第十六話「晩餐会」
※改稿済み(2017/3/31)
ミッドガル王国全域に雪を降らせた今日。
魔術師ギルドからお邸に戻った俺は、部屋の中で鏡を見てはニヤニヤしている。
ゴブリンのような顔だと虐げられてきた俺なのだが、その面影は影を潜め、超イケメン王子なのだから。
「ルーシェ様、いつまで鏡を見ているのですか? そろそろ準備しないと晩餐会に送れますよ。さあさあ、早くお着替え済ませましょう」
メアリーはヤレヤレといったご様子。この喜びの熱はしばらく続くだろう。
しかも俺は誰もが羨む天才魔術師なんだから。
「もう、本当に遅れても知らないですよ?」
「ごめんごめん」
「まったくもう……」
これから召喚勇者達を歓迎する晩餐会が、ミッドガル王城で開催されるのだ。
もう彼らと会うのは億劫だと思っていた俺なのだが、魔術をビディの目の前で披露したことによって、底知れぬ自信がついたのだ。誰にも負ける気がしない。
そう俺は『黎明の魔術師』ルーシェリア・シュトラウスなのだから。
ビディが言っていた。四大元素を操る魔術で、俺の右に出る者は、もはや誰もいないだろうと。帰り道、街の人々が季節外れの大雪に驚嘆していた。街の子ども達がはしゃぎ回っていた。微笑ましい光景だった。
これほどの魔術を何故、俺は発揮できるのか? 俺なりに考えてもいた。
通常、魔術を発動させる際に必要なものは、呪文だ。その呪文を正確に詠唱することで、魔術術式が脳裏に描かれる。その描かれた魔術術式に魔力を流し込むことにより、魔術が顕現し発動に至るのだ。
しかしそれは魔術の属性や威力、速度をほんのちょっぴり変化させるだけでも、呪文の真言を変化させないといけない。それはつまり、膨大な数の呪文を暗記し、使いこなさなければならないことを意味している。
だが、俺の場合はイメージした魔術の魔術術式が、脳内で自動的に再構築される。逆に再構築されないイメージは、存在しない魔術を意味している。そんな訳で無詠唱で魔術が放てるようなのである。さらにこの身体は4年間、魔術の修行を積んできているのだ。魔術に関してはプロフェッショナルであるのだ。
メアリーが俺の服を脱ぎ脱ぎし、晩餐会用の衣装に着替えさせてくれた。
着替えぐらいは自分で出来るのだが、これはメアリーのお仕事なのだ。メアリーはこのお仕事が大好きなのだ。そして俺もメアリーの胸の谷間を観察するのが大好きなのだ。マシュマロのように柔らかそうなのだ。ああ、7歳の身体がもどかしい……。
「ルーシェ様、とーってもお似合いですよ」
「うん、ありがとう。メアリー!」
「旦那様達はそろそろ王城へ到着した頃でしょう。さあ私達も向かいましょう」
俺がぐずぐずしてたので、置いて行かれたのだ。親父は遅刻することに懲りたらしい。
◇◆◇
晩餐会の会場に着いた。会場には長テーブルが幾つも立ち並び、そのテーブルには豪勢な料理が並んでいる。またそのテーブルを囲むように、貴族達や34名の召喚勇者達が並ぶように座っていた。俺の両親は国王陛下の近くに座り、何やら相談事をしているようだ。
両親は明日、ミッドガルより遙か北にあるユーグリット王国へと向かうのだ。
おそらくその件を話し合ってるのだろう。
さて、俺とメアリーの席はどこになるのかな? どこに座ればいいのやら……。
「おーいっ! ルーシェリア。遅かったじゃないか! こっちこっち、こっちに座りなよ!」
手を振りながら俺達を呼ぶ少年がいた。その彼はフィリップ王子。ミッドガル王位継承権第一位の王太子だ。ミッドガル王国の次期国王とされる少年だ。
俺は招かれるようにフィルの隣に座った。メアリーも俺の隣に腰掛ける。
俺達は椅子に座ると、フィルは満足そうな笑みを浮かべ、
「もう何してたんだよ? 遅いから来ないかと思ったよ」
そう言って、フィルは口を尖らせた。そのフィルにメアリーは微笑みかけ、
「申し訳ありません。フィリップ王子。準備に手間取ってしまって……」
「いやいやメアリーがいてくれて僕も助かってるよ。弟はどこかだらしないところがあるからね。これからもルーシェリアのことよろしく頼むよ」
……記憶を失う以前の俺も、そんなキャラだったのか。
それはそうと、テーブルを挟んだ正面に何で清家雫が座ってるんだ?
