バスケの応援
「頑張れー!」
最初は口々にぼそぼそ応援している感じだったけど、試合が白熱してくるにつれて、恥ずかしさより真剣さが勝って、いつのまにか大きな声で応援していた。
「お姉ちゃん頑張れー! そこだー!」
ちょっとゴールには遠いけど、お姉ちゃんがボールを受け取ったので、とりあえず意味はないけどそこだーと言ってみた。
すると聞こえたようで、お姉ちゃんはそこからボールをゴールへ放り込んだ。一度リングにぶつかって跳ねたけど、板に当たって跳ね返り、見事ゴールに入った。わー! すご、すごくない!? えー、ホントに結構離れてたのに、これってスリーポイントってやつじゃない!?
お姉ちゃんは振り向いてぐっと僕に向かって親指をたてた。
お、おおお! か、カッコイイ……実の姉ながらちょっとどきっとした。ていうか、こっちの僕の記憶なかったら惚れてたかもしれない。さすが、お姉ちゃん。
ここから結局負けた、となったらそれはそれで面白かったと言う意地悪な気持ちもあるけど、問題なく進んでお姉ちゃんたちが勝った。もちろん普通におめでたくて嬉しい気持ちもあるので、大きな声で祝ってあげる。
「やったー! お姉ちゃん凄いぞー!」
って、あれ!? え? なんでみんなさっきまで大きい声で応援してたのに、歓声はあげないの? 僕の声だけ妙に浮いて、恥ずかしい……。
「ちょっと、かなちゃんたちは何で声あげないのさっ」
「いや、応援はしている最中にしなきゃ意味はないけど、お祝いは、別に試合は終わったんだから、後で顔合わせて言ったらいいんじゃない?」
……。
気を取り直して、みんなと感想を言い合う。やっぱりみんなにとっても、印象深いのはあのお姉ちゃんの遠距離シュートだったみたいだ。僕にポーズまで決めて、目立ってたもんね。
あれだけ気障な真似なのに、僕から見て様になっていたとは思ってたけど、同性から見ても格好良かったようで評判は上々だった。誇らしい反面、姉と言う身近な存在なのでちょっと対抗心もわいてくる。
かなちゃんの彼氏になったことだし、これからは僕も意識して、格好よくを目指さなきゃ! お姉ちゃんの弟なんだし、できるはずだ。
そうこうしていると、お姉ちゃんたち部員の人がやってきた。近くで見ると、みんな汗すごっ。すごい滴ってる。当たり前か。あれだけこの暑い中を走り回ってたんだもんね。
「お姉ちゃんも、先輩方もお疲れ様です!」
「ああ。応援ありがとう。聞こえたぞ」
「わっ、や、やめてよ」
先頭のお姉ちゃんがにっといい笑顔だけど、僕の頭を乱暴に撫でてきた。恥ずかしいし、汚くない? その手、床を転がるボールをずっと触ってたわけだし。
「詩織ちゃん、それくらいでブラコンアピールはいいから、私からも挨拶していいかな?」
「ブラコンとか言うな。だがまぁ、そうだな。あ、お前らはいいから。忍は部長だからともかく、お前ら平部員に出番ないから、散れ」
横の大森先輩の言葉に、お姉ちゃんは気安くうなずいてから、そっけない感じで周りの他の部員にそう言った。どうやら、別に僕らに声をかけに来てくれたけど、みんなを引き連れて仰々しくする気はなくて、勝手についてきた扱いみたいだ。申し訳ないけど、ほっとする。
知らない人とこの状態で話せって言われても困る。ほぼ先輩だし。とほっとしていると、すかさず他の部員の人たちがショック、みたいにお姉ちゃんに抗議の声を上げた。
「そんな! 詩織先輩、未来の妹候補に冷たいっす!」
「そうです! みんなに平等に機会があるべきです!」
「黙れ。と言うかこいつ、彼女いるから。隣の」
「えっ」
「ええっ!?」
ちょっと不本意そうではあるけど、お姉ちゃんには仮の時にもうめんどくさいから付き合っていると言っておいたので、知ってはいるけど、まさか言うとは思わなくて、めっちゃ驚いた。てかなんでかなちゃんと言い、普通に言うの!? オープン過ぎるでしょ!?
