児童館でのボランティア 夏祭り
今日はボランティア部の活動日だ。以前から楽しみにしていた、児童館での夏祭りだ。昨日打ち合わせをして、配役なんかは全部決まっている。お昼過ぎに集合して、みんなでテントの設営などをしていく。
僕はあんまりの力仕事はちょっと、遠慮して感を出されたので、しょうがないので比較的楽な小道具を運んだりとかしていた。
「卓也君、大丈夫? 重くないかな?」
「大丈夫です。このくらい、平気ですよ。部長こそ、結構、力持ちなんですね?」
「おっと。初期評価が気になるけど、へーい、惚れちゃった?」
かなちゃんも準引きこもりだった割に体力とか腕力あるので、普通に一馬力として役に立っている。なので足手まといな僕は、まとめ役的な部長のお供をしています。部長も別に腕力自慢じゃなさそうなのに、意外と普通に怪力お化けでビビる。惚れないけど。
「惚れませんー。っと、この辺でいいですかね?」
「ちょっとまって。机立てちゃうから、その上に箱置いてくれる? よい、しょっと」
すでにたてているテントの一つに、部長が素早く長机をセッティングしたので、その上に置く。と言うか、今普通に片手で振り回すように持ってたし、しかも両脇に机抱えたままだし、ほんとにどんな力だ。
でも先の部長のセリフ的には、女子は力持ちの方がモテるのか。正直強すぎても恐いけど。脇に手を挟んだら骨折させられそう。怖すぎ。いや挟まないけども
「ありがと。じゃ、私は先に他の机並べるから、受付っぽく並べてね」
「はい」
残り二つの机を同じように広げる部長を横目に、段ボール箱から中身を取り出す。
受付、と書かれた立て札に、箱入りの、今日だけ使える金券。そしてお金の出し入れするためのケース。現金入りの金庫はぎりぎりに園長先生が持ってくる。そして机とかにはる飾りだ。
まず立札をたてて、飛ばないように重りをのせる。次いで、机の外側に大きな字で書かれたこれまた受付とわかる紙をセロテープでとめる。夏祭りっぽい団扇形の紙細工をてきとうに貼り付けていく。
「おー、いいね。いい感じだよ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、次は椅子だねー」
椅子を並べたら受付回りは完了だ。他の作業で手が必要なところを手伝っていく。例えば、水風船の水入れ、空カップの補充、遊具が動かないように固定、等々。色々こまごましたことをしたりして、夕方ごろには何とか準備を終わらせることができた。
「今日はお疲れさまでした。みなさん、ありがとうございます。明日もよろしくお願いしますね」
園長先生に労われて、お礼の紙パックのオレンジジュースを片手に家に帰る。結構疲れたけど、明日が楽しみだなぁ。
「明日、たくちゃんは放送担当するんだよね」
「うん。お店もしたかったけど、そこだけ変にお客さんが来たら困るって言われたし、しょうがないよ」
本当は、決まった時は結構残念だった。それに実際、そんなことあるかなって思いもある。普通にこうして生活していて、たまにナンパされる以外でそんなに頻繁に困ったことが起きたりしない。だけど確かに、急に僕の前に列ができたことも、経験としてなくはない。だから自意識過剰すぎるってことはないんだろう。しょうがない。それだけ男がいないってことなんだから。
「残念だけど、まあしょうがないよね。たくちゃんが女の子か、それかもっと不細工ならチャンスもあったんだけど」
……え? それ、慰めているつもり? 仮にまぁ、百歩譲って女の子なら、はいいよ。うん。不細工ならって。仮に不細工でも、何というか、それだけでみんなの態度変わりますって普通に言われているのもなんか、そりゃそうだろうけど、なんかあんまりそんな堂々と言ってほしくないし。
てか、聞きようによっては僕が女の子や不細工でなくて残念、みたいな、そういう言い方はどうなの?
