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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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夏祭り

 児童館の夏祭りが終わり、その数日後、僕にとっての夏祭り本番がやってきた。本番と言うか、スタッフ側じゃなくて楽しむ側の、近場で一番大きな神社の夏祭りだ。

 いつもの4人のみんなで、と思っていたけど、僕の知らないうちに順番にデートする3部制になっていた。


 昼過ぎに普通にかなちゃんと一緒にお祭りに行って、しばらくデートしたら、市子ちゃんと歩ちゃんで遊んでいたのと合流して、4人でしばらくゆっくりしてから、市子ちゃんとデートする流れらしい。

 ふむふむ。ていうか、お祭りって夕方からのイメージあるけど、お昼から行くのか。小学生ぶりだし、その頃は普通に子供だけで夕方以降外出できないから、当然昼間って感覚だったけど。まぁ治安悪いかもだし、昼間でもいいんだけど。


「え、かなちゃん……なんで浴衣じゃないの?」

「え、そんなこと言われても。持ってないし。ていうか、浴衣持ってたんだ。似合うよ」

「ありがとう」


 早めの時間にやってきて、いつも通り我が物顔で部屋まで入ってきたかなちゃんは、てっきり浴衣だと期待したのに、普通の私服だ。一応デートって言ったくせに。がっかりだ。

 まぁ、とか言って僕もそんな気はなかったし、何故かお母さんがすでに浴衣を用意してくれていたし、朝一で着付けの仕方を教えつつ着せてくれたから着ただけなんだけど。


「ねぇ、たくちゃん、着物、似合うね」

「ありがとう。でも二回も言わなくていいよ」

「まぁまぁ、言いたいんだから、いいじゃん」

「……暑いんだけど」


 まだ出発まで時間はあるので、ベッドに座ったまま応対していたら、いつもならベッドのふちに座るかなちゃんが、ベッドにのりあがった僕の真横に座ってきた。暑苦しい。今日は特に暑いから、かなちゃんは短い短パン、ホットパンツって言うんだっけ? まあそれだ。うん。ちょっとむちっとした感じの足が、恥ずかしげもなく出ている。

 とりあえず撫でておく。


「言いながら触るしー、たくちゃんのスケベ」

「は? かなちゃんが触ってほしそうにするからでしょ?」

「んふふ。別にそんなことないけど、だって、浴衣似合うから、ね? ちょっといちゃいちゃしたくなったって言うか」


 言いながらかなちゃんは、慣れた手つきで僕の頬に触れると、顔をよせてキスをしてきた。触れるだけのキスをしながら、どきどきしてきた心臓を抑えて目線だけで時計を確認する。残念ながら、シャワー浴びたりする時間はない。

 キスを終えてにやつくかなちゃんに釘をさしておくことにする。


「言っとくけど、そんなに時間ないし、しないからね?」

「分かってるっていうか、逆に期待させちゃった? ごめんねー、たくちゃんのスケベ度を見誤ってたかも?」

「うるさい黙れ」


 僕はかなちゃんがすぐエッチなことを考えるのを、あえて言葉で指摘せずに、やんわり言ってあげたと言うのに。さっきからなんだこのデリカシーのなさは。これが彼女とか、どういうこと。あーあ、人選間違ったわー……。まあ、好きなんだけど。


「わー、こわいなぁ、男の子なのに、口が悪くていけないんだ」

「……だったら、ふさいだら?」

「うん、そーする」


 しばらくの間、キスをした。もちろん、途中から勝手に人の襟もとにさしこんできたかなちゃんの手は押し返しておいた。








 お祭り会場は、平日の昼間だと言うのに初日だからかかなりの賑わいだった。これは、ちゃんと後で合流できるか不安になるくらいだ。

 かなちゃんとしっかり手を繋いで、はぐれないようにしないと。


「たくちゃん、なんなら腕くむ?」

「いや、それだと邪魔でしょ」


 腕組みしてがっちり固まったら、どう考えてもこの人混みでは歩きにくいし邪魔だろう。手を繋いでいざとなれば縦にも並べるくらい自由がきく方ががいいでしょ。


「合流場所どこだっけ」

「本宮前だけどさぁ……まだ、私とのデート中なんだけど?」

「フライングがあったからね」


 もう今日は十分かなちゃんといちゃいちゃしたし。そんなジト目で見られても。すでに気持ちはお祭りに移っているから。

 にしても、当然のように四人でいる前提ではあるけど、その内二人が恋人だと、歩ちゃんになんか申し訳ない気もする。だって逆の立場だったら、絶対気まずいじゃん。嫌過ぎ。

 気まずく感じたりさせないように、そこは僕が気をつけなきゃだよね。四人の時は絶対、変な感じにならないよう、友達オーラ全開でいく。てなわけで、早めに友達感だしていこう。


「何か食べる?」

「うーん、かなちゃんはお腹減ってる?」


 一応。色々食べる可能性を考慮して、お昼は本当に軽く、おにぎり一つだ。まだおやつの時間にも早いくらいだけど、はいることははいる。僕でこれなら、かなちゃんはお腹すいてるのかな?


