かなちゃんの秘密
「お、お待たせ」
かなちゃんが迎えに来た。ついにかなちゃんの部屋に入る。何だかドキドキしてきた。10分待たされた分、期待値は上がっている。
わくわくしながらかなちゃんについて、家に向かう。かなちゃんの家にはいり、その玄関に懐かしくなる。どちらの僕も、小学校のあれがあるまでは、お互いの部屋に遊びに行ったことがある。それからはかなちゃんの家に行ったことはない。
何故だか、妙に感動した。僕とかなちゃんは、あの頃と同じではいられない。関係もそうだけど、色々と変わっている。だけど、取り戻せることはあるんだ。唐突に、そんな気持ちになった。
「かなちゃんの部屋も久しぶりだね」
子供の頃の部屋は、単なる子供部屋だ。どんなふうに女の子の部屋になっているのか。わくわくするなぁ。女の子の部屋と思えば、わくわくだけじゃなくドキドキもしてくる。ましてかなちゃんだし。
「へ、変に期待してない? ふつーの部屋だからね?」
「期待はしてるけど、がっかりしてもかなちゃんのせいにはしないから、安心して」
「いやー、それ、安心はできないなぁ」
かなちゃんに案内されるような形で部屋へ向かう。
いよいよ、緊張しながらドアを開けたかなちゃんに苦笑しながら、後ろに続く。
「……うーん、何というか、殺風景だね」
寂しい部屋、と言うと言いすぎかもだけど、何の特徴もない部屋だ。記憶にある通りの間取りで、窓があり、ベッドがあり勉強机がありと全く変わってない。机の上は普通に片付いているし、棚には漫画とゲームがあるけど、僕の部屋ほどではなくて、たしなむくらいって感じだ。
特にぬいぐるみもかざってないし、ポスターを張ってたりもしない。タンスにちゃんとしまわれているらしく服も出ていないし、普通にこの部屋だけ見て性別を当てるのは困難なレベル。
全体の色系統も青系で、僕は好きだけど、地味な感じだ。掃除をしたから? こんな個性のない部屋ってある? 恐いくらい無個性。家具屋で仮想子供部屋にされてる部屋みたい。
「まぁ、たくちゃんの部屋で過ごす時間が長いし、基本寝に来るくらいだし」
「えぇ……なんか、引いた。ごめんね。でも最近そんな束縛してなくない?」
「そうだけど、別に、だからって特にやることないし」
「……」
え、やばい。なんかかなちゃんの心の闇を引き出してしまったって言うか……え? 僕のせい? 僕が今まで束縛したせいで、僕がいなきゃ無趣味無個性な人間になってしまったの? 普段僕とゲームや漫画を楽しんでるのはポーズだったの?
「あの、たくちゃん? なんか深刻そうな顔してるけど、とりあえず座ったら? お茶持ってくるし」
「あ、うん。そうだね」
勧められるままベッドに座る。だって他に座ることないし。かなちゃんは部屋を出て行った。
「……うーん」
なんか、計画とかどうでもよくなってきたって言うか、かなちゃんがもう僕の為にしか生きてない感じがして、最近調子に乗ってるのも許してあげるべきかなって気がしてきた。
だってこれ、僕のせいでしょ? だったら、僕もかなちゃんを好きなわけだし、心の狭いこと言ってないで、うけとめてあげようかな。僕のことディスってもしょうがないことしてきたわけだし……ん? いやでも、運動神経とか、そう言うのは関係ないし、元々はかなちゃんが悪いわけだし、うーん。
首を傾げると、その勢いのまま僕は倒れた。すると不意に、ベッドと反対側の棚が目に入り、棚の右下の扉がちょっだけ隙間が空いてることに気が付いた。
こんなことで開いているぞ、なんて注意するほど僕は几帳面じゃない。ていうか何なら、僕の部屋の押し入れは全開のままのこともある。だけど今はぴんときた。
ははぁ、ここに慌てて物を隠したんだな。と。ちょっと開いてるとか、漫画みたいなミスだ。ご都合主義だと叩かれても仕方ないレベルに、思わず笑ってしまう。棚は扉付きと無しが交互に並んでいて、上と左側には漫画数冊が入っているんだけど、よく観察すると不自然にスペースが空いている気がする。
となると、さてはエッチな漫画でも一か所に押し込んで、徐々に開いちゃったのかな?
