夏休みの後半の始まり
「んふふ」
「ご機嫌だね……」
「ん? そりゃあね。なに、ヤキモチですかー?」
「そうだよ」
市子ちゃんと正式な恋人になって翌日、かなちゃんと自室で過ごしていると市子ちゃんから連絡がきたのでご機嫌に返事をした。
そんな僕をテーブルをはさんで向かい合って座っているかなちゃんは、いかにも機嫌悪そうにジト目で見ている。
もちろん、ちゃんとかなちゃんに関係が進展したことは伝えている。そこははっきりさせておかないと、変に勘違い挟みたくないしね。
「えへへ、ヤキモチ焼いてるかなちゃんもかわいいよ」
「……もっとフォローして」
「ふふ。そんなに催促しなくても、ちゃんとあとで、じっくり説明してあげるって」
「もう。朝一番から聞かされて、冷静に勉強なんてできるわけなくない? 鬼なの?」
「鬼じゃないよ。恋人だよ」
かなちゃんとはこの夏休み、予定があって午前中から出かけている時を除けば毎日こうして午前中は勉強会に当てている。なのでそうしているだけだ。
かなちゃんに伝える必要はあるし、それでかなちゃんがヤキモチ焼くのもわかってるし、かなちゃんの精神安定フォローの為にもその分、相手をしてあげるつもりだけど、朝は勉強の時間だからそうしてるだけなのに。そもそもこれかなちゃんから習慣化させたくせに。鬼って。
でもしょうがないか。僕は市子ちゃんへ返事をして会話に一区切りをつけてから、携帯電話を置いた。
そしてゆっくりとかなちゃんの隣に移動する。
「じゃあ、今から説明しよっか? どんな感じだったか」
「……うん」
一通り説明して、汗をかいたので順番にシャワーをあびた。
そうしてから、昼食をとってから勉強の残りをした。そろそろ宿題は全て終わる。とても順調だ。
「あ、そう言えば来週だっけ? 旅行行くの」
「あ、うん。お土産何がほしい?」
「土産話で十分だよ」
かなちゃんが僕の頭をタオルで拭きながら、そう聞いてきた。
来週末、僕は家族三人で旅行に行く予定だ。二泊二日で、親戚いる他府県に旅行に行く。お母さんの従妹で、観光兼顔をみせに行くらしい。
実は以前に一回だけ僕も会ったことがあるらしいけど、それから色々あって連絡はとっていても会っていなかったそうだし、僕が回復したし、折角だし行こうと言うことになった。
「土産話ねぇ。そんなの、別に言われなくてもすると思うし、そういう綺麗なこと言わなくていいから、普通にリクエストしてくれない?」
「綺麗事とか言われても。普通に、何もほしいものないし。あ、じゃあ、たくちゃん」
「馬鹿なの?」
そういうのは求めてないんだよね。そんで、それはそれで綺麗事っぽいこと言いつつ、変なとこ触ろうとしてくるのはちょっと。
「えー、だって、私が好きでほしいのって、この世でたくちゃんしかないもん。ずっと前から、ね」
「かなちゃん……お願いだから、そういうセリフは僕の胸触りながら言うのやめてね」
「えー、そんな、変な意味ないけど、触り心地がいいからつい」
「嘘でしょ」
男女逆ならともかく、僕の平たい胸を触って触り心地とかないわ。エロい意味で触りたがるのは、まぁそういうものだと理解したけど、触り心地がいいものではないでしょ。
かなちゃんに真剣に告白的なセリフ言われるの、結構好きだけども、その態度はいらっとする。そう言う下心しか感じない風なのに、そのたびにちょっと真に受けて結構ドキッとしてしまう自分がいるのが、余計にいらっとするんだろうけども。
「本当だって。たくちゃんはどこ触ってても気持ちいいもん」
「じゃあ僕の吐く息でも触っててよ」
「……息て。触れないじゃん。冷たい」
「息なんだから温かいでしょ」
「そういう事じゃなくてー」
「てか、暑いから普通に離れてよ」
「うー、つめたいつめたーい」
「はいはい。じゃあ、どうやったら温まる?」
「ん? そう聞かれると、別に。普通にイチャイチャしたいだけなんだけど」
ヤキモチモードは終わったみたいだけど、勉強を終えたことで、またイチャイチャ欲が出てきたらしい。それはいいんだけど、隣にすり寄ってきて触ってくるとか、暑苦しさもああるし、くすぐったいしうっとうしい。
「うーん。じゃあ、今日は普通にデートする?」
「普通にデートねぇ。何する?」
「えー。言われても。と言うか、僕的にはかなちゃんって、恋人だけど、家族枠でもあるんだよね。最近特に、距離感縮んだのもあって、余計、デートする必要ある? みたいな感じなんだけど。だって家で二人きりってもうそれ極めてるじゃん」
「えぇ、自分からデートって言いだした癖に。ていうか、私としては、普通に部屋の中でイチャイチャするのでいいんだけど」
「……うーん……、何ていうか、いいんだけど、かなちゃん前は僕とデートするってなってめっちゃ喜んでくれてたのに。なんか僕の扱いずさんになってる気がする」
「え。そ、そんなことないけど。大事にしてるよ」
「まぁ、大事にはされてる……あれ? 体的には大事にされてないのかな?」
正直僕自身が嬉しいから、どんどんしてるけど、これ男女逆なのを考えたらかなちゃんかなり僕の体目当てのような付き合いになってるぞ?
「か、体的にって、たくちゃんの体目当てみたいな言い方しないでよ。私は真剣なんだから」
「うん。それは信じてるし、わかってるよ」
そうじゃなきゃ、5年近くも犬扱いされた状態で僕を守って好きで居続けてくれたはずがない。それは疑ったことがないし、今後も疑うことはないと言い切れる。でも最近の態度はそんな感じってのは実際そうだよね。
まぁ、かなちゃんが僕のことで嫉妬するのは当然だし、その分十分に僕が応えて安心させてあげたいのは本当だ。それは今後も変えるつもりはないけど、それと関係なくいちゃいちゃもするわけで、どうしても頻度が多い。
この夏休みは予定が多いのもあって、かなちゃんと予定を立ててお出かけするデート数はそう多くないけど、こうして家で会うのはほぼ毎日なわけで、その内半分はお姉ちゃんは部活でいない訳で、まあ、そうなっちゃいますよね。
「うー……今度、デートしよっか」
「まあいいんだけど。どうせ夏休みも半分終わるし」
「ん! そう言われると余計に、デートの思いで作りたい、かも」
「かも?」
「んー。でも、海とかはなぁ、二人だと無理そう。四人ってなると、またいつも通りだし。どーしよ」
確かに、わかりやすく夏っぽくて、かつデートっぽいけど、あんまり遠出ってなると日帰りでもお母さんとかに言うことになる。そうなると反対される可能性がある。
海とか僕の想像の時点で、人が多そうだし、ナンパしてくるギャルとか街中でも割合居るのに倍以上いるって考えたら、結構大変そうだ。二人だと危ないとかって言われる可能性は十分ある。
「夏ー、あ、花火しない? 家の庭なら大丈夫でしょ」
「大丈夫だろうけど、多分詩織さんもおばさんも一緒だよね」
「確かに」
結局この日は、一日色々考えたけど、大した妙案はでないまま、だらだらいちゃいちゃするだけで終わってしまった。明日はクラスメイトと遊ぶ予定だし、ぼちぼち考えて行こう、と言う結論になった。




