表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
85/149

市子ちゃんとデート2

 市子ちゃんは犬か猫なら猫派、好きな音楽はロック系、好きな色は黄色系、などなど、いろんなことを、今日一日で知った。

 今まで一緒に居て、会話の流れで知っていったこともある。だけどこうして、改めて聞くと知らないことが多いと自覚させられる。


 こんな風に誰かのプロフィールを聞くのは、初めてだ。もちろん自己紹介で多少言い合うことはあっても、好きな色とか小学生のプロフィール帳に書くみたいなことを言った記憶はない。

 それが新鮮で、少し楽しかった。かなちゃんとは小さい頃からずっと一緒で、改めて何かを聞いたりってあんまりなかった。その違いが、何故だが妙にわくわくした。なんだろう、この感じ。


 歩きながら話すと、喉が渇く。自然と僕らは手近な喫茶店に入ってたくさん話した。最初はぎこちなかったところもあったけど、話していくと慣れてきて、スムーズに話せるようになった。


「それじゃあ、あ、卓也君、もうないね。お代わり頼む?」

「あ、うん。そうだね」

「ちょうどいいし、私も頼もう。何がいい?」

「もう一回メニュー見ようか」


 市子ちゃんとメニューを半分こするように見る。今飲んでいるのはオレンジジュースだけど、マンゴージュースもおいしそうだなぁ。

 喉の渇きで入った店なので、飲み物しか注文していなかった。でもこうしてみると、ケーキも美味しそう。でも、時間が中途半端だ。10時に待ち合わせて、11時前にはお店に入っていた。今は半少し前だ。

 おやつを食べるには昼食が近いし、かと言って軽食で済ませてしまうのも、なんだかもったいない気がする。


 う。見ているとお腹が減ってきた。考えたら緊張していたし、余計に体力使ったのかもしれない。


「ねぇ、結構お腹空かない?」

「え、あ、そう言えばそろそろそんな時間か。ごめん、気づかなくて。お店変えよっか」

「うん。そうしてくれると嬉しい」


 割りと直球のお願いになってしまって、地味に恥ずかしい。お腹が減るくらい、恥ずかしいことじゃないはずなのに、何故か妙にそんな感じがして、僕はそっとお腹を押さえた。

 お店を出て、他の料理店を見て回る。会計時、市子ちゃんは何だか勢いよくレジに行って財布をだしていたので、店員さんの前だし無粋なことは言わずにおいた。後でまとめて精算すればいいか。かなちゃんとのデートで、少しは僕も学んだのだ。


 さて、昼食か。この辺りには何度も来てるし、何度か食事をしたことはあるけど、まだ全店まわったわけでもない。悩む。


「何食べたい?」

「うーん。市子ちゃんの食べたいものでいいよ」


 お腹が空いていると、何でも美味しそうに見える。ぱっと思い付くのはやっぱりラーメンだけど、初デートでラーメンはどうだろう、と思うくらいには僕にだって分別はある。

 個人的には、ラーメンを美味しそうにずるずる食べる女の子って好印象だけど、女の子からしたらなしだってくらいはわかる。あれ? でもこっちだとそうでもないのか? まぁいいか。


「じゃあ、あの店でいい?」


 市子ちゃんは先にあるお店を指さして伺うように言った。レストランフロアの角にあって、通路に面したオープンカフェ風の作りになっている、洋食屋だ。近寄ってメニュー表を見るとお皿の大きさに対して割とボリューム感があるけど、サラダ多めでオシャレ感のあるお店だ。食欲的にはそんなに惹かれないけど、デート感は強い。


「うん、いいと思うよ」


 まあ洋食だし、ハンバーグとか美味しそうだしいいか。


「じゃ、はいろう」


 中に入る。休日だけど、早めだからか余裕で入れた。奥に通された。通路に面していて、外から丸見えの人口生垣越しで、ちょっと恥ずかしい。


「何食べる?」

「ハンバーグかなぁ。市子ちゃんは?」

「私もハンバーグが気になってるんだ。ソースがすごいよさそうだよね」

「このピンクのね。僕はどうしようかな。やっぱり定番のデミグラスかなぁ」

「大葉おろしもあっさりして美味しそうだね」

「そうだね」


 でも正直、ハンバーグって言うお肉を食べるのに、さっぱりさせてどうするのは、それこそさっぱりわからない。せっかくのお肉なんだから、肉汁感じた方がいいに決まってる。どこの誰が、おろしだのポン酢だのをかけようなんて考えたんだ? あ、チーズを考えた人は天才だけど。


「でも、そのピンクのは気になるな」

「半分こする?」

「いいの?」

「うん」


 注文して、運ばれてきたのを半分こして食べあう。美味しい。ピンクのはよくわかんないけど、酸味がある。悪くない。

 ついでにデザートも半分こした。ランチセットでシフォンケーキが選べる。メープルと抹茶にしてわけあう。うん。やっぱりメープルが大勝利と言うことがわかった。美味しい。


「あ、市子ちゃん、ちょっといい?」

「え? なに? 内緒話?」


 食べ終わったところで、そろそろ会計となりそうだったので、先に話を通しておくことにする。何にも言わないで奢られっぱなしだと、それはそれで市子ちゃん中で僕の印象悪くなっても嫌だし。

 周りに聞こえて市子ちゃんの甲斐性が疑われても嫌なので、小声で言うと、市子ちゃんは楽しそうに顔を寄せてきた。

 その距離の思わぬ近さと、普段慣れないいい匂いがして、思わずドキッとする。


「お会計だけど、僕としても出すつもりなんだけど、どうする? さっきのお店で出してもらったし、ここは僕が出してもいいんだけど」

「えっ。な、そ、そんなのいいのにっ。デート代は女が出すものだよ」

「まあ、そんな風に思ってくれてるんだろうな、とは思ってたよ? でもね、別に今日デートして終わりって訳じゃないでしょ? これからも、何回もデートするのに、毎回全部奢られてたら、こっちこそ気をつかうんだよね。だから、次回は僕が出すとか、そういうのにしてくれるなら、僕も気持ちよく今日一日奢ってもらえるんだけど」


 かなちゃんとの時は、今まで散々2人で出かけてたからこそ、デートだからって勝手がつかめなくて、揉めたりして話がまとまらなかったけど、今日はスムーズに気持ちを話せた。いい感じだ。

 僕の説明には市子ちゃんも納得するところがあったようで、さっきみたいに勢いよく否定しようとせず、うーんと頭をかいた。


「そういう風に言われたら、その……まあ、嬉しいけど。んー、まあ、次は次に考えるってことで、今日はその、は、初デートなんだし、顔をたてさせてよ」

「ん。わかった」


 次に考えるってのは、少し引っかからなくもないけど。でもまあ、そう言うならそういう事にしておこう。

 かなちゃん相手だと、つい思ったことをそのまますぐに言ってしまうけど、やっぱり市子ちゃんとかだと多少気をつかう分、口にする前に一回考えるな。


 かなちゃん相手にもそうしてあげればよかったけど、まあかなちゃんとのデートがあるから今落ち着いて受け答えできてる面もあるだろうし、いいよね。かなちゃんにはまた別で、お詫びしてあげよう。喜ぶやつ。

 ていうか、結構、かなちゃんの時と比べてるな。自分に関することとはいえ、なんか、あんまりよくないよね。かなちゃんにも目の前の相手だけ見てって言われてるのに。気を引き締めないと!


 市子ちゃんにご馳走になって店をでる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