市子ちゃんとデート2
市子ちゃんは犬か猫なら猫派、好きな音楽はロック系、好きな色は黄色系、などなど、いろんなことを、今日一日で知った。
今まで一緒に居て、会話の流れで知っていったこともある。だけどこうして、改めて聞くと知らないことが多いと自覚させられる。
こんな風に誰かのプロフィールを聞くのは、初めてだ。もちろん自己紹介で多少言い合うことはあっても、好きな色とか小学生のプロフィール帳に書くみたいなことを言った記憶はない。
それが新鮮で、少し楽しかった。かなちゃんとは小さい頃からずっと一緒で、改めて何かを聞いたりってあんまりなかった。その違いが、何故だが妙にわくわくした。なんだろう、この感じ。
歩きながら話すと、喉が渇く。自然と僕らは手近な喫茶店に入ってたくさん話した。最初はぎこちなかったところもあったけど、話していくと慣れてきて、スムーズに話せるようになった。
「それじゃあ、あ、卓也君、もうないね。お代わり頼む?」
「あ、うん。そうだね」
「ちょうどいいし、私も頼もう。何がいい?」
「もう一回メニュー見ようか」
市子ちゃんとメニューを半分こするように見る。今飲んでいるのはオレンジジュースだけど、マンゴージュースもおいしそうだなぁ。
喉の渇きで入った店なので、飲み物しか注文していなかった。でもこうしてみると、ケーキも美味しそう。でも、時間が中途半端だ。10時に待ち合わせて、11時前にはお店に入っていた。今は半少し前だ。
おやつを食べるには昼食が近いし、かと言って軽食で済ませてしまうのも、なんだかもったいない気がする。
う。見ているとお腹が減ってきた。考えたら緊張していたし、余計に体力使ったのかもしれない。
「ねぇ、結構お腹空かない?」
「え、あ、そう言えばそろそろそんな時間か。ごめん、気づかなくて。お店変えよっか」
「うん。そうしてくれると嬉しい」
割りと直球のお願いになってしまって、地味に恥ずかしい。お腹が減るくらい、恥ずかしいことじゃないはずなのに、何故か妙にそんな感じがして、僕はそっとお腹を押さえた。
お店を出て、他の料理店を見て回る。会計時、市子ちゃんは何だか勢いよくレジに行って財布をだしていたので、店員さんの前だし無粋なことは言わずにおいた。後でまとめて精算すればいいか。かなちゃんとのデートで、少しは僕も学んだのだ。
さて、昼食か。この辺りには何度も来てるし、何度か食事をしたことはあるけど、まだ全店まわったわけでもない。悩む。
「何食べたい?」
「うーん。市子ちゃんの食べたいものでいいよ」
お腹が空いていると、何でも美味しそうに見える。ぱっと思い付くのはやっぱりラーメンだけど、初デートでラーメンはどうだろう、と思うくらいには僕にだって分別はある。
個人的には、ラーメンを美味しそうにずるずる食べる女の子って好印象だけど、女の子からしたらなしだってくらいはわかる。あれ? でもこっちだとそうでもないのか? まぁいいか。
「じゃあ、あの店でいい?」
市子ちゃんは先にあるお店を指さして伺うように言った。レストランフロアの角にあって、通路に面したオープンカフェ風の作りになっている、洋食屋だ。近寄ってメニュー表を見るとお皿の大きさに対して割とボリューム感があるけど、サラダ多めでオシャレ感のあるお店だ。食欲的にはそんなに惹かれないけど、デート感は強い。
「うん、いいと思うよ」
まあ洋食だし、ハンバーグとか美味しそうだしいいか。
「じゃ、はいろう」
中に入る。休日だけど、早めだからか余裕で入れた。奥に通された。通路に面していて、外から丸見えの人口生垣越しで、ちょっと恥ずかしい。
「何食べる?」
「ハンバーグかなぁ。市子ちゃんは?」
「私もハンバーグが気になってるんだ。ソースがすごいよさそうだよね」
「このピンクのね。僕はどうしようかな。やっぱり定番のデミグラスかなぁ」
「大葉おろしもあっさりして美味しそうだね」
「そうだね」
でも正直、ハンバーグって言うお肉を食べるのに、さっぱりさせてどうするのは、それこそさっぱりわからない。せっかくのお肉なんだから、肉汁感じた方がいいに決まってる。どこの誰が、おろしだのポン酢だのをかけようなんて考えたんだ? あ、チーズを考えた人は天才だけど。
「でも、そのピンクのは気になるな」
「半分こする?」
「いいの?」
「うん」
注文して、運ばれてきたのを半分こして食べあう。美味しい。ピンクのはよくわかんないけど、酸味がある。悪くない。
ついでにデザートも半分こした。ランチセットでシフォンケーキが選べる。メープルと抹茶にしてわけあう。うん。やっぱりメープルが大勝利と言うことがわかった。美味しい。
「あ、市子ちゃん、ちょっといい?」
「え? なに? 内緒話?」
食べ終わったところで、そろそろ会計となりそうだったので、先に話を通しておくことにする。何にも言わないで奢られっぱなしだと、それはそれで市子ちゃん中で僕の印象悪くなっても嫌だし。
周りに聞こえて市子ちゃんの甲斐性が疑われても嫌なので、小声で言うと、市子ちゃんは楽しそうに顔を寄せてきた。
その距離の思わぬ近さと、普段慣れないいい匂いがして、思わずドキッとする。
「お会計だけど、僕としても出すつもりなんだけど、どうする? さっきのお店で出してもらったし、ここは僕が出してもいいんだけど」
「えっ。な、そ、そんなのいいのにっ。デート代は女が出すものだよ」
「まあ、そんな風に思ってくれてるんだろうな、とは思ってたよ? でもね、別に今日デートして終わりって訳じゃないでしょ? これからも、何回もデートするのに、毎回全部奢られてたら、こっちこそ気をつかうんだよね。だから、次回は僕が出すとか、そういうのにしてくれるなら、僕も気持ちよく今日一日奢ってもらえるんだけど」
かなちゃんとの時は、今まで散々2人で出かけてたからこそ、デートだからって勝手がつかめなくて、揉めたりして話がまとまらなかったけど、今日はスムーズに気持ちを話せた。いい感じだ。
僕の説明には市子ちゃんも納得するところがあったようで、さっきみたいに勢いよく否定しようとせず、うーんと頭をかいた。
「そういう風に言われたら、その……まあ、嬉しいけど。んー、まあ、次は次に考えるってことで、今日はその、は、初デートなんだし、顔をたてさせてよ」
「ん。わかった」
次に考えるってのは、少し引っかからなくもないけど。でもまあ、そう言うならそういう事にしておこう。
かなちゃん相手だと、つい思ったことをそのまますぐに言ってしまうけど、やっぱり市子ちゃんとかだと多少気をつかう分、口にする前に一回考えるな。
かなちゃん相手にもそうしてあげればよかったけど、まあかなちゃんとのデートがあるから今落ち着いて受け答えできてる面もあるだろうし、いいよね。かなちゃんにはまた別で、お詫びしてあげよう。喜ぶやつ。
ていうか、結構、かなちゃんの時と比べてるな。自分に関することとはいえ、なんか、あんまりよくないよね。かなちゃんにも目の前の相手だけ見てって言われてるのに。気を引き締めないと!
市子ちゃんにご馳走になって店をでる。




