バドミントン
結局お昼は、高校から近くのラーメン屋に行った。二人からは何故か、え、ラーメン屋でいいの? みたいな反応されたけど、ラーメンは大好きだ。向こうでも、別に女子だってラーメン好きなのに、どうして不思議がられるのか、不思議だ。
「この後、どうする? たくちゃんは希望ある?」
「んー、別にないよー。あ。でも待って、せっかくだし、なんかスポーツしない?」
応援して少し疲れた気になっていたけど、実際には大した運動をしたわけでもない。むしろ、お腹が膨れると、見ていただけじゃ物足りない。運動したくなってきた。バスケ、はちょっと難易度が高いので遠慮するけど。
「スポーツ何て、また無謀なことを」
「かなちゃん、その失礼な口は閉じて。みんなはどう思う?」
スポーツしようって誘うだけで無謀とかどういうこと? かなちゃんのセリフは無視して、二人の意見を伺う。
二人とも、うーんって感じで視線を上にあげて考えてくれる。どうでもいいけど、二人は付き合い長いだけあって、ふとした瞬間にこうして同じ動きをすることがある。面白い。
でももしかして、僕とかなちゃんにもそうした瞬間が、気づいてないだけであるのだとしたら、それは考えるだけで嬉しい。でもそんなの絶対聞けないから、妄想するだけだけどね。
「確かに、見てて結構興奮したし、腹ごなしに軽い運動するのはいいかもね」
「ですねー、でもなにします?」
「うーん、誰でも簡単で、割と体を動かせて、お手軽にできるものだよねぇ。あ、バドミントンはどう? うちに確かワンセットあったし、あれなら公園でできたよね」
「あ、うちもあります。いいですねー、懐かしいです」
おお! バドミントンかぁ、確かにあれなら、子供の頃ピクニックに行った時とかに定番でやった記憶がある。バスケットみたいに大げさな道具はいらないし、場所も選ばない。何というベストチョイス!
「いいね! 確かうちにもあったけど、場所の記憶曖昧だし、わかってるなら、じゃあ二人に借りてもいいかな?」
「全然おっけーですよ。てか、私たちの家の前、どんつきで車の往来基本なくて空いてるんで、余裕でできますよ」
「え、まじで? すごくない?」
「そうそう、子供の頃とか、結構自慢だったんだよね」
どんつきってのはよくわからなかったけど、面白そうなので行くことにした。
二人の家は隣同士ではないけど近所らしい。期待しながら行くと、どうやら二人の家は、ちょっと大きめのアパートの裏手にあって、表通りから裏に入ってさらに曲がって行き止まりの道に面していた。なるほど。家は間違いなく公道に面してるけど、これだとこの町内に用事がある人しか入ってこないから、もう共通の庭みたいなもんじゃん。いいなー!
道路に落書きとか、漫画みたいなことも楽勝でできるじゃん! 羨ましい。いや、さすがに今更やらないけど、子供の時やりたかったなぁ。
「これいいね。安心して遊べるし」
「いいよねー。僕もこの家に生まれたかった」
「え、そこまで!?」
かなちゃんが何故か驚いているけど、スルーして玄関はいってすぐの倉庫にバドミントンがあるとわかっているらしい市子ちゃんの家の前で待つ。
「お待たせ」
すぐに戻ってきた。しかも二組。すごい揃っているし、物持ちがいいんだなぁと感心しながら受け取る。
「ありがとう。市子ちゃん。どういう感じでやろうか。じゃんけんして組み作って、順番に回す?」
「それはいいけど、二組同時にするの? 危ない気がするし、一組ずつでいいんじゃない?」
「あ、じゃあ、一組ずつで審判制にしましょうよ」
「お、歩のくせにいいこと言った。ガチのやつじゃん。じゃ、チョークとってくるわ」
市子ちゃんが再び家に入り、チョークを持ってきた。すると歩ちゃんと二人で、さらっとコートを書いてしまった。す、すごい、早い。めっちゃ手馴れてる。がたがたのアスファルトに、よくそんなさらっとかけるよね。
「だいたいだけどこんな感じでいいかな? どう? 二人から見て、曲がってる? 私ら、だいたいテキトーコート書いてるけど、これでいい?」
振り向いて確認してくる市子ちゃんに、僕は歓声をあげる。
「全然! すごい本格的だね! 燃えてきた!」
「うん、凄いね。私てっきり、ラリーするだけだと思ってたけど、本気だね。わくわくしてきた」
「ふふふ。じゃとりあえずやる順番決めましょうか。じゃんけんでいいですか?」
遠いほうの角まで書き終わった歩ちゃんが駆け足で戻ってきてそう提案する。
「そうだね。一回りして、勝ち星が多い人が優勝ってことで」
「いいですね! あ、ちなみに優勝したら特典何にします?」
お、特典かぁ、なんにも考えてなかったけど、確かにあったほうが張り合いあるよね。どうしようかなと考えていると、かなちゃんが口を開く。
「優勝したら、全員からアイス奢ってもらえるとかでいいんじゃない?」
「熱いし、ちょうどいいんじゃない?」
「私もそれに賛成です」
「うん、いいと思う。じゃあ、じゃんけんしようか」
話がまとまったので、じゃんけんの掛け声をかけた。
○
「よっしゃ、勝ったぁ!」
「くっそ、マジで悔しい」
市子ちゃんと歩ちゃんの最後の試合は、歩ちゃんの勝利で終わった。膝に手をついてくやしがる市子ちゃんに、歩ちゃんは普通に喜んでいる。
「ふふふ。市子ごとき、足元にも及びませんなぁ」
「足元にはいるわ! なんなら頭上にいるわ!」
「し、身長のことは関係ないでしょう!」
「はー? 身長のことなんて言ってませんけどー?」
「わざとらしく敬語遣わないでください。キャラがかぶるじゃないですか!」
歩ちゃんは運動神経がいいよね。他の二人も悪くないけど、歩ちゃんはすばしっこいと言うか、ぬるぬる動く。
それにしても、前からちょいちょい思ってたけど、歩ちゃんってたまに市子ちゃんには敬語抜けるし、生粋の敬語が染みついているんじゃなくてやらせって言うか、わざとやってるんじゃない?
そうだとしたら、市子ちゃんにしか心開いていないのかと思うと、少し寂しい。と思うと同時に、でも僕だってかなちゃんと同じ態度を他の人にはとらないし、そんなものかもしれない。むしろ、結構な人見知りってことで、多少親近感なくもない。
「市子ちゃんの全勝かぁ。すごいね。ちょっと悔しいけど」
「え? たくちゃんは悔しがる段階にはいないでしょ?」
「ねぇ、そんなに僕のことディスって楽しい?」
「え? あ、ごめん。つい」
僕が全敗で、市子ちゃんにはダブルスコアで負けてるからって、そういう事言う必要ある? なんだか、恋人になってからよりディスられている気がするぞ。もしかして、僕に好かれていると確信持ったから、より気安くなってる? うーん、そう考えると許せるような……いや、駄目だな。調子に乗り過ぎ。
次のデートで、ちょっと反省するように促してみようかな。
「とりあえず、アイス買いに行こうか」
気を取り直して、ラケットを片付ける二人に声をかけた。