しかも、俺に微笑みかけてくれる。さらに清家の付近には、郷田や骨山、間宮も座っている。
なんとも間の悪い席に呼ばれたものだ。
「ルーシェリア王子、初めまして。清家雫と言います」
「あ、どうも……ご丁寧に……」
律儀に自己紹介されちゃったな……でも相変わらず可愛らしいが、複雑な気分だ。
あの日。俺が彼女に告白した日。彼女が俺の告白を受け入れてたら、俺はヒキニートにならなかった。その可能性もある。ひょっとしたら、彼らと同じように俺も召喚勇者として、この場にいたのかもしれない。
ほんと複雑だよ。彼らと同じように召喚されてたら、俺の隣にメアリーはいなかったのだから。そう、ぶっちゃけて言うならば、もうお前などお呼びじゃないのだ。
そして――骨山は郷田にべったりだ。郷田にしてみれば金持ちの骨山はATMでしかなかったはずだが、二人の距離感を見ていると、奇妙な友情が芽生えているようだ。この世界の骨山は金持ちでもないのに、相変わらず郷田は骨山を子分のように可愛がっているからだ。
間宮に関しては特に何も思わない。元々そんなに関わりが深かった訳でもないからな。
そんなことよりも、俺の優先事項はドロシーだ。ドロシーはどこにいるんだ?
俺はキョロキョロとドロシーを探した。
メアリーの話によると、ドロシーは竜王様の側近なのだ。竜王様と一緒に来ている可能性が高いのだ。探していると、王様の挨拶が始まった。
「召喚勇者達よ。今宵は無礼講であるゆえ、大いに愉しんでくれたまえ。この時期に雪が降り積もるなど前代未聞の奇跡だ。天もお主たちを歓迎し祝福してくれたのであろう!」
周囲からパチパチと拍手が鳴り響くが、ドロシーが見つからないぞ?
俺の未来の嫁はどこにいるのだ? そもそも竜王様ってドラゴンなのか? それとも竜になったり人の姿になったり出来るのかな?
骨付き肉を旨そうに頬張っているフィルに聞いてみるか。
「竜王様ってどこにいるの?」
「欠席したみたいだよ」
「へっ? なんで……」
「ルーシェリアが来る前に報告を受けたんだよ。何でも体調が優れないらしいよ?」
「ふ~ん、そうなんだ……」
ガッカリだ。会えると思ってた。楽しみにしていたのに……。
「ルーシェ様、どうされてんですか?」
メアリーが優しく声をかけてくれた。
「竜王様に会えると思って、凄く楽しみにしてたんだよ」
「それってドロシーさんじゃなくて?」
「あ、いや……どっちも……でも体調が悪いんじゃしょうがないよ……」
悲しみ。
「大丈夫ですよルーシェ様。ミッドガル王国と竜王様は昔からとても友好的な関係なのです。今回会えなくても、その内会えますよ。愛しのドロシーちゃんにもね?」
メアリーがそう言って俺をじーっと見つめてくる。何か勘ぐられているような感じだ。
そんな風に考えていると、不意に話しかけられた。メアリーではない別のヤツだ。
「お前も、その隣の奴も王子なんだろ? あっ?」
郷田だ。俺達を舐めた態度と口調だ。
しかもその表情――不満をぶちまけそうな勢いであった。




