第十三話「魔術本」
※改稿済み(2017/3/29)
親父の書斎に入った俺は、本棚から『黄金の夜明け』というタイトル名の魔術書を探し回った。直ぐに見つかった。この部屋には暖炉もソファーも机もあるので、俺はソファーに、ぽふっと腰掛けた。
えーっとどれどれ?
魔術書は少々古びた感じだ。
茶褐色の表紙には『黄金の夜明け』というタイトルが記されており、六芒星が描かれている。
とりあえずパラパラとページをめくると、古本特有の粉臭い匂いが鼻をついた。
けれども中のページは綺麗で親切に挿絵もあり、イメージしやすいように工夫されていた。魔術を学ぶにはイメージ力が大切だとも書いてある。また、そのイメージを脳内で魔術術式に組み替えていくようなのだ。しかもその脳内変換が、とても難しいようである。
――――1ページ目をめくった。
まずはじめに。
この魔術書は魔法都市エンディミオンが王道魔法と認めたものだけ記載する、とある。
――――2ページ目をめくる。
魔術の基本理念が書かれていた。
1、魔術とは知識と理解の永続的な探求である。
2、禁呪の魔術、魔道具に触れることを禁ずる。
――――3ページ目は魔術体系が記されている。
1、四大元素魔術
2、精霊魔法
3、神聖魔法
4、付与魔術
上記のように魔術は大きく分類して4種類に分かれるようで、魔術と魔法は区別されてる感じがする。
四大元素魔術は基本的に【火】【水】【風】【土】の4種の自然の元素を操ることが基本で、元素を混合することにより、【氷】や【雷】などに派生させることができるようだ。
つまり【水】を【風】で冷やすことで【氷】を使うことが出来、【雷】は、全ての属性を混合させないとダメらしいのだ。
また、この四大元素の魔術の他にも【光】【闇】があるようなのだが、ここにでは詳しく触れていなかった。なんでも【光】は、生まれながらに光の因子を持つ、限られた者だけしか使えないようで、【闇】に関しては、闇側に属する種族の者しか扱えないとあるからだ。
つまり【光】と【闇】に関しては、一般的な魔術ではないようなのだ。
さらに【時】もあるのだが、それは『古代魔術』で禁呪とされており、禁を侵した者は、異端と見做され魔法学園の地下に監禁されるとある。時を自由に操れるようなのだが、無論使い方など載っていない。
次に精霊魔法なんだが、精霊と契約することにより、発動できる魔法のようだ。
それを得意とするのが、耳長族と呼ばれているエルフ族のようなのだ。
アカデミーで教えることはないと記載されているので、俺は使えないのかもしれない。
次が神聖魔法だ。
神聖魔法は様々な神への信仰心により、奇跡を起こす魔法とある。
どうやらこの世界は一神教ではなく多神教のようなのだが、神聖魔法は基本的に聖女様が扱う魔法のようだ。悔い改め神の洗礼を受けないと習得できないと記載されていた。これも俺には関係なさそうだ。
次に付与魔術。
付与魔術は、羊皮紙に描いた魔法陣に魔力を注ぐことによって、魔術が発現する魔道具を生み出す魔術のようだ。極めると、ゴーレムの作成などもできるようで、究極のところに賢者の石がある。つまりホムンクルスを生み出すのだ。これは錬金術に近いものかもしれない。武器や防具に追加効果や属性を付与することもできる。しかし攻撃に特化した魔術ではないようだ。
どの魔術や魔法を扱うにしても重要なのが、体内に宿っている魔力の扱いに慣れることのようだけど、そもそも俺に魔力はあるのかな?
どうもこの本は魔術本というより教科書のような気がする。発行所も魔法都市エンディミオンと書いてあるし。
とりあえず俺は黎明の魔術師と呼ばれているらしく、その魔術師としての称号は、魔術師だ。その辺のことが記載されているページを探す。次のページあった。
――――4ページ目。
1、初級魔術の使い手:魔術見習い
2.中級魔術の使い手:魔術師
3、上級魔術の使い手:魔導師
4、王級魔法の使い手:魔導師
あれ? 予想以上にしょぼくない? 俺は中級魔術の使い手のようだ。
フィリップ王子ことフィルの口ぶりや、メアリーから聞いた話だと、もっと上位の称号かと勝手に思い込んでいたのだが、下から2番目じゃないか……。
王級の上にも聖級、帝級と続き、最高位は神級で神魔導師と書いてある。
まあ……がっかりしても仕方がない。基本的な火球から試してみることにする。
挿絵と呪文が書かれているので、さっそく試す。
「闇夜を照らす灯火よ、出でよ」
おおっ! 手前にそれっぽく突き出していた人差し指の先に、小さな炎が揺らめいた。
この時、俺は初めて体内に溢れ流れるような魔力を認識した。
魔術書はあれやこれやと堅苦しく、難しそうに書いてあるが、やってみると簡単な気がした。消すことも簡単だ。魔力の循環を止めれば良い。
炎がすっと消えた。
今の小さな炎だけで、俺はかなりのことを感覚的に理解できた。呪文はアレだ。
呪文を口ずさむことにより、必要魔力、魔術の属性、威力などが決定される魔術術式が脳内にて、自動的に組み立てられるのだ。つまり、術式を自分で組み立てる必要がない。その魔術術式の組み立は小学一年生の算数ドリルより簡単な気がした。
ひょっとして、俺なら詠唱は必要ないのでは?
