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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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夏祭り2

「あー、よかったー、合流できて」

「本当に、会えないかと思いましたよー」


 その後、無事、二人と合流できた。いやぁ、よかったよかった。しかし、なんだ。

 この密着具合を、市子ちゃんに見られるのはまた、違った気恥しさがある。本人普通にスルーしてくれているけど。


「二人とも待った? お腹は減ってる?」

「そんなに待ってないから大丈夫ですよー。こっちはこっちでてきとーに食べたんで、そんなに減ってるってこともないので、大丈夫です。ですけど、いやそれより先に言うことありません?」

「え? ……え、ごめん、私、何かしたっけ?」


 普通の感じで話しかけたかなちゃんに、歩ちゃんが半笑いで問いかけると、かなちゃんは真顔で少し考えてから首を傾げた。マジか。


「え? いやぁ……ねぇ? 市子」

「え? 私に振らないでよ」

「いや私の方が部外者ですし?」

「部外者って……じゃあ言うけど。その、加南子、恋人なのはわかってるけど、そんなあからさまにくっつかなくても」

「え。あ、ち、違う違う! そ、その。違くて。たくちゃんが人ごみで痴女とかされないようにしてただけで、変な意味ないから!」



 市子ちゃんと歩ちゃんが擦り付け合った結果、市子ちゃんがやんわり指摘すると、かなちゃんは僕を見てからはっとして、慌てたように僕を離した。もはや無意識レベルでくっついてたの? ひくわ。

 そんなかなちゃんの反応に、二人は苦笑する。


「あー、うん。そうか。じゃあとりあえず、三人で囲う?」

「う、うん。それで、別れたら市子ちゃんも腕組むくらいした方がいいよ」

「えっ、ま、まじか。わ、わかった」


 お、おう。市子ちゃんとはまだ、手を繋いで、頬にキスするだけだ。まだまだ、恋人にしては純粋な関係なので、かなちゃんと同じことをするとなると、ちょっと、やっぱり、照れる。

 かなちゃんもそれはわかっているだろうに、簡単に言ってくれる。まぁ、状況的に僕の為だってことだから、しょうがないんだろうけど。


 とりあえず、流れで僕は三人に囲まれた。なんだこれ。なんというか。女の子に囲まれて両手に花的な感じななくて、SPに囲まれてるみたい。全員僕じゃない方見るのやめよ? 新手のいじめか。


「あのさぁ、もっと普通にしてくれない? 確かに痴漢されてたかもしれないのは認める。でもそれは後ろとかなんだから、囲まなくても、横と後ろに居てくれたら十分だから」


 普通に二人二人で縦に並んで僕が前列なら解決でしょ。妙なことしないでほしい。変に目立つし恥ずかしい。


「まぁ、それでもさっきより厳重だしいいけど」

「うん。とにかく、もうちょっと普通に遊ぼうよ」

「そうですね。それでは気を取り直して、行きましょうか。昼の部のお神輿がそろそろ帰ってきますよ」


 街中をぐるっと一周してきたお神輿が、神社に帰ってきて、本宮へと戻る。その中でも、鳥居前で一番大きくパフォーマンスをしてくれるので、鳥居前が見どころだ。本宮に入るとこもいいけど、人が多いからずっとついて行って見ることはできない。どこかで妥協しないと、となるとやっぱり鳥居前だ。


「うん、じゃあたくちゃんの右から、私手を繋ぐから、後ろもはぐれないように肩掴んでね」

「え、あ、は、はい。それでは失礼します……っ!」

「あ、うん、どうぞ」


 僕の後ろに立っていた歩ちゃんが、めちゃくちゃ気合入れた感じで言って来たので、若干引きつつも返事をする。そんなに緊張しなくても。肩に手を置くくらいで。人ごみの中はぐれないようにするわけだし、まさか上半身裸ってわけでもないから、普通に服越しなのに。

 そして、かなちゃんが当然のように言ってやってるけど、なんだこの電車さんごっこ。目的はわかるけど、なんで肩をつかむのか。おかしくない? 市子ちゃんもかなちゃんの肩つかんでるし。まぁ、他のみんなも異論ないならいいんだけども。


 恥ずかしい気もするけど、どうせ元々視線を受けてるし、混雑のお陰で遠目には見えないんだから、開き直ってスルーしてこのまま行った。


 軽快な笛と太鼓の音を先頭に、たくさんの人がお神輿をかついでいる。当然のように全員女の人なのはいいし法被なのももちろんいいんだけど。あの、さらし巻いてるだけでシャツも着てないのに、だいぶ法被が着崩れてるんだけど。ていうか、結構普通にエロんだけど。え、これヤバくない?