そんなに言いふらされたら、ぎくしゃくしたりしたら気まずくないの!? って思ったけど、でも僕の場合は、絶対別れたくないから、外堀はがちがちに埋まっているくらいがいいのか、な?
「ちょ、ちょっとたくちゃん、だから何でたくちゃんが一番驚くの!? 心臓に悪いんだけど!」
戸惑っている僕に、さっき以上に動揺したようで、かなちゃんが僕の肩を掴んできた。あ、強い強い。揺れる。
「ご、誤解だって、さっきも言ったけど、そういうんじゃなから。普通に言いふらされることに驚いただけだから」
「え? 言ったら駄目だったのか?」
「駄目ってことはないけど、ビックリした」
「そ、そうか。ごめんな?」
「いいよ、別に。でも、もう勝手に言わないでくれると、僕的にはありがたいかも」
「わかった。もう言わない」
「えっと、卓也君、加南子ちゃんも、とりあえず、おめでとう、でいいかな?」
「あ、はい」
「あ、ありがとうございますっ」
初めてストレートに、驚きもなく優しい感じで祝福されたからか、いつになく嬉しそうにかなちゃんは元気よくお礼を言った。
大森先輩の言葉で、何となく空気が変わって、お姉ちゃんが他の部員を追い立てるようにして離れていく。大森先輩は苦笑してから、騒がしくてごめんね、と謝った。
「みんな、男の子に慣れてないから、はしゃいでるんだ。いい子ばかりだから、悪く思わないでね」
「ぜ、全然気にしてないです」
大森先輩は、お姉ちゃんが僕に彼女として紹介しようとしていた人だ。本人にはまだそのことを言っていなかったみたいだし、特にだからどうって話だけど、何となく変に意識してしまう。
「みんなも、応援に来てくれてありがとう。おかげで勝てたよ。一生懸命応援してくれて、感激しちゃった。また、機会があったら是非来てくれると嬉しいな」
前と変わらず、ほんわかした感じで、大森先輩は僕らにお礼を言って、労ってくれた。それからもまだ部活は終わりではないみたいで、僕らは一足先に帰ることにした。
体育館から出ると、日影ではあるけど体育館内ではみんなが白熱したり緊張したりしたからか、廊下の方が涼しく感じた。
「はー、疲れた」
「ですねー、思ってた以上に、見るだけでも結構熱中するし、疲れますね」
市子ちゃんが腕を回して息をつき、歩ちゃんが同意して伸びをした。
「そうだね、一旦食堂で休憩しよっか」
「いいね。でも、夏休みも空いてるの?」
「食堂はしてなくても、席はあるでしょ」
かなちゃんの提案で、僕らは食堂へ移動した。
自動販売機で飲み物を買ってから、適当な席に着く。いつも食堂は人が多いし、滅多に来ることはないけど、さすがに夏休みはほとんど人がいない。お昼時でもないから、余計にだろう。
がらんと広い食堂を独占するのは、なんとなく気分がいい。端で扇風機が近くにある席について、我が物顔で扇風機も独占する。
「あー、涼しい」
「ねー」
「この後、どこでお昼食べます?」
「決めてない。歩とか、みんなは希望ある?」
「私はありません。お二人は?」
「私もないけど、たくちゃんは?」
「そんな期待されても、ないよ」
順番に回ってきたせいで、変に期待した目を全員から向けられたけど、ないよ。
「ないかー」
「あ、てか市子ちゃん、さっき話あるとか言ってなかった?」
「え、あ……ああ、でもまぁ、また今度でいいや。うん」
「え? ああ、まぁ、ならいいけど」
あれ? なんだろう。市子ちゃんがとても挙動不審だ。今までさっきのやり取りを忘れてたみたいだし、大したことない話ならいいんだけど。
花粉症の症状が落ち着くまでお休みします。
何度もすみません。