「あのさぁ、仮にも彼氏に、そういう言い方する?」
「え? 彼氏だからこそ、たくちゃんはイケメンって堂々と言えるんだけど?」
「……そ、そういうことじゃなくて」
てか、え、今のそういう意味で言ってたの? あー、確かにそうもとれるか。でも、うぬぬ。こっちだって、可愛い彼女の口からさらっと不細工何てあんまり聞きたくない言葉が出てくるから、あんまりいい気持ちじゃなかったのに。
イケメンとか言われると、その、身内びいきの言葉だとわかってても、嬉しい。
「とにかく、まあ、そういう例え方は嬉しくないから、今後やめてね」
「そう? わかった。でも放送係か。私も一緒じゃなくて、本当に大丈夫なの?」
「部長と園長先生が一緒なんだし、大丈夫だよ」
放送係、とさっきから言っているけど、放送機材のあるところで待機している全体進行を見守りつつ迷子の保護をしたりする、当日お祭りの最中で唯一建物内で待機する係になる。
なので最初からそれぞれ一番偉い園長と、部長とが基本的にいて、そこに僕が安全だし裏方だからと配置されることになった。かなちゃんも一緒の方がいいかと部長は言ってくれたけど、例年から見てそれなりの盛況が見込まれていて、人手はぎりぎりだ。
僕の為にかなちゃんの手をとらせるわけにはいかない。部長の代わりになるには、僕とかなちゃんでは役者不足だしね。
「まあそうだけど、あー、でも、やっぱりちょっと心配だなぁ。部長とか、結構格好いい系だし」
「そう? どっちかと言えば美人系って言うか……なにその目は」
ちょっと悪戯っぽい感じにだけど、自分から言い出した癖に、僕が反論するとジト目を向けてきた。
「何って言うか。はぁ。なんだか、不安だなぁ。最悪部長はともかく、園長先生を愛人とかやめてよ?」
「僕のことなんだと思ってるの?」
「あと、犯罪的に小さい子もやめてね?」
「そろそろ怒るよ?」
そんな簡単に愛人にしたりしないし、向こうにも選ぶ権利あるとかおいといても、園長先生は何歳だと思ってるの? 僕は性欲お化けか。ロリコンでもババコンでもない、ごく普通の性欲だからね?
そりゃあ、年上に興味ないとは言わないし、大人の女性っていいなって思う。年下が駄目ってことはないし、中学生くらいなら全然可愛い。でも園長先生とか小学生とか論外でしょ。人をからかうのもいい加減にしなさい。
「ごめんごめん、半分冗談だよ」
「それ半分本気のやつ。って、マジで半分本気で言ってたの? 僕そんなに信用なかったの?」
「信用はしてるけど、優しいし、流されやすいし、その気になりやすいし、ビッチだから」
はい、信用してないね。えー、まじで? そんなガチめに心配されてるとは。
「かなちゃん、僕はかなちゃんが好きなんだから、せめて心配するにしても、そういう全然離れた年代の心配はいらないから」
「えー? でも私と市子ちゃんの時点で全然タイプは違うんだけど」
「タイプは別でしょ。むしろ別だからいいって言うか、同じならかなちゃんがいるわけだし」
「ふむふむ。つまり女子高生でタイプ別にコンプリートしたいと」
「そんなこと言ってないんですけど」
大人の働く女性もいいと思うよ。なんてね。と言うか、気づいた。かなちゃんもわかっててめんどくさい女ぶってるだけだな、と。しょうがない。ちょっと恥ずかしいけど、適当にちやほやしてあげよう。
「拗ねてるかなちゃんも可愛いよ、好きだな」
「う……もう一声」
はい、やっぱりね。わかっててもすぐなんにでもヤキモチ焼いちゃうかなちゃんは、ついでにそれを口実にイチャイチャしたかったんですね。
「すぐヤキモチ焼いちゃう、情熱的なところも、好きだな。可愛いよ。可愛いかなちゃんに、そこまで思われて、ぼかぁ幸せだなぁ」
「んふ。ぼ、ぼかぁ、とかふざけないでよ。なにキャラなの」
笑いながら怒られた。肩をつつかれるように怒るのが、なんか可愛くてきゅんとした。なんかちょっと、チューしたくなってきた。
「そう言えば、今日はまだ、二人っきりになってないよね?」
「え、お、はい。そうすね」
意味ありげにゆっくり言ってあげると、見るからに動揺したかなちゃんは、にやけながら何故か敬語風に相槌をうつ。ああもう、可愛いなぁ。
「家、寄ってく?」
「是非是非」
月、水、金の週に三回午前10時更新になります。