 だってあんな、ほぼさらしが丸見えだし肩まで見えてる人もいて完全に下着つけてないし、汗だくで激しく動いてるし、え。いくら女の人の胸が向こうみたいにそんなエロ扱いじゃないって言っても、これいいの?


「……」

「わー、こんなに近くで昼間に見たの初めて!」

「私も。昼間に見ると迫力が違うよね!」

「凄いですよねー。自分ではやりたくないですけど、見る分には圧巻です!」


 あ、ガチで誰も気にしてないや。うん。よく見ておこう。









「いやー、真剣に見たの初めてだけど、結構迫力あったよねー」

「そうですね、人が多いから敬遠してましたけど、よかったですね」

「うん。私たちも遠巻きにした見たことなかったもんね」

「え、う、うん」


 ふー、思わずぼんやりしてしまった。いやー、確かに、凄かった。

 本日のメインイベントも終わった。後は市子ちゃんとぶらっとデートするだけだ。あ、だけって言い方はなんか感じ悪いな。もう何度かしてるって言っても、そんな消化試合的な扱いするほどじゃない。かなちゃんならともかく。

 よし、気持ち切り替えて行こう!


「じゃあ、そろそろ解散しよっか」


 言いながら市子ちゃんの手をとり、気持ちを高めていく。女の子らしい手だなぁ、ちょっと汗ばんでるけど……あ、なんかちょっと、やばいな。ちょっと、さっきの余韻と言うか、その気になってしまうなぁ。


「あ、う、うん! えっと、じゃあ、悪いけど」

「はいはい、ごちそーさまです」

「じゃあ、またね。たくちゃんは一応、家に着いたら連絡ちょうだいね? 心配だし」

「分かってるって」


 そんな心配そうに念押ししなくても、その気持ちも、かなちゃんにも立場があるってのもわかってるから、別にうざがったりしないから。


 とにかく二人と別れた。まだ市子ちゃんとは清い関係だし、変に意識しないようにしないと。


「えっと、喉渇かない? なにかおごるよ」

「そんな気をつかわなくてもいいけど、まぁ喉は渇いたね」

「あれ買う? あの、電球の奴」

「あー、あれ割高じゃない?」

「可愛いと思うけど」


 流行っているのは知ってる。でもライトとかついているし、そうでなくても屋台の飲み物って割高なのに、必要ない容器とかで割高なのはちょっと。とつい思ってしまうけど、でもデートだし、あんまり値段を気にするのは無粋か。


「まぁ、可愛いけどね。でもあれだと、ストロー二本させないから、間接キスだね」

「!? え、べ、別に、二個買う、よ?」

「結構量あるし、喉渇いたって言っても、微妙に残らない?」

「う、まぁ……じゃあ、そうしよっか」

「うん」


 と言うか多分、普通にカップの買ってもストローは二本さしてくれないと思うけどね。でも我ながら、なかなかいい感じに恋人っぽい雰囲気にもっていけたぞ。


 手を繋いだだけじゃなくて、いつもより距離も近い。かなちゃんの腰を抱くほどじゃないけど、肩が触れ合ってる感じで、結構ドキドキする。


 屋台が見えてきた、のはいいけど、やたら一部人が詰まっていると思ったら、これ全部電球ソーダの屋台に並んでいる人だったのか。そんなに人気か。


「す、すごい並んでるね」

「そうだね。やめる? あ、かき氷はどう? 似たようなもんでしょ」

「え、全然似てはいないけど、卓也君がそれでいいなら、そうしようか」


 電球ソーダ屋のすぐ近くにあるかき氷やが目についたので路線変更する。

 そっちは2、3人しか並んでいない。さっきのと比べたら、並ぶうちにも入らないくらいだ。すぐに買えた。ちょっと悩んだけど、そんなに多くないし、僕はブルーハワイ。市子ちゃんはイチゴ味で二つ買った。


「あーー!!!」


 さてどこで食べようか、と歩きながら探していると突然、子供の悲鳴のような声がして、はっとしてそっちを向いた。


「馬鹿、なにしてんだよっ」


 僕らのすぐ横の屋台の脇のスペースで、買ったばかりか結構な量のかき氷をこぼした小さな女の子がいて、その隣には見知った女の子がいた。


「木村さん」

「ん。あ、さ、酒井君。と、木野山か。どうしたんだ?」


 クラスメイトの木村さんだった。よく見れば落としたのも妹さんだった。


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