130.こんな時に頼れるのは……
火事の原因は、アパート一階の住人のたばこの不始末だったとのことだ。
……それが事実かどうかは、疑わしいところだけどな。
「お兄ちゃんの家に遊びに行こうと思ったらね、火がボオオオオーッてなってたんだよ。わたし建物が燃えているところを初めて生で見ちゃった。あんなに迫力があるなんてね。すごかったなぁ……」
伊織は笑顔で、身振り手振りを交えて俺にここに来た理由を説明した。
この姿だけを見れば、小さい子が親に今日あったことを話しているみたいで微笑ましく思えるのかもしれない。
だがしかし、状況が状況である。
人ん家が燃えているってのにこの態度……。しかも親父の後継ぎ候補として敵対すると明言している奴だ。疑うなって方が無理だろう。
この後大変だったものの、消防の方々の活躍で見事消火してもらえた。
しかし住むところも持ち物も失ってしまった……。
「火事!? そんな……っ。晃生くんは怪我をしなかったんだよね!? 大丈夫なんだよね!?」
アパートが火事になったと聞きつけて、エリカが心配して駆けつけてきてくれた。
不幸中の幸いは、エリカが丁度引っ越しを済ませていたということか。
俺たちの学校が二学期に入る前に、エリカは新居のアパートを契約していたのだ。こっちは当分居候でも構わなかったのだが、彼女自身が自立を求めたからこそこのタイミングになったのだ。
そのおかげでエリカが火事に巻き込まれずに無事だった。それに関しては心底ほっとしている。
「でもさ晃生……。これからどうすんの?」
羽彩が心配を隠せない様子で尋ねてくる。
「まあ……そう、だな……」
突然の火事で気が動転している。
そのことを自覚しながらも、なかなか平静を保てるものではなかった。悪の竿役も人の子ってことだ。
まずは、親父に連絡しなければならないだろう。
アパートの契約は親父名義のはずだからな。一応俺の世話代は払ってくれるつもりではいるらしいし、連絡をすればすぐに新しい生活を始められるように動いてくれるだろう。
「……」
だが、ものすっごく抵抗がある。
わかっている。こんな状況でワガママを言える立場にあるわけがない。それはわかっちゃいるんだが……。
できるだけ早く、親父の世話にならないようにする。
そう覚悟したにもかかわらず、すぐに親父の手を借りるというのが、どうにも引っかかる。素直に言えばプライドが許さなかった。
「今夜泊まる場所がないのなら、私のアパートに来る? 晃生くんが居候してくれるのは大歓迎だよ」
どうするか迷っている俺を見かねたのか、エリカが元気づけようと明るい声で気遣ってくれる。
「気持ちはありがたいが、エリカは引っ越したばかりで荷物の整理ができていないんだろ?」
「そうだけど……でも、二人でくっつけば寝る場所くらいあるよ」
「くらいって……。ちゃんと生活できるスペースがあるかも怪しく聞こえるんだが?」
いずれはエリカの新居にお邪魔させてもらおうとは考えているが、さすがに今は早すぎるだろう。また今度、片づけが終わってからな。
「私のお父さんとお母さんは厳しい人なのよね……。同級生の男子を家に泊めたいなんて言えば、驚かれるだけじゃ済まないわ」
日葵はすまなそうに眉尻を下げる。
たまに忘れそうになるが、白鳥日葵という女子は清楚な優等生なのだった。
肩書き通りの彼女であれば、両親が厳格な人と言われても納得できる。
……でも、本当に厳格な人なのか? 娘さんがとんだ淫乱ピンクだってのに、その親がまともとは考えられないのは偏見がすぎているだろうか?
「あっ、そうだわ。梨乃ちゃんの家はどう? 前に泊まっていたから、きっと問題ないわよ」
日葵はパンッと手を叩きながら、この場にはいない親友の名前を挙げる。
確かに、俺は以前黒羽家に泊めさせてもらった。
頼めばきっと、梨乃もさなえさんも文句は言わないだろう。
だからって、黒羽家でずっと世話になるわけにもいかない。
俺の女たちに甘えるのも選択肢の一つであるのは確かだが、寄りかかりすぎるのはあまり良い関係ではないように思えた。
「ちょっと二人とも! これは今だけの問題じゃないってば!」
羽彩が声を上げる。
俺に向き直った羽彩は、不真面目なギャルとは思えないほど真剣な眼差しをしていた。
「晃生、お父さんに電話しづらいってのはわかるよ。でもさ、今はそんなこと言ってられなくない? ちゃんと話し合って、これからどうするのかを決めなきゃいけないって、アタシは思うよ」
「羽彩……」
羽彩の言う通りだ。
女の家を転々として、その場だけの生活を繰り返したところで状況が良くなるわけではない。
俺が大人なら他にもやりようがあるのかもしれない。
けれど、今の俺はまだ高校生だ。一刻も早く日常生活を取り戻すためにも、いつかは親を頼らなければならなかった。
頼るのが早いか遅いかの違いであれば、できるだけ早い方がいいだろう。
「だな……。羽彩の言うことを聞いて、親父に電話してみるよ」
「そうそう。晃生のお父さんだって息子のピンチなんだから、きっとなんとかしてくれるって。それが借りって思うなら、晃生が将来すごくなってから返せばいいじゃん?」
羽彩がにししっと笑う。俺もつられて笑いが零れた。
「氷室ちゃんって案外しっかりしてたんだねー」
「そうよね。晃生くんの家どころか、持ち物も燃えてしまったんだものね……。できるだけ早く日常を取り戻せるように行動するのが先決だわ」
方針が決まったからか、エリカと日葵も安心したように笑みが零れる。
「じゃあ、電話してくるな」
「晃生ー、リラックスだよ」
「わかってるっての」
俺は羽彩たちから離れて、スマホをタップした。
『どうした晃生?』
親父は二回目のコール音で通話に出た。……早ぇよ。
◇ ◇ ◇
あれから数時間後。
「…………」
なぜか俺は初対面の女の子と、ちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。
女の子は真面目そうな中学生。垢抜けてはいないものの、黒髪黒目の純朴な美少女だ。
「……っ」
そんな女子中学生から睨まれている。というか警戒されていた。
く、空気が重たい……。
どうしてこうなったんだっけ? いや、説明とかいいから誰か助けてくれ!
今作の2巻が角川スニーカー文庫から10月1日に発売します!(突然の大声)
発表の許可が出たので早速報告してみました。今回も特典SSがありますのでお楽しみに(みんなが読めるカクヨムフォロワー用SSもありますぜ)
また随時告知していきますので、チェックしてもらえると嬉しいですぞ(書き下ろし情報とかね)





