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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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家族の考え方

 市子ちゃんと三回目のデートで、初めてのキスをした。市子ちゃんは全然慣れてなくて、緊張しすぎで酸欠になっていて、でも可愛かった。

 唇の感触も、かなちゃんと全然違って、楽しい。そしてその時は純粋に市子ちゃんとの関係を楽しんでいるわけだけど、その後家に帰ってからかなちゃんと復習デートするのもめっちゃ楽しい。


 市子ちゃんといる時はそれほど罪悪感とか感じなくなった分、かなちゃんと部屋でその日を振り返りながらかなちゃんとデートっぽくいちゃつくのは、異様なテンションになっている。今のところかなちゃんもストレス感じてないどころか、次はいつ市子ちゃんとデートする? とか聞いてきて楽しんでいる感がある。

 自分で言いだしたことだけど、軽い気持ちだったのに何だか、あんまり踏み込んではいけない世界に踏み込んでいるような妙な倒錯感がある。でも気のせいだよね、多分。


「最近、機嫌がいいな。加南子とうまくいっているのか?」

「え、そう? えへへ。まあ、そうだよ」


 夕食時、お姉ちゃんが急にそんなことを聞いてきた。何だか、どっちかと言うとしかめっ面な感じだ。でも特に、かなちゃんとの交際は否定されていない。

 最初は、えって感じだったけど、僕が自分の意思で付き合っていることを言うとちゃんと納得してくれた。


 普通に話題の一つとしてか聞いてきたけど、今までも特にからかわれたってことはないので、照れつつも頷く。お姉ちゃんは少し微笑んで、そうか、ならいい。と言った。心配してくれてたのかな?


「え? なに? ……え? か、加南子ちゃんと、付き合ってるってこと!?」

「ん? あれ、言ってなかったっけ?」


 一緒に食卓についているお母さんが、よっぽど驚いたのか、大き目な声をだした。しかもご飯粒いっことんだ。汚い。

 でも、特に隠してなかったし、なんかもうお母さんも知ってる気になってた。言ってなかったっけ。言ってなかったか。


「き、聞いてないわ……も、もちろん、別に、報告義務があるとかではないんだけど……お姉ちゃんに言っているなら、私も知りたかったなー、なーんて」


 見るからに動揺しているお母さんは、どばばと明らかに適量を通り越した分量のソースをカツにかけている。ああ、せっかく、帰宅時間に合わせて揚げなおしてサクサクにしたのに。ソースでどろどろに。


「ごめんごめん。隠してたつもりはないけど、忘れてた。ソースつけすぎだよ」

「え、あ、あら、ごめんなさい。せっかく作ってもらっているのに」

「いいよ」

「と言うか、母さんも鈍くないか? 加南子と居る時の距離感を見たら、変わっているだろう?」

「いや私、昼間は家にいないんだから」

「休みの日も顔を合わせていなかったのか。考えてみたら、あいつめちゃくちゃ自由に出入りしてるな。我が家のように……なんか腹立ってきたな」


 お姉ちゃんはむむっと、さっきと比べても明確に眉を寄せた。

 あわわ。ただでさえ低いかなちゃんの評価が。確かに僕も時々、図々しい感じで入ってくるとは思ってたけど。フォローしないと。


「ま、まぁまぁ。お姉ちゃん落ち着いて。未来の妹なんだし、許してあげてよ」

「……卓也、そこまで加南子のことを思っているのか?」

「えっ、そ、そこまでって言うか。まあ、具体的に考えてないけど、普通に一生一緒にはいたいけど」


 はっとしたようにお姉ちゃんが聞いてきた。そんな深刻に聞かれても。恋人だし、未来の候補って軽い気持ちで言っただけなのに。そんなガチで聞かれると恥ずかしい。


「たくちゃんは、加南子ちゃんのこと、好きだったものね。よかったわね」

「あ、う、うん! えへへ。ありがとう、お母さん」


 照れる僕に、お母さんがさらに照れることを言ってくる。でもその内容は純粋のに僕とかなちゃんのことを祝福してくれていて、胸が温かくなる。


「いいのよ。たくちゃんが幸せなら。あ、でも、順番とかはちゃんと守るのよ? あと、できれば大事なことは教えてね? あんまり口うるさく言うつもりはないけど、家族として、心配なのよ」

「うん。ありがとう。あ、そうだね、じゃあついでに言っておくと、まだ本決まりって訳じゃないんだけど、愛人になりたいって子もできたんだ」

「……は?」

「え、た、たくちゃん? え? あ、愛人?」

「え? な、何その反応。恐いんだけど。え? 愛人って、あるよね? あの、法的に、準夫婦的な奴」


 一応、かなちゃんたちから説明を受けてから自分でもネットで検索してみて、そんなわけないけど全員で話を合わせているわけじゃない。現実の話だってことを確認している。

 だから、愛人も家族枠だと思うし、何となく流れで軽く触れただけなのに、二人ともお箸を落とすほど動揺している。


 なにこの反応。恐い。


「それはまあ、あることはあるが……そんなものを利用するのは、よほど金の亡者か、女好きか、とにかくよほどの人間だけだろう。何を当然のように言っているんだ」

「え……で、でも、えっと」


 えっと。えー。どう言おう。確かに、調べた結果も利用割合めっちゃ少ないみたいだけど、でもだからって、そんな偏見もってたなんて。

 悪いことをしているわけじゃないのに、なんでそんな恐い顔してるの? 普通にびびる。てか、かなちゃんのこと歓迎していないお姉ちゃんなのに、他につくるっていうとそんな反応なの? 法的にOKだけど世間一般の扱いでは浮気者みたいな扱いになるってこと?


 言葉に詰まる僕に、お姉ちゃんは落ちたお箸をひろって、置きなおしてお茶を飲んでから、改めて口を開いた。


「待て。順番に、説明してくれ。どうしてそんなことになったんだ」

「それは、えっと、まず僕の友達に市子ちゃんって子がいるんだけど、その子が愛人になりたいって告白してきたんだ。その時、かなちゃんは先に話を聞いてからだったから、僕としてはなんで? って思ったんだけど、かなちゃんは自分が万が一間違った時の為に、愛人がいた方が安心だって言ったんだ。もちろん絶対作れとは言われてないよ? あくまで居ても安心するから、僕がいいと思うならつくってもいいよってことだったみたい。そういう風に言われたら、まぁ、断るのも悪いし、まあとりあえず候補ってことでいいかなって」


 って、あれ? 思いつくままに説明したけど、なんか、これだと僕が完全に流されて告白されたら誰でも愛人にするみたいに思われない? それこそさっきお姉ちゃんがいった女好きみたいに。

 いやでも、市子ちゃんのことはよく知ってたし、あくまで友人としては好きだからOKしたわけだし、もちろん見た目的にも性格的にも結構可愛い子なのは知ってたし。ん? いやこれを言うと、告白される前から、恋人以外にも気があったみたいになる。違う。そうじゃない。えー。でも、うーん。


「……卓也、今から私が加南子を殺してきたら、どう思う?」

「え? ちょ、ちょっとやだなぁ、急に変な冗談言わないでよ。もちろん怒るって」

「冗談じゃないんだが」

「……え?」


 冗談じゃないんだが、ってそこで区切って言葉を止めたら本当に冗談じゃないみたいだよ? しかもさっきからマジ顔だし。お姉ちゃんは割と表情かためで、冗談をいう時もそんな感じだと思うけど、やだなー、本気に聞こえるー。


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