ちょいと試す。
ぽっと、炎が指先に揺らめく。
なんだ……やっぱり詠唱なんて必要ないじゃないか……。
さらに、頼りない蝋燭のような揺らめきの炎に魔力を送り続け、巨大な火球をイメージすると、
――――や、やばいっ! 大火事になるぞ!
ぐんぐんと際限なく大きく膨らんでゆくのだ。俺は慌てて火球を消した。
あ、あぶな……部屋の温度が急上昇。
後ちょいで部屋に引火し、お邸が紅蓮の炎でまみれるところだった。
「ふう……焦ったな……慎重にやんないとだ……」
調子にノリ過ぎると大怪我では済まないぞ!
しかし……なんだろう……魔力が全然消費した気がしないぞ。魔力って減らないもの?
とにかく減った感覚が無かったから、魔力の循環を断ち切るタイミングを見誤ったのだ。
今度は複数の火球をイメージして顕在化させる。
火球がポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、っと半円を描くように俺の頭上に出現。生み出した7つの火球をお手玉のように、自由自在に動かし、遊ぶこともできた。そのまま解き放てば複数の敵にも対処できそうだ。
火球を消滅させた。
水属性の魔術も発動してみる。水の塊が宙に浮くのだ。その水の塊を指で突いてみる。
指先が濡れて冷たい。口を近づけて吸ってみると、普通に飲めた。
さらに風魔術で冷気にように冷たい風を発生させると、水の塊は瞬時に凍結。
今度は同時に【水】と【風】をイメージして、その水の形状も槍の穂先のようにイメージすると、
先端が鋭く尖った氷の矢が完成した。それを暖炉に向って、高速で打ち放つ。
暖炉の奥で激しい衝突音がしたので覗き込んでみると……暖炉の奥の石レンガを穿ち氷の矢は砕け散っていた。
魔術ってパネェな……こんなのを人に向けて撃ったら大変なことになるぞ……。
氷の矢の他にも、岩砲弾を作って飛ばしてみたり、暖炉にくべる薪があったので、真空の刃で真っ二つに切り裂いてみた。
どうやら俺は四大元素の魔術が、得意のようだ。
どれもが簡単にできた。
なにも難しいことはなかった。
しかし、残念なことにこの本には、初級の魔術しか書かれていない。
俺は中級魔術の使い手なのだから、もっと高ランクの魔術も操れるはずなのだ。
ならば試してみたい。部屋は狭い。
そう思い玄関から外に飛び出ようとしたところで、メアリーに呼び止められた。
「ルーシェ様、お一人でどちらに向われるのですか?」
「書斎で魔術の練習してたんだけど、部屋じゃ狭いし外で練習しようと思ったんだよ」
「まあ! ルーシェ様、魔術を操れたんですね!」
「うん!」
メアリーは自分のことのように喜んでくれた。記憶を失ったと聞いて心配してくれてたんだな。
「それでしたら、お待ちください。メアリーもお供させてください!」
メアリーの話によると、魔術の訓練に適した場所が王城にあるらしいのだ。
そこで練習することを薦められた。
しかし――――王城には、かつてのクラスメート達がいそうなのだ。
彼らに俺の魔術の力量を見せたくないし、ひょっとしたらしょぼいとバカにされるかもしれない。なるべく顔も合わせたくない。せめて今夜の召喚勇者の歓迎の晩餐会までは……。
「王城の他に練習できる場所はないの? そこしかないなら家の庭でもいいんだけど……」
俺がそう言うとメアリーに妙案が閃いたようだ。
「それでしたらルーシェ様のお師匠様に会いに行きますか?」
「へ? 僕にお師匠様がいるの?」
メアリーはにっこり微笑み、俺の手を握ってくれた。
「さあ、行きましょうか。ルーシェ様~」
「う、うん……でも……魔法都市とかじゃないの?」
「そんな遠くまで行かないですよ~。ミラドールの城下街にある魔術師ギルドに向うのですよ」
「あ、そうなのね」
「ルーシェ様がお戻りになったの同じぐらいの時期に、アーリマン様もお戻りになったと聞いてますよ」
そんな訳で俺とメアリーは、魔術師ギルドへと向かうのだった。




