうなるのだ!」
「心配には及びません、僕とて名だたる師匠の弟子なのです!」
パンパンパン! 何者かが手を叩くと、一同揃って、そちらを注目した。
豚公爵……いやいや違う。親父の兄でもあり、俺の伯父でもあるオースティン公爵だ。
「さすがはフィリップ王子である。皆の者、王子の勇気を讃えるのだ!」
どうして伯父上まで決闘に賛成するのだ? それだけ言って、オースティン公爵は外套を翻しその場を立ち去っていった。
この国では10歳から成人と見做され、決闘を申し込むことができると言うのだ。
こうして、フィルと郷田の決闘が決まってしまうのであった――――。




