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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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市子ちゃんとデート3

「ありがとう、市子ちゃん。ごちそうさまでした」

「どういたしまして。美味しかったね」


 お店を出てすぐにお礼を言う。市子ちゃんは気持ちのいいさわやかな笑顔で応えてくれた。

 どこに行くとも決まってないけど、じっとするのも変なので歩き出しながら口を開く。


「うん。また今度来たら、オムライスも美味しそうだったよね」

「そうだね。今度来たら、またこの店でもいいね。次はどうする?」

「んー、お腹いっぱいになったし、腹ごなしに歩かない?」

「そうだね。人が増えてきたし、一回出て歩こうか」


 レストランエリアは、12時半を過ぎたくらいから急に人が増えてきて、それぞれの店の前の椅子にも待っている人がいる。邪魔にならないようにそのまま出て、ショッピングモール自体から出ることにした。

 外に出ると、急に暑くなる。当然だけど、日差しも強い。誰だ。外に出ようなんて言ったのは。市子ちゃんだ。


「暑いねー」

「うん。あー、海とか行きたいね」

「! いいね!」

「あ、うん」


 言い出してなんだけど、めっちゃ力強く同意されてちょっと引いた。え、なに? と素で思ってから、ああ、水着に反応してるのか、と一拍遅れて気づいた。

 何も考えてなかったけど、でも僕からしても、みんなの水着姿が見れると思うと、いいね! と全力で同意したくなる。言い出しっぺだけども。


「今度行こうよ。あ、もちろんみんなで!」

「いいねぇ。海は無理でも、プールでもいいし。かなちゃんにも相談しよう」

「歩にも声かけておくから。わー、すごいテンション上がってきた!」

「あはは」

「う、ひいた? ごめん、つい」

「いや、ひいてないよ。楽しそうだなって思って」


 もちろん僕も、考えるだけで楽しそうでわくわくするしテンション上がるけど、はしゃいでいる市子ちゃんを見ると微笑ましい気持ちになる。

 そして、この憎らしいほどの太陽の強さも、水遊びを思えばそれほど嫌ではなくなってきた。暑いけど。


「あ、ちなみに今どこに向かってるの?」

「ん? あー、決めてないけど、とりあえず駅前広場に向かってる感じかな? 隣に自然公園もあったけど、距離的にそこまで行くと、往復するとちょっと遠いし、どこでUターンしようか」

「んー、せっかくだし、木陰まで行って休憩しようか」


 まだ歩いて10分も立ってはいないけど、背中を汗がつたってきた。木陰に移動してベンチに座る。駅前広場は、タクシーやバス乗り場もあって、街路樹がぽつぽつあるしベンチも多い。暑いのもあって、あんまり人が多くないから楽に座れた。


「ふー、やっぱり暑いねぇ」

「うん。蝉どこにいるんだろう。結構うるさいね」

「うん。公園からにしたら、それより結構距離近い気がするし、どっかの木にいるね」


 みんみん、と言うよりじーわじーわと低く響くような蝉の声がする。たぶん、街路樹のどれかにいるんだろう。

 夏だなぁ、と実感する。今更だけど、春から夏まで、それだけ時間がたったんだなぁ。あの事故から、凄く早く時間が経った気もするし、とても長かった気もする。

 でもまさか、こんな風になるとは。友達をつくって、かなちゃんと恋人になって、それだけじゃなくて、市子ちゃんと言う愛人志望の子までできるなんて。


「……」


 ちら、と様子を伺う。市子ちゃんの眉間から汗が顎までしたたった。あつっと言いながら市子ちゃんは指先で汗を拭った。

 その仕草はどこかエロティックで、どきっとする。愛人志望、なんて文字を脳内でだしたから、意識してしまった。


 でも、考えたら不思議だなぁ。友達を作って、かなちゃんと恋人まではまぁ、わからないでもない。僕だって昔はかなちゃん以外にも友達はいたし、かなちゃんとだっていい雰囲気だったんだし。

 だけど市子ちゃんが僕を好きで、しかも愛人なんて二番目でいいって言ってくるなんて。確かに、男子は少ない世界だ。でもそれだけでそんなにモテるんだろうか。なんていうか、興味とか単なる性的な目で見られるのはあっても、人間としての要素をいれて恋愛感情を持たれるのは、想像していなかった。


「ん? あ、ごめん、暇? えっと、なに話そうか」

「ふふ。無理に話さなくても、いつも通りでいいよ。四人の時だって、無言になる時あるじゃない」


 もっと全然知らない人とだと、無言になると間が気になってしまったり、相手が気分を害してないかとか、気になってしまう。でも四人での時間に慣れると、もうそんなことはなくなった。思えば、かなちゃんと二人の時は普通に二人が無言何ていつものことだった。

 ある程度仲良くなれば、無言だって気にならない。きっと相手が怒ってないって自信を持てるから、気にならないんだ。


「そ、それはそうだけどさ。うん。へへ。つい、さ」


 今までは市子ちゃんもそうだったのに、今日は初デートってことを意識しすぎているらしい。じゃあ何か、話題を振ってみよう。ちょうど、近くに人も少ない。思い切って、デートらしいこと、かはともかく、恋愛っぽいことを振ってみようかな。


「ねぇ市子ちゃん、僕のこと、いつから気にしてくれたのかとか、聞いていい?」

「え? 全然いいけど、いつからって言うか……最初から?」

「えっ!?」


 とりあえず軽いところから、と思ったのに、予想外の返答に驚いてしまう。本当は、僕のどこを好きになったのかって聞きたくなった。だって、僕ってそんな男として魅力があるかって言うとそうでもない。自覚したけど、頭もそんなよくないし、女の子に比べて力もないし、特技とか思いつかないくらいだし。

 でもその本題の前に、結構な爆弾だ。え、だって、最初から? 最初から僕のこと異性として意識してたってこと?


「え? そ、そんな驚く事?」

「え、う、うん……だって、普通に友達だと思ってたし……うーん、何ていうか、今となっては嬉しい気もするけど、その、最初の友達ができたと思って喜んでたから」


 こっちは友達ができた! と思っていたのに、向こうは恋愛感情系で見ていたのか。何というか、とても微妙な気持ちだ。

 まあ普通に、お互いが全く同じ気持ちってことはないし、片方は友達でも片方は知り合いレベルってこともあることを考えたら、恋愛系の方がマシか? うーん。どうだろう。初対面で興味持たれてないとか、マイナス印象よりは、間違いなくマシだろうけども。


「え、えっと、そのぉ……べ、別にそんな、最初からめっちゃがつがつしていたわけじゃないよ? 私別に、男の子なら誰でも恋愛感情持つわけじゃないし」


 うーん、まあ、そういう事なら。男だってだけで意識されたなら、よりうーんって感じだけど、まぁ僕だからって言うなら、まぁ。

 眼をそらして気まずそうに、右手人差し指を意味もなく立てて折りながら言われて、いかにも誤魔化してますと言いたげな感じだけど、まあ、見なかったことにしよう。


 でも、何というか、結構突っ込んだ恥ずかしいことを聞いてしまった。でもまあ、ここまで来たら、こうなったら気になることは聞いてしまおう。


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