新政権誕生⑦
趙汝愚は彼とは長い付き合いがあるが、彼が人の意見を聞き入れているシーンを一つも思い出せなかった。
以前の皇帝がかわいがっている側近を政治に携わらせようとしたところ、猛烈に反対しており、この時も自分の職務を五か月も放棄するという暴挙に出ていた。
仕事は確かにできるのだが自分の意にそぐわなかったら、その本性がむき出しになる。
それはわがまま、身勝手、横暴。
マイナス方面の単語しか出て来なかった。
「どうなさった、趙汝愚殿?」
「いいえ。何も……」
「ところで右丞相の件だが受けてくれるよな」
「とんでもない。留正殿、生憎ですが私では力不足ですよ。お気持ちは嬉しいですが、丁重にお断らせてもらいます」
趙汝愚は頭を下げて断りを入れた。
「どうした、趙汝愚?不服だったか?」
留正の趙汝愚に対する呼び方に「殿」が付いてなかった。どうやら彼の自尊心を少し傷つけたみたいである。
「不服なんてとんでもない。ただ若輩者の私には似合わない位なので、お断りしたのです」
若輩者という言葉がよほど効いたのか、留正は機嫌のよい顔になっていた。
「それは失礼した。趙汝愚殿の考えも分からずにとんでもないことをしてしまった。許してくれないか」
「こちらこそ、出過ぎた言動をお許しください」
「しかし、右丞相のが駄目ではそれに代わる位が必要だな。ふーむ……おっ、そうだ。参知政事を兼任するか?」
「まあ、それでしたら……」
参知政事は左右丞相の下に就くいわば、副宰相の位だった。通常は二、三人。多い時は五、六人が就任する位だった。
ちなみに兼任は単語の通り、本務の他に他の職を兼ねることである。趙汝愚がこの時持っていた位は枢密院の長官である知枢密院事であり、余端礼が持っている同知枢密院事より一つ上の位だった。
「では趙汝愚、決まりだな」
「はい」
その後は留正と世間話をちょこちょこして別れることになったが、別れる間際に趙汝愚はあることを思い出した。うっかりと大事なことを聞きそびれるところだった。
「留正殿、お待ちを」
「なんだね?」
「お尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「うむ」
「他の人々の人事は大体決まっておられるのでしょうか?」
「ああ。すでに仕上げてまとめた。気になるのでしたら、まとめた書物を拝見しますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ。今は屋敷に置いてますが、後で私の屋敷の者に届けさせましょう」
「ぜひお願いします」
頭を下げると趙汝愚は、留正と別れた。