他の棚もそれぞれ、ぱんぱんにつまってなくてどこかがらんとした印象があるのは、物を抜いているのかもしれない。わくわくしてきた。いいぞう。やっぱりこういうのがないとね。こんなそっけない無個性な部屋じゃ、僕の好奇心は満たされないよ!
「おまたせー、って、たくちゃん!?」
あ、開こうと思って近づいた瞬間に帰ってきた。一歩遅かった? いいや。僕の方が早いね!
と言う訳で、オープン。
「ちょっ……」
「……」
中には、僕の写真が入った写真立てが入っていた。かなちゃんは黙ったままで、動いていないようで止めに来ないので、僕も黙ってその写真たてを取り出す。
奥にもあった。子供の頃の二人の写真だ。取り出す。奥行きの薄い棚なので、もうない。写真たての横はアルバムと背表紙に書いてある薄い冊子があるので、取り出す。胡坐を組んで座り込み、開いてみる。
「お、おお」
思わず。声が出た。これが、かなちゃんのアルバムとか、百羽譲って二人の写真だらけなら何ともない。でも、僕のピン写真がほとんどだった。ていうか、最初のもだけど、子供の頃のじゃなくて普通に成長してて、カメラ目線じゃない。とられた記憶もない。ありていに言って、盗撮写真だった。ちょっとぶれたりボケたりしてるリアルな犯罪風。薄い冊子とは言え、一枚二枚なら出来心とスルーできても、10枚以上はある。
「……かなちゃん、なにか、言うことある?」
「あ、その……た、たくちゃんはやっぱり、写真では表現しきれないほど美人さんだよねぇ」
「は? 本気で言ってる?」
本気でそう思ってたとして、言うことある? って聞いたこの状況で、それ本気で言ってる?
確認すると、かなちゃんはびくっとわかりやすく肩をゆらしてから、スライディングみたいな勢いで僕の隣に座って頭を下げる。
「も……申し訳ない! 出来心だったんです!」
「出来心ねー。ずいぶん最近のもあるみたいだけど」
「つ、つい。あまりにシャッターチャンスだったから」
いや、うん、まぁ
「ふつーにキモイんだけど」
これはさすがに、キモイ。いやそりゃあね、写真撮ろうよなんて言われて素直にうんって言わなかったかもしれないけど。でも例えばなにか記念のある日で言われたなら、前だってなんだかんだ言いつつ写真くらい取ったと思うよ? なのに隠し撮りって。
しかも何が気持ち悪いって、普通に普段の姿をとってるのもだし、しかもアルバムにまとめてるし、しかも隠し撮りしやすいだろうけど寝ている写真が多いし、隠してるってことは本人も後ろめたいわけだし、しかもこんな日常的に手に取れるとこに置いてるってのが、色々と気持ち悪い。
百万歩譲って、今まではとても言い出せなかったとしよう。僕のことが好きすぎるあまり、思いが暴走して盗撮したとしよう。そこまではスルーするとしよう。うん。で、なんで最初の写真たての、思いっきりこの間デートした時のやつだよね? もう付き合ってるじゃん? しかもデートって、普通に言えば写真とらせるじゃん? なんで盗撮するの? もう、そういうのちょっと理解できないんだけど。
頭を半分上げて上目遣いに僕を見返しつつ、かなちゃんはあわあわと口を開け閉めする。
「ご、ごめん。そうだよね。気持ち悪いよね」
「うん。ストーカーじゃん? しかもこれとか、いつとったの? だいたいかなちゃんがカメラつかってるの見たことないんだけど」
「あ、スマホだよ。音がしないようにできるから」
「……」
「あああ、本当にごめんなさい! だって、その、たくちゃんが好きなんだもん! 好きすぎて写真くらい好きにしないと、もう、どうにかなってしまいそうなんだもん!」
「だいぶ、もうどうにかなってるよね」
と辛辣なことを言ってひどく狼狽してきまずそうなかなちゃんを見ながら、冷静になる。気持ち悪いと思ってはいるけど、めっちゃ引いたけど、自分でも驚くほど、かなちゃんへの好意は減っていない。
それどころかむしろ、本当に僕のこと前から大好きだったんだなって、なんかちょっとほだされてしまいそうって言うか。うーん。
いったん、ここは冷静に考えてみよう。




