表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/110

第九話「王城へ」

※改稿済み(2017/3/28)

 窓からか差し込む朝日がほんのりと夜明けを告げていた。

 ソファーの上で重い瞼を擦り、ベッドの方を眺めるとネグリジェで、白い太ももを露わとしたメアリーが掛け布団を抱き枕にし、気持ち良さそうに寝ていた。寝顔があまりにも可愛らしいと思った俺は、そーっと彼女の頬に触れてみた。

 

「う~ん」


 メアリーが唸り声を上げ、寝がえりを打った。

 その直後、彼女はハッとしたように目を覚ます。瞳を大きく見開き、キョロキョロとした。


「あ、あわわ……ル、ルーシェ様……ご、ごめんなさい。し、死んでお詫びします!」


 物凄く動揺している。どうやら俺のベッドを占領し、俺がソファーで寝たことに罪悪感を抱いたようだ。過去の俺はゲームパッドを握ったまま、寝てしまうことも多かったので、まったく気にもならない。


「おはよう。朝だよメアリー」


 俺は努めて明るく言ったのだが、メアリーがぐすんぐすんと涙目になる。


「ルーシェ様にご迷惑かけてしまうなんて……私もう……」


 メアリーは気持ちのやり場を失ったかのように戸惑っている。


「メアリー、僕は全然気にしてないよ。むしろメアリーが同じ部屋にいてくれて安心して眠れたよ」

「……え?! え? そうなのですか?」


 照れて恥ずかしそうに頬を染めるメアリーが可愛い。


「うん、そうだよ。それよりも今日は召喚勇者の称号授与式なんだよね? 向かう準備しないとだよ」

「あ、ああぁ……そ、そうでした! 大変です! ルーシェ様、お着替えです! 着替えたら歯磨きしましょう!」


 メアリーが俺の衣服を持ってきた。ひらひらの蝶ネクタイがついた貴族ぽい服に、半ズボンに白いタイツだった。気慣れない服だが、メアリーが器用に着替えさせてくれた。

 

 歯磨きをしつつ、俺は昨夜まで一緒にいたマリーのことをメアリーに尋ねる。

 しかし……何故だかメアリーはマリーのことを完全に忘れてしまっているのだ。


「ねぇメアリー。本当に覚えてないの? マリーステラって子だよ?」

「ルーシェ様、夢でも見たのでしょう。シュトラウス家には、そんな名前の女の子はいないですよ? でも、素敵な名前ですね」


 と、言った感じで、キツネに摘まれた気分だ。


「それよりも旦那様がお待ちかねかもしれません。私の責任ですが、ルーシェ様も急いでください!」

「う、うん……」 

 

 朝から不思議な気分に浸っていると、ドアが乱暴に開いた。

 慌てて部屋に乗り込んで来たのは親父のアイザックだ。血の気が引いたように顔面蒼白だ。ありありと焦っているのが分かる。


「おはようございます、旦那様」

「おはようございます、父君」

「おお、よかったルーシェリア。それにメアリー感謝する。準備はできているようだな。オレは良い歳して寝坊してしまったぞ! 遅れたら兄上に何と言われるか……」


 これから俺は親父と二人で、ミッドガル王城へと向かうのだ。そこにはミッドガル王国の主だった王侯貴族が一同に揃うらしい。


 また親父の話によると、親父の一つ上の兄上は厳格な人のようで、特に時間には厳しい人だそうだ。


 親父に急かされつつ、俺は初めてこの世界の外にでた。

 透き通るように新鮮な空気だ。そう日本でも自然の溢れるような場所でしか吸えないような空気だと思った。


 そして、我が家はやっぱり豪邸だった。何よりも庭が広く、芝生も綺麗に手入れされている。ここで野球が出来そうなぐらいだ。時々、庭師を雇って手入れしてるらしい。


 親父が馬を引いてきた。庭の隅の厩舎で馬を飼っている。親父はこの馬を仔馬の頃から可愛がっており、日々馬毛のブラッシングを絶やさないそうだ。

 

「パトラッシュよ。王城まで頼むぞ!」

「ヒヒーン」


 馬がいななく。

 親父が馬をなだめるように擦った。パトラッシュって……犬ぽいが、まぁいいか。

 

 母親のエミリーとメアリーも、見送りに来てくれた。二人とも朗らかな笑顔を俺に向けてくれる。


「母君、おはようございます」

「ルーシェや、気をつけて行くのですよ」

「はいっ!」


 親父が俺に馬に乗れと言う。馬に乗るのは初体験だ。あぶみに足を掛けるが、バランスが難しい。難易度高めのミッションだ。


 しかし、親父がひょいと俺を持ち上げてくれた。そして俺の後ろに颯爽と跨る。


「では、行って参る! エミリー、メアリー。家のことよろしく頼むぞ」

「あなたお気をつけて」

「旦那様、ルーシェ様、いってらしゃいませ」


 親父は「はいやー!」と、声を張り上げ、馬の腹を蹴った。美女二人が飛びきりの笑顔で見送ってくれた。馬上から眺める景色が映り変わってゆくのだが、ほぼほぼヨーロピアンテイストの街並みだ。隘路を折れると、一際広い大通りにでた。


 王城が見えた。威風堂々な佇まいで左右に鉄塔のようなものが聳え立っていた。

 パカパカと馬で進む。

 

 吊橋の付近にいる守衛の二人が頭を下げてくる。顔パスだ。かしこまった敬礼をされたので、俺は笑顔で返した。

 

 城壁を抜けると花と緑で彩られている庭園が広がっていた。その庭園には噴水があり、その横にはベンチが用意されている。さらにその奥。王城の入口の手前に黄金像が鎮座していた。そこで下馬し、馬を預ける。


