第十話「召喚勇者」
※改稿済み(2017/3/28)
召喚勇者達がシメオン司祭に先導されて入場してくる。
シメオン司祭に続くのは、銀縁眼鏡にスーツ姿の男であり、その後ろからも続々と制服姿の生徒達が入場を果たす。
あの学生服は馴染みがある。俺も高校時代に身につけていた福都市高校の制服だ。
しかもスーツ姿の男は高校時代の担任教師なのだ。
そして――――この中に金髪の生徒が一人だけいる。その男が入場と同時にでかい声を発した。
「ヒャッハー! 俺が勇者第一候補なんてやったぜ! 最高の気分だぜ!」
DQNな金髪で耳と鼻に下品なピアスをしている。
俺はこいつが大嫌いだった。率先して高校時代、俺を執拗にイジメてきた郷田だ。
こいつに犬の糞を擦りつけられ、ゴブリンのようだとバカにされたこともある。
その不良高校生の郷田が勇者なのか?
さらに郷田の隣には、軟弱者のくせに、郷田に媚売って地位を確保していた腰ぎんちゃくの骨山がいた。『告白魔』だと率先して俺をバカにし、皆に言いふらした奴だ。
もしやと思い女子生徒の中を見渡すと、告白した俺に土下座をし、逃げ去っていった清家雫もいた。
過去の苦い経験が脳裏に鮮明に浮かび上がる。
未来の俺や家族達は金髪の男に殺される。この世界にも金髪の者は沢山いるが、その者達の多くは自然色で、郷田のように派手で目立つような金髪野郎ではない。
――――つまり……こいつが俺や家族を皆殺しにするのだ。たぶん、そうだ。何かしらの因縁。因果を断ち切らねばならない。
召喚勇者達がエイブラハム国王の御前まで来た。国王は彼らを歓迎するかのように、立ち上った。
シメオン司祭が彼らを平伏させ、
「これは国王陛下、御健勝麗しく何よりでございます」
「うむ、彼らが邪神降臨に打ち勝つとされる勇者達なのだな?」
「はっ、いかにも。法王庁の本殿のある神聖王国ヴァンミリオンにて、召喚せし者達でございます」
勇者達はこのミッドガル王国より遙か東にある神聖王国にて召喚されたらしい。
シメオン司祭が話を続ける。
「この二週間の間に召喚勇者達の適性検査は完了しております。その中でも反射神経、動体視力、筋力、体力ともに最もずば抜けているのが、郷田殿でございます。彼こそが第一の勇者の称号を得るに相応しいと御仁と存じます」
国王が頷くと、シメオンは国王に勇者の能力が記載された紙を手渡し、さらに話を続ける。
「そこには召喚勇者達、各自の適正を記載しております。神聖魔法の才能が高い者、魔術の才に溢れる者。特殊な能力を持っている者、様々でございます」
「うむ、そのようじゃな」
そしてシメオンが、両手を上げ、
「彼らこそが、神託の勇者達である」と、言い放った。
謁見の間に喝采が巻き起こるのだが、俺はその光景を苦々しく感じた。
続けざまにエイブラム国王が威厳を込めて言い放つ。
「34名の若かりし召喚勇者達よ。よくぞ参った。これよりそれぞれの才に相応しい称号を授与する」
召喚勇者達は一人ずつ順番に名前を呼ばれ、国王より勇者の証であるプレートを受け取っていく。残り5名となった。
骨山が国王に呼ばれた。傍目でも分かり過ぎるぐらい緊張している。
その骨山は、はちきれんばかりの震えた声で、
「お、王様……」
「なんじゃ?」
「ぼ、ぼく家に帰れるんですか?」
「そなたの身分は王国が保障するゆえ、心配はいらぬ。功次第で、それなりの地位を与えることになるであろう」
「ぼ、ぼく……こんなところ嫌だよ。ママに会いたいよ!」
王侯貴族達から失笑が巻き起こった。
「これこれ、その辺の事情はわしが先日、そなたには何度も説明したじゃろ」
シメオン司祭が困った顔をし、骨山を引っ張っていった。
また、国王の返答は骨山の問いかけに、直に回答するものでもなかった。
「ルーシェリア、どうしたんだい? そんな険しい顔して」
「い、いや……なんでもないよ」
隣にいる亜麻色髪の少年が、俺の表情を見てそう言ったのだ。
俺は深く考え込んでいた。彼らの姿は高校時代当時のままなのだ。
何故、俺だけ召喚ではなく、既に現地にいるのだろうと。
次に国王に呼ばれたのは教師の八代だ。
こいつは朝のHRで乾いた笑みを浮かべ、毎度のように何の根拠もない台詞を吐いていた。
