初デート1
お昼をすませてから、いくつかさらに店をぶらぶらしてから、家に帰った。買ったものを実際に身に着けて、家にあるシャツも組み合わせて問題ないかをかなちゃんにチェックしてもらった。
これで次のデートはばっちりだ。デートの予定も決めた。今度こそ完璧だ。
「これで、デートも大丈夫だね」
「うん、でもそんなに気を張らなくても、私としては今日のも十分デートだったと思うんだけど」
「ダメダメ。と言うか、今日のはどこもデート要素ないじゃん」
「えー、そうかな?」
「今までとほぼ一緒でしょ」
「ご飯食べたよね」
「食べたけど、ラーメンだし。味はともかく、家と同じです。アウトー」
「意外とたくちゃんって、夢見るタイプだったんだね」
う。そういう言われ方すると恥ずかしいけど、でも、初デートだよ? そりゃこういうのかなとか理想あるでしょ。女の子のかなちゃんの方がむしろ……あー、うーん? まぁ、その辺はあまり気にしてもしょうがないんだし、いいか。
男か女かって気にしてもしょうがない。僕は僕で、かなちゃんはかなちゃんと言うことで考えよう。一辺倒に偏見で男だ女だって見ても、しょうがないもんね。ていうか、僕も元々男らしかったわけじゃない。むしろいじめられて根暗でどっちかと言えば女々しい……うん。これ以上はいけない。
「とにかく、デートは次です」
「う、うん……えへへ、楽しみだね」
にっこりと、何の邪気もない純粋に、嬉しそうな顔で言われた。そんな顔されたら、笑顔を向けられたら、僕だって、すなおになるしかない。
「……うん。楽しみ。へへ」
そうだ。間違いなく、楽しみだ。ていうか、今からドキドキしてきたかも。
「あのね、たくちゃん、私、頑張るから。卓ちゃんに信じてもらえるよう、頑張るから。だから、安心してね」
「あ、うん。でも改めてそう宣言されると逆に不安なんだけど」
今日とかいつも通りだし、何の不安も抱かなかったんだけど。でもなに? 安心してって言わないといけないようなことをするつもりなの?
かなちゃんと距離が空くことはこの流れではないだろうけど、変なことする気じゃないよね? その、あくまで仮だから、キスとかそういうのは全然早いし、無理ですよ?
○
「かなちゃん、お待たせ」
「ううん、全然待ってないよ」
うん、まぁ、知ってる。本当は外で待ち合わせたいところだけど、危ないってことだし、かなちゃんには無理を通せても、お姉ちゃんに知られて怒られても嫌だから、素直に家に迎えに来てもらってる。
なので普通に着替えて待っていて、ピンポンを押した音に反応して、階段を駆け下りてきたところだ。1分もたってない。
「たくちゃん、服、可愛いね。カッコ可愛くて、似合ってる」
「ありがとう」
う。先日かなちゃんに見せて、その時にも褒めてもらってるのに、改めて言われると、照れる。
「かなちゃんも、可愛いよ」
「ありがとう。行こうか」
褒めたのに、全然かなちゃんは照れた様子がない。何だかずるいなって思った。でも、そういうとこ、ちょっとカッコイイ。むむむ。……まあ正直に言うとそういうとこも好きって思うんだけど。でもなんか、ちょっと悔しい気もする。
家を出てあるいて、向かう先は先日と一緒だ。ただ内容は違うけど。やっぱり初デートだし、ちょっとくらい遠出したいけど、だからって土地勘ないほど遠くってのも不安だしね。
コースは無難に、お昼食べて、映画見て、お茶して、夕方には帰ってくる予定だ。
「切符買うからちょっと待ってね」
「うん、ありがと」
買ってきてもらったかなちゃんに、お金を渡そうとすると拒否された。
「デートなんだから、出すよ。と言うか普通に全額出すから、今日はその財布には出番ないから」
「え、ええ、それはさすがに申し訳ないよ」
全額って。女の子としてのメンツがあるってことなら、電車賃くらいは奢られてもいい。会計時にもかなちゃんに払ってもらってから返したりも今までもしてるし、そういうのは全然いい。でも全額って。映画とかお昼とか、合わせたら安い金額ではないでしょ。
「何言ってるの、たくちゃんっ」
やんわりと断ろうとする僕に、かなちゃんは駄目っと勢いよく反論する。
「こんなの、むしろ私は余分にお小遣いあげたいくらいだよっ」
「馬鹿な事言わないでほしいんだけど」
それもうデートじゃないよね? 仮に僕がめっちゃ可愛い女子高生でも、かなちゃんはさえないおじさんじゃないし、料金が発生する間柄じゃないんだから。それはもう、デートをしてるとしても恋人じゃなくて別の関係だ。
これからデートを通して関係を変えていくかもってとこなのに、何でいきなりデートの意味変えちゃうの? もうそれ、目的と手段がごっちゃどころか、目的見失ってるよね?
半目になって、いっそ怒るべきかと悩むん僕に、かなちゃんははっとして一歩下がる。
「ご、ごめん。ちょっと、デートできる感動に目がくらんでいた」
「やめてよ。普通にこれからもしていくつもりなんでしょ? 目標見失ってるよ」
「ありがとう。頑張るから応援してね」
「うん、頑張って」
ん? あれ、今の会話おかしくない?
切符を受け取り財布を片付け、改札を通ってホームに向かいながら、今の会話を考える。
勢いで会話してたけど、かなちゃんは恋人になるのが恐い僕を説得して、恋人になろうとしてるわけで、これからもデートする恋人になるつもりなら頑張ってって言う会話、僕がするのおかしいよね!? 僕はいったいどの立場から物を言っているんだ。
えー、もう、自分でも分かんないんだけど、僕はかなちゃんと恋人になりたいのか。……んんっ、なりたい! なりたいけど恐いって気持ちはやっぱりあるわけで、うん。かなちゃんに頑張ってもらう、と。
はー。自分で思うけど、僕めっちゃめんどくさいな。いやでも、これはもう、しょうがないよ。僕がこんな恐怖心抱えてるのはかなちゃんによるトラウマなんだし、他の女の子ならともかく、かなちゃんならしょうがない。
自分で反省と自己弁護をしていると、電車がきた。
「足元気をつけてね」
「うん」
かなちゃんはいつもこまごまと僕を気遣ってくれる。それはいつものことなんだけど、今日は、口頭で注意するだけじゃなくて、すっと手までだしてきた。
意味が分からなくて一瞬止まる。
「き、気を付けてね」
「う、うん」
1秒ほど顔を見合わせてから、かなちゃんが気まずそうに視線をそらして電車に乗り込んだので、僕も続きながら遅れて気が付く。今の、かなちゃんの手につかまってってことだ!
うわあ、紳士的なエスコートだ! あ、淑女的って言うのかな。まあそれはともかく。いつもはそこまでしないのに、今日デートだからか!
そう思うとより照れるし、すぐ気づかなくて申し訳ない。でも、乗り込む瞬間だけとはいえ、手を繋ぐみたいな形になるし、恥ずかしい。
デートって形で宣言して、ちゃんとした格好で出かけてる時点で、デートだし結構ドキドキしてるのに、そんながっつり態度とか色々変えるつもりだったなんて。
恥ずかしさと、嬉しさと、どきどきと、そのほかにもいろいろと僕の中でぐるぐる回って、うまく話せないまま電車は到着した。