 黄金像の台座に名が彫られている。そこには『レビィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世』と、刻まれていた。そして親父が語る。


「偉大なる英雄王の彫像だ」

「英雄王?」

「ああ、英雄王は千年前に勃発したとされる魔神戦争で邪神を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらされた。そしてこの千年王国を建国されたのだ」

「ふ~ん……」

「もう何度も話したと思うがな……」


 親父は英雄王を尊敬しているようだ。遠いご先祖様になるらしい。

 英雄王は千年前に襲来した邪神を打ち倒した六英雄の一人で、リーダだったそうだ。しかもその素性は謎に包まれており、一説では時空を旅してきた異世界からの来訪者として伝えられているらしいのだ。


 親父はそこまで話すと、表情に焦りを見せ、

 

「のんびりとしておれぬ。走るぞルーシェリア!」

「あ、はい」


 俺達は城内に入り、謁見の間へ向かった。




 ◇◆◇




 謁見の間へ辿り着いた。

 天井を見上げると、美しい彫刻画が彫られており、真紅の絨毯が国王の座る玉座まで、一直線に伸びきっていた。


 玉座の後方には、我が家にもあったダチョウの紋章の壁掛が飾られている。

 その玉座には見事な髭を生やした国王が鎮座し、その脇にもう一人、偉そうな雰囲気を醸し出しているおっさんがいた。


「こらっ! 遅いではないかアイザック。また寝坊じゃあるまいな?」

「申し訳ありませぬ……兄上……その通りです……うっかり寝坊してしまいました」


 親父はバツが悪そうに頭を抱えた。親父を叱りつけたのは親父の一つ上の兄で、見た目は豚のような容姿だが、その眼光には知性が感じられた。

 

「まあまあ……間にあったのじゃ、オースティンよ。それぐらいで勘弁してやるのじゃ」


 そう言って、怒鳴るオースティンをなだめたのが国王だと思う。玉座に座ってるし。


 この7歳の身体の記憶がないのがもどかしい。誰が誰だか分からないのだ。

 

 それでも会話の節々を聞いていると、シュトラウス家の相関図が見えてきた。

 玉座に座ってるのは、やはり王様でその名はエイブラハム。シュトラウス家の長男らしい。先王は既に崩御し、三兄弟である一番上の兄が国王であるらしいのだ。


 次男がオースティン公爵。親父を叱りつけた男だ。


 そのオースティン公爵に、漆黒の衣装を纏った三白眼の青年が、何かを報告しに来た。


 オースティン公爵の息子のようで、その名はヴィンセント王子。王位継承権、第三位の王子らしい。しかも何故なのか彼は、俺に不敵な笑みを向けてくるのだ。


 あー、いやだいやだ……あまり関わりたくないタイプである。


 そんなことを考えていると、亜麻色髪の優しい顔立ちの少年が俺に駆け寄ってきた。


「やあ、ルーシェリア。久しぶりだね」


 彼は、屈託のない笑みで微笑む。


「病気はもう良くなったのかい? 二週間以上も寝込んでいたと聞いて、心配したもんだよ」


 手を差し出されたので、俺も差し出した。ぎゅっと握りしめられた。

 歳は俺より少しだけ上のような感じだ。


「うん、もう平気だよ。すっかり良くなってるよ」

「いよいよだね……ルーシェリア」

「え?」

「召喚勇者のことさ」


 彼はそこまで言うと、一旦言葉を切り、拳を強く握り真剣な表情をした。

  

「彼ら召喚勇者は実に頼もしいが、僕らだって修行してるんだ。異世界の人間なんかに負けられない。ルーシェリアもそう思うだろう? この世界は僕らの世界なんだ。勇者に頼りきってるだけじゃだめなんだ。僕は君が寝込んでる間も日々欠かさず剣の修練を積んだ。僕には自慢の師匠がいるからね!」


 ガンバリ屋さんのようだ。良い友達になれそうな気がする。


「ルーシェリアの方は魔術の調子はどうだい? わずか7歳で魔術師(ソーサラー)の称号を魔法学園で授与され『黎明の魔術師』なんて二つ名まであるんだもんな。ぼくは正直な話、ルーシェリアに嫉妬したもんだよ」


 はて? 魔術師ってなんの話なの? てか……俺は魔術師だったのか。ただのイケメン王子じゃなかった。しかし記憶がない今、まったく魔術の使い方なんて分からないぞ……。


 でもでも胸熱な展開だ。ちなみに、れいめいって何?


 一人、心の中で盛り上がっていると、場の空気が一変した。

 王侯貴族達が紅い絨毯の左右に分かれ、整列しているのだ。


「いよいよ召喚勇者がくるみたいだよ」


 目の前の少年が言う。


 召喚されし勇者達が入場してきた。その先頭を歩くのはシメオン司祭だった。


「なんでシメオン司祭が先導してるの?」


 俺の呟きに少年が答えてくれた。


「召喚勇者は法王庁の管轄なんだよ。称号は王国が授与するんだけど、彼らの身元は法王庁に属すんだ」

「ふ~ん。そうなんだ」


 で、俺の視線はシメオンに続く者達を注視した。

 俺とは敵対することになるかもしれないのだ。

 特に金髪の男に要注意……って――――


 う、嘘だよな? ……どうなってるんだ?

 あまりのことに絶句した。

  

 彼らは見覚えのある学生服を着ていた。

 信じられない……いや、信じたくない。

 鳥肌が立った。決別したはずの過去が、魔王のように復活したのだ。



 

 ――――そう、そこに姿を現したのは、学生時代のクラスメート達だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