125.いきなり妹と言われても……
朝の早い時間帯。空き教室で俺たちはスッキリしていた。
「アキくん……す、すごすぎます……♡」
そんな甘い声を漏らして、梨乃が恍惚とした表情で崩れ落ちた。
一見内気な眼鏡女子である彼女だが、一番の強敵であった。体力に自信のある俺が肩で息をするのだから、相当な運動量である。
「もっと、もっとして……晃生くぅん……♡」
「えへへ……晃生ってば仕方がないんだからぁ♡」
淫乱ピンクと金髪ギャルはすでに気を失い夢の中である。人にはお見せできない姿をさらしているが、眺めているのは俺だけなので問題ないだろう。
「ふぅ……」
軽く息をつく。
同級生美少女たちの痴態を眺めながら、俺は他の女のことを思い浮かべていた。
「つーか妹ってなんだよ……」
郷田伊織。俺のことを「お兄ちゃん」と呼んだ美少女である。
本人が言うには、今日からうちの学校に転入した一年なのだとか。
原作で転校生が来たなんてイベントはなかったし、郷田晃生に妹がいるなんて情報もなかった。
もちろん記憶を探ってみても、あんな赤髪ツインテールに心当たりがない。「お兄ちゃん」なんて呼ばれたのも初めてだったしな。
「てことは腹違いの兄妹ってか? こんな世界だと珍しくもないんだろうが」
どこの王族だよ、とツッコミたくなる。
それでもハーレム婚が許されている以上、多数とは言えないまでも周りにも俺と伊織みたいな関係が転がっていても不思議じゃない。
「痛ってえな……」
脇腹がズキリと痛む。
伊織が俺に抱きついていた時に、女子とは思えないほどの力が込められたのだ。
それはこの丈夫な身体にあざが残ってしまうほどの強い力だった。
「郷田の血縁者ってのは本当らしいな」
俺の身体は強い。それは尋常ではないと言っても過言じゃないほどに。
以前ボディガードの黒服連中とやり合った時でも、さほどダメージは残らなかった。
今回は喧嘩をしたわけでもないのに、抱きつかれただけでまだ痛みが残っている。
それだけで警戒に値する。少なくとも、ただの可愛い妹というわけではないだろう。
「晃生ー? 大丈夫?」
考え事をしていたからか、羽彩に後ろから抱きつかれるまで気づかなかった。
背中で温かくて柔らかい感触を確かめる。そろそろ感触だけで誰なのか判別できそうだ。
「もう目が覚めたのか?」
「べ、別に気持ち良くなりすぎて気絶してたわけじゃないしっ」
羽彩が早口で弁明する。そこ、別に今更隠さなくてもよくないか?
最初にスッキリしたのは羽彩だからな。それで復帰が早かったのだろう。
「あの子……郷田伊織って言ってたよね」
「ああ」
羽彩も気になっていたのだろう。おずおずとした調子で尋ねてきた。
「本当に晃生の妹なの?」
「わかんねえよ。俺が知りたいくらいだ」
知りたい……か。自分で口にしておきながら、なんとも空々しい台詞だ。
本当のところを言えば、別にどうでもいい。
それは妹のことだけではなく、家族関係のすべてだった。
今更両親との関係を改善しようとしても傷つくだけだ。
しかしこんな凶悪面をしていても、俺はまだ未成年。完全に無視するわけにもいかない。
必要最低限の協力を得て、晴れて成人した時に縁を切ればいい。それが俺たち親子にとって最善だろう。
だから、今更腹違いの兄妹と言われても困る。知らない妹なんかが現れても、俺にはどうする気もない。
俺には家族に関わるつもりが一切ないんだからな。
「ここ……痛むんだよね?」
羽彩が俺の脇腹を優しく撫でる。
そこは伊織に腕を回されていたところで、俺の女たちの前では「痛い」と口にしていないはずなのに、羽彩は的確に摩ってくれる。
バカのくせして、こういうところはよく見てやがるんだ……。
「まったく、郷田ってのは馬鹿力を持つ決まりでもあるのかってんだよ」
「見た目は全然似てないよねー」
「俺みたいな顔の女がいたら男も寄ってこねえよ」
「そうかな? 割とアリかなって、アタシは思うけど?」
「バカ言え」
羽彩は無邪気に笑う。つられて俺まで笑みを零してしまう。
羽彩の笑顔を眺めていると、胸の中が温かくなる。
そうだ。俺にはすでに居場所がある。
家族だからって、それがすべてじゃない。
大切な存在がすぐ傍にいてくれるなら、それでいいじゃないか。
「わっ!? ちょっ、晃生ー? 何すんのさ?」
羽彩を正面から抱きしめて、金髪の頭を撫でてやる。
びっくりした羽彩だったが、すぐに甘えるようにして俺に身を預けた。
「さて、そろそろ教室に行くぞ。せっかく早く登校したってのに遅刻しちまう」
原作知識のなかった妹が現れたくらいで、うろたえている場合じゃない。
俺は真面目に学業に励み、まっとうに生きていく。そして、俺の女たちを幸せにするだけだ。
「あ、晃生ー……」
「あん?」
羽彩が泣くような声で呟く。
「あ、晃生が頑張りすぎるから……腰が抜けちゃったんですけど……」
「……」
俺は無言で羽彩を見つめる。それから気を失ったままの日葵と梨乃に目を向けた。
「……もう少しだけ、ここでゆっくりしていくか」
二学期初日。俺たちは仲良く遅刻するはめになったのであった。
新作ラブコメ始めました。よければこちらも読みにきてもらえると嬉しいです(ヒロイン救済ものでもある)
『僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです』
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