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第十五話「粉雪」

※改稿済み(2017/3/30)

 魔術師ギルドで、師匠であるビディの前で魔術を披露した。


 新時代の夜明けという意味を併せ持つ『黎明の魔術師』の異名。何故、俺がそう呼ばれることになったのか、その理由が判明した。


 その所以は無詠唱魔術にあったのだ。この世界に無詠唱で魔術を発動できる者は、俺の他には誰もいない。

 

 あたらな魔術の境地、それが――――無詠唱だった。


 そのことから俺は黎明の魔術師、ルーシェリア・シュトラウスとして、一躍有名になったようなのだ。

 しかも――――俺の魔術の力量は数カ月前とは比べられないほどに、格段に上がっているとビディは言った。


「ルーシェちゃん? あなたは本当にルーシェちゃんなのかな?」


 ビディが不思議なものでも見る眼差しで、そう呟いた。


「あの火球の威力は王級すら凌ぐ威力だったわよ? 魔法学園から戻って、あなたは一体どんな修行をしてきたの?」


 修行どころか何もしていない。親父の書斎で魔術本を読んで少し練習しただけだ。


「ルーシェ様? 何かしたのですか?」


 メアリーも不思議そうに俺を見て、瞳をぱちくりさせるのだが、俺は心の中で『君が一番、俺のことを理解してるはずだろ?』と、呟き、そのままビディの話に聞き入った。


 どうやら俺の放った火球の威力は王級を超えるようで、並大抵の魔力総量では不可能らしいのだ。それこそ、勇者が魔王に捨て身の攻撃をするレベルの話みたいだ。


 しかもその直後、森を焼く炎を鎮火させるために、俺は混合魔術で雨雲を呼び寄せ、大雨を降らせた。混合魔術は自然の摂理を深く理解することで、ようやく完成させることができる究極系の魔術らしいのだ。


 それを容易く俺はやってのけた。ビディはむしろ火球よりも、雨を降らせたことに驚いたらしい。しかも雨雲を呼び寄せることができるのなら、その先にある雷撃系の魔術も操れるようなのだ。ドラポンクエストの勇者のように。


「ルーシェちゃん……混合魔術は苦手分野だったよね? 魔力総量だってどんだけ増えてるのよ? いつものルーシェちゃんなら、魔欠症状態に陥り、倒れ込んでも不思議じゃない消費量よ。普通に考えたらあり得ない話だわ」

 

 そう俺はあり得ない存在なのだ。そうみたいなのだ。規格外なのだ。ああ、調子に乗るのはやめにしよう。小学生の頃の記憶だが、俺は誰よりも真っ先に九九を暗記し、覚えられない者達をバカにしたものだ。そう俺は『ハイスペック』のおりこうさんだと言わんばかりに。


 しかし、その絶頂は長くは続かなかった。本当に短い期間だった。

 分数の襲撃にあった俺は木端微塵に粉砕され、気がつけば最底辺の劣等生にまで、転げ落ちていたのだ。


 過去の教訓だ。調子に乗ったら負けだ。謙虚であるべき時、人は、そうあるべきものなのだ。けして自惚れてはならない。未来の俺は、魔術の才に溺れ、ろくに修行をしなかったと聞いている。その未来には草も生えないだろう。一日の頑張りが未来を変えることに繋がるのだ。たぶんな。


 そしてビディは、俺にさらなる魔術を披露しろと言う。

 先ほどの雨雲を雷雲に変え、案山子に稲妻を落として見せよと言うのだ。


「わかりましたビディ。やってみます」


 と、言いつつも俺には別の思惑があった。


 まず雨雲だけを呼び寄せてみようと思う。呼び寄せと言っているが、実際には俺が混合魔術で生成しているのだ。雨雲の生成までなら、どんなに範囲を広げても被害はでない。魔力の底を知りたいのだ。


 青空に暗雲が広がる。その暗雲は魔王が世界を闇に包み込むかのようだ。

 その空を見上げたメアリーが不安げに言う。


「ルーシェ様……この雨雲……まるで街を飲み込む魔物のようですよ」


 街全体を覆い尽くすほどの雨雲を発生させても魔力の底が見える気がしない。

 

「だ、大丈夫なのですか? もうやり過ぎじゃないのですか?」


 心配そうなメアリー。俺はその心配を解消してあげるように、笑顔で微笑む。


「無茶なことはやらないよ。安心して見てて」

 

 俺は噛ませ犬じゃないからな。主人公だからな(たぶん)ヤムチャなことはしない。

 ビディも心中不安だったのか、俺の言葉を受け、ほっとしたように溜息を吐いた。


 雨雲をどんなに生み出しても、はやり魔力が減ったような気がまったくしない。

 王国全体を暗雲で包み込んでもだ。このまま雨雲を雷雲に変え、小さな稲妻を案山子に落とすことは簡単なことだ。しかし俺は大きく深呼吸し、別のモノを大地に降らせた。


 急激に王国全体の空気が冷え込む。 

 すると、

 パラパラと……空より粉雪が舞い降りた。

 雨雲に隠れていた日が顔を見せ、結晶をキラキラと輝かせた。


「うう、寒いのであります……って、これって雪?」


 その粉雪を見て、メアリーが感動したかのように歓喜の声を発した。




 季節は秋。

 粉雪は次第に降り積もり、この日、ミッドガル王国全体に季節外れの大雪が降り注いだ。


 ビディはその空から舞い降りる雪を眺めつつ、


「聖級……いえ……帝級すら超えているのかもしれないわね……」


 わずか7歳で、中級魔術の使い手として、魔術師(ソーサラー)の称号を得ていた俺なのだが、その実力は、既にその域を超越してるようなのだ。


「す、凄いです! わ、私は魔術のことはさっぱりですけども、とても感動しました!」

「そうね……ルーシェちゃんに教えることは、もう何もなさそうね」

 

 あっという間に雪が降り積もってしまった。

 だが、季節外れの雪だ。ほっといても時期に溶けるだろう。


 満足した。魔力の底を確かめるまでには至らなかったが、少なくとも己の魔術の力量を知ることができたのだ。工夫したらまだまだ何かできそうだ。アイディアとイメージ力次第なのだ。万能感で満たされた。

 

「くっしゅん……ルーシェ様……とても寒いのです。もうお邸に戻って、夜の晩餐会に備えましょう。アーリマン様ありがとうございます!」


 メアリーはビディに向かって、丁寧にお辞儀をした。

 そのメアリーの表情は、寒さでリンゴのように赤くなっていた。


 俺はビディに振り向く。


「お師匠様、いえ……ビディ。ありがとう」

「またいつでもいらっしゃい。しばらくは魔法学園に戻らず、ここに滞在してると思うから」




 ビディは、そう言って俺に優しく微笑みかけてくれたのであった。


第二章【完】です。


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