初デート4
「やった! 僕の勝ち!」
「あー、でもこれ、勝ち負けあるの?」
「あるでしょ。明確に点数差でしょ」
リズムゲーで僕より明確に低い点をつけたかなちゃんは、往生際悪くそう首を傾げたけど、そうは問屋が卸さないのだ。
しかい、ゲーセン、思った以上に面白いぞ! なんだこれ。いつも家でするゲームでも、大げさに体を使うだけなのに、なんだこれ! 面白い! それに曲数多過ぎ!
「もう一回しよっか!」
「うん、いいよ」
そうして次の人が並ぶまで遊んだ。疲れてたくさん汗をかいてしまったので、どこか喫茶店にでも入ってお茶を飲むことにした。少し遅くなったので、夕飯に差支えないようにしないと。
途中、変な人が絡んできたけど、かなちゃんの前に立って、警察呼びますよって言ったら半笑いでどっか行ってくれた、たすかった。
喫茶店で休憩しながらさっきのゲームセンターでのことを話したりしていると、そろそろ夕方になるので帰ることにした。
「あのホッケー、次こそ負けないからねっ」
「うーん、たくちゃん、パックが一定以上早いとき慌て過ぎだよ。とりあえず腕を振ってればいいと思ってるから、簡単にすり抜けるんだ。ちゃんと見て叩かないと」
お、おお。真面目にアドバイスされた。
えー、かなちゃん、ちゃんと見てやってたんだ。うーん、早いと全然反応できる気がしないから、慌ててしまう。さすがに目をつぶったりはしないけど。壁にぶつかってどこにくるかもよくわからないし。
「かなちゃん、意外とスポーツとかできるんだよね」
スケボーとか、マラソンとかした時も、なんかこう、体力とかセンスとか全然違う感じがする。向こうでは……いやまぁ、元々運動センスがあったわけじゃないし、5年生の時までかなちゃんと駆けっことかしても普通に同程度だった気がする。
「意外って言うか、たくちゃんができなさすぎるだけだよ。たぶん、男子の中でも」
「そして当然のようにデリカシーがないよね」
立場逆だとして僕でも、かなちゃんはできなさすぎるだけだよ、女子の中でも。とかさすがに言わないよ。かなちゃんって僕のこと大好きでビビってる割に、付き合いの長さから完全に舐めててそのあたりの気配りが0すぎるんだけど。
多分かなちゃん、ド天然で何にも考えずに物を言ってるんだろうなぁ。今も、え? みたいな顔してる。え、じゃないよ。できなさすぎるとか平然と言われて、そっかぁみたいな相槌うつと思ってるの?
「マイナス1ポイントだよ」
「え、いつからポイント制なの?」
「今からだよ」
「じゃあ、100点のうち、まだ99点ってことか。よかった」
「すごい、前向き」
ポイント制ってそういう事だっけ。いやまぁ、いいけど。基準点が満点とか、ゆるゆるか。本当、前向きだなぁ。正直、そういうとこ、好きだけど。こんなに前向きだから、引きこもった僕の傍にもいてくれたんだろう。
ずっと昔だってそうだ。いつも明るくて前向きで、何にもなくても笑っているような、少しくらいからかわれたって気にせず笑い飛ばしてくれるような、そんな彼女が、とても好きだった。
今、どうしてか、少しだけ、胸が苦しくなった。かなちゃんと恋人(仮)としてデートしてとても楽しくて、ドキドキするのに、どうしてだろう。だけど同時に、この苦しさも、忘れたくはないと思った。
「あれ? たくちゃん、今何か考え事してる? 変な顔してるけど」
「うーん、ハズレ、とは言わないけど、だからデリカシー」
「えー? 変な顔って言ったから? でも、変な顔って言っても、たくちゃんの場合、元が整いすぎてるから、どんな顔してても、可愛いは可愛いし、そういう意味でけなしているわけじゃないんだよ?」
「……」
じゃないんだよ? じゃない! あー、もう、だからデリカシーないって言ってんのに、何をまたそういう事いうかなぁ、人の話を聞け。ちょっとは言う前に考えて。逆に自分が言われたらどう思う? そんなの、嬉しすぎて恥ずかしすぎて、何も言えないに決まってる! もうだから、そういうところなんだよぉ。
「あれ? たくちゃん、顔……あ、ご、ごめん」
そんでそういう時は発想が働くって言うね。だからもう、そういうとこが、あー、もー、好き。
「かなちゃん」
「はい、すみません」
「何も言ってないのに謝らない」
「はい」
「……言うにしても、もっと、場所とか、考えてよね」
別に、僕だって、そういう事は言われたくない訳じゃない。デリカシーないとは思うけど、そういうところも結局好きなわけだし、褒められて嫌なわけない。でもこんな行動で言われて、顔が赤くなったりすると、恥ずかしいわけで、人に聞かれたらとか思うと余計そうなわけで、だからこう、二人きりの時とか、自分たちの部屋の時とか、そういう風にもう少しだけ考えてほしい。
「え、あ、う、うん。そうだよね、そうする。ごめんね、恥ずかしい思いさせちゃったね」
「ん……まぁ、いいよ。済んだことだし」
照れ隠しに、少しだけ足を早めて、見慣れた角を曲がる。自宅が見えてきた。すると、不思議なもので、急に、あ、もうかなちゃんと別れるんだって気になって、妙に寂しくなった。
家に向かっているんだから、当たり前だし、そんなの毎日のことなのに。僕はそんな気持ちを誤魔化すように、さらに足を早めた。かなちゃんは微笑ましそうな顔で、余裕な顔で僕の隣を並んで歩いた。
「もう着いちゃったね」
「うん」
名残惜しそうな声を出しながら、かなちゃんは僕の正面に回り込んだ。顔を見ると、苦笑するみたいに微笑む。そして少しだけ気まずそうに一度視線を漂わせてから、ゆっくりと口を開く。
「……えっと、今日は楽しかった。デートできて、嬉しかった。たくちゃんも、楽しんでくれた?」
「楽しかったけど……、そんな、締めようとしなくていいよ」
帰ろうかって、解散前提の宣言でここまで戻ってきたのに、かなちゃんの今日の感想なんて、あからさまにデートを締めくくろうとする言葉に、思わずそう否定するように言ってしまった。
思わず口元を隠すように右手をあげるけど、手の甲が口元を過ぎる前にとめて、視線をそらして、何気なく右手で軽くかなちゃんの視線を防ぎながら続ける。
「その、まだ、ちょっと早いし、上がって行ったら?」
「え、あ、いいの? えっと、じゃあ……お邪魔します」
言ってからちらっとかなちゃんを見ると、驚いたようだったけど、すぐに嬉しそうにはにかんで、少し照れたように赤くなりながらもそう頷いた。
僕はかなちゃんを部屋に招いた。
お茶を用意してから先に通したかなちゃんを追って部屋に入ると、がちゃと足先をひっかけるようにしめたドアの音が妙に大きく聞こえた。
いつもの場所に座るかなちゃんの姿が、ただデートしていると言うだけで、何故か特別なかなちゃんに見えて、僕は唾を呑み込みながら、そっとお盆を置いて席に着いた。