「そうでもないけど、やっぱり匂い嗅ぐとね。いい匂いじゃない?」

「まぁね」


 それはわかる。ソースの匂いも、醤油の匂いもたまらない。

 混雑しているので、歩みは遅く、その分じっくりと周りの屋台を見ることができる。お、イカ焼きだ。定番のイメージだけど、そう言えば食べたことがない。


「ねぇ、かなちゃんってイカ好きだっけ?」

「え、まぁどっちかと言えば。イカ焼き?」

「うん。半分こしようよ」


 一匹はさすがに多いし。あ、イカはいっぱいって言うんだっけ? どうでもいいけど。


「いいけど、色気のないチョイスだねぇ。リンゴ飴とか、ベビーカステラとか、可愛いのあると思うけど」

「普段の僕を見て、そんな可愛い系アピールしてると思ってたの?」


 可愛いと思われたいと考えたこと一回もないけど? いや実際にそう言われること自体は悪い気はしないけど、率先してアピールしたりしないから。

 かなちゃんはふと真顔になると、何故かにこっと笑って僕を引き寄せて軽くハグして、屋台に近寄る。


「一つください」

「はいよ、400円だよ」


 狭いし、ここは普通に奢られておく。お金を払ったかなちゃんはまた馴れ馴れしくも僕の腰に手を回してきたので、しょうがないので僕が受け取る。そのまま誘導される形で、お店とお店の間のちょっとした空きスペースの一つに入って立ち止まる。


「ここで食べちゃおう」

「うん。どうぞ」


 体を離したのでかなちゃんの手も空いたけど、どうせなのでそのままかなちゃんの口元に持って行ってあげる。

 かなちゃんは少し驚いたように目を見開いたけど、一瞬まわりに視線を走らせてから、はにかみつつ口をつけた。


「ん。ありがと」

「美味しい?」

「うん。美味しいけど……へへ、たくちゃんが食べさせてくれると、なんでも美味しいから、実はよくわかんないや」

「お手軽な舌だね」

「なんだとー。そんな生意気を言うたくちゃんには、こうしてくれる」


 かなちゃんは僕からイカ焼きを奪うと、今度は僕の口元に突き付けてきた。

 う。これ、いざ自分がされる側になると、結構人の視線気になるな。僕が男ってだけでこんな陰にいても結構チラ見されるのに。


 でもこの流れで断ることはできないので食べる。うん。美味しい……。ちょっと、どきどきして味がマヒしてるけど。


「普通に食べよっか」

「あ、ほーら。たくちゃんだって、味が分からないんでしょ」


 得意げにされた。ちょっと悔しいけど。まぁしょうがない。


「てか、さっき勝手に僕の腰に手を回してきたでしょ。なんなの? セクハラやめてよ」

「は? 本気で言ってる?」

「え、な、なに? その顔」


 注意って程じゃないけど、軽く文句を言っただけなのに、キレ顔を寄せられた。


「……たくちゃんのせいではないんだけど、さっき、普通に通行人から痴女されてたでしょ?」

「え? いやそりゃ、この人ごみだし、ぶつかりまくってたけど。それはしょうがなくない?」

「気づいてないのが、それが本当に問題だし、警戒心がなさすぎなの」


 怒られた上に、とにかく移動中はさっきのようにくっつくことを宣言された。

 そういう事ならしょうがないし、いいんだけど。いいんだけど本当かなぁ? なーんか、言いくるめられた気がしないでもない。


「じゃ、食べ終わったし次行こうか」

「うん」


 ゴミは手近なゴミ箱にいれて、さっきみたいに密着した状態で歩き出す。

 ……さっきは一瞬だと思ってスルーしたけど、こうしてみると、結構視線気になるかも。そんで確かに、ぶつかってくる人断然減った。わざとだったのか。くそぅ。姑息な。

 でもなんていうか、こうして守られている感じも、悪くない、かな?


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