『うちのクラスは皆が仲良く助け合い。イジメなどなく先生はいい生徒を持った。それでも、もし困った奴がいたらいつでも先生のところに相談しに来い』
当初、俺はその言葉を信じ先生にすがるような思いで相談した。
だが、その想いに反してクラスでの孤立が進み、状況が悪くなればなる程こいつは俺を切り捨てるようにほざいた。
『君がイジメにあってると言う報告は受けたことがない。顔のことで貶されるのを嘆いたら親御さんに失礼だろ! だが顔も生まれ持っての素質だ。私が皆に君をイケメンくんと呼ぶように教育しろと言うのか? そんな歪んだ教育できるはずがないだろう』
異物でも見るかのような眼差しで、救いを求めた俺をこの教師は一蹴した。
俺としては少しでも話を聞いてもらって、楽になりたかっただけなのに。
シメオン司祭が国王に助言した。
「国王、彼はこの者達の教育者たる地位の者でございます」
「ふむ、先生のようじゃな。そなたには軍師の称号を授ける。これからもよろしく頼む」
教師の八代は銀縁眼鏡をクイっと持ち上げると「かしこまりました、国王陛下」と、華麗にお辞儀した。
その次に呼ばれたのは清家雫だ。
清家雫はおどおどしながら、郷田へと振り向いた。
「郷田君……」
「さっさといってこい。後がつかえてんだ!」
「う、うん……」
小麦色のカーディガンを羽織った清家雫が前に出た。
国王の前に立ちながらもオドオドし、周囲の視線が気になるのかキョロキョロしている。
彼女と視線が重なった。
俺を見ても彼女が俺の正体に気がつく訳もないのだが、国王を取り囲む側近の中に、子どもがいることで安心したのか緊張が抜けたようだ。
「そなたには聖女の称号を授ける。期待しておるぞ!」
国王は清家雫の胸に金色のプレートをかけた。大喝采が巻き起こった。
王侯貴族達が彼女を祝福するかのように、盛大な拍手を送る。
次に呼ばれたのがクラスの中でも秀才だともっぱらな噂だった間宮だ。
さわやかな笑みを浮かべ、国王の前へと歩を進めた。
「そなたには賢者の称号を授ける」
間宮もまた金色のプレートを受け取り、優雅に一礼し下がった。
そして最後。堂々と登場したのが郷田だ。
「そなたこそ、第一の勇者の称号にふさわしい。我が国のため大いに尽力してくれ」
「おう、王様。オレに任せときな。魔王でもなんでも、しばいてやるぜ!」
尊大な態度で周囲の王侯貴族達も憤慨しそうなものだが、今までで最高の大喝采だ。
それだけ勇者に寄せる期待が大きいのだろう。多少の無礼は許される。郷田の野郎も上機嫌だ。
その郷田の姿を見ていたら虫唾が走る思いに駆られた。
「召喚勇者の称号授与式は、これにて終了とする」
国王エイブラハムの言葉で、称号授与の儀は幕を閉じた。金のプレートを受け取った勇者、賢者、聖女の三名は大人気だ。王侯貴族達が、こぞって彼らの元へとたむろした。
その様子を眺めていたら、親父が真剣な表情で、話しかけてきた。
「はい、父君。なんでしょうか?」
「オレは明日よりエミリーと共に、北国のユーグリット王国へと向かう」
「あ、はい?」
……それってどこよ?
「以前にも話しただろ? 魔逢星襲来の兆しが報告されているからだ」
そうだっけ? 魔逢星ってなに? ああ、忘れてるのはきっと俺だわ……。
「かの王とも対策を練らねばならない。半年は戻れぬゆえ、困ったことがあったら何でもウルベルトに相談するのだ」
「あ、はい、わかりました!」
親父はそれだけ俺に伝えると、国王の方へと向かった。
変わりに亜麻色髪の少年が俺に話しかけてきた。
「今夜は召喚勇者歓迎の晩餐会だよ。竜王様も来るんだって、楽しみだね」
「……竜王?」
竜王ってアレだよな? 魔王みたいなもんだよな? 世界の半分がどうのこうのって?
「そしてさ、今夜の晩餐は僕に付き合ってくれるよね?」
「あ、うん」
この少年は先ほど、エイブラハム国王に優しく頭を撫でられていた。
たぶん、王様の息子なんだろうな。
俺と亜麻色髪の少年が話している横を、風を切るかのように二人の男が通り過ぎた。
「余興は済んだ。戻るぞヴィンセント」
「はっ、かしこまりました」
オースティン公爵と、その子息のヴィンセント王子だ。
ヴィンセントは漆黒の外套を翻し俺達を一瞥。そのまま何も言わず立ち去って行った。




