あくまで前準備
「似合う似合う! すごくいいよ!」
と言われていい気になったので買ってしまった。お値段は3980円。早くも予算を切迫してきたぞ。サンダルも合わせていいのを買いたくなったので、シャツは家にあるのだけでいいか。
売ってるシャツも、なんか丈が長くてちょっといいかもって思ったけど。せっかくだし、スポーツサンダルって言うのが気になる。なんかカッコイイ。
「サンダルも買うんだ。じゃあ私も買おうかな。似たようなので、お揃いにしない?」
「!」
え、お、お揃い? ……心動いてしまった。なにそれ、めっちゃ恋人ポイント高くない? うーん。楽しそうだけど、知り合いに見られたら恥ずかしそう。
「や、やめとく。知り合いにあったら恥ずかしいし」
「……そ、そうだよね。まだ、早いよね」
かなちゃんは残念そうにしつつも諦めてくれたけど、まだってなに? 早いも遅いもないと思うけど。恥ずかしいものは恥ずかしんだけど。あれかな。いずれバカップルみたいになれると思ってるの? ならないからね。なりたくないからね。
「たくちゃん、どれ買うの?」
「これいいかなーって、え」
「え? なに? どうしたの?」
「どうしたって言うか、高」
6000円超えてる。まじで? 革靴とかスニーカーじゃないんだから。サンダルって、生地面積少ないのになんでそんな高いの? 3000円くらいじゃないの?
「あ、ほんとだ。有名なブランドなのかな。でも結構かっこいいね」
「うん……」
予算はぎりぎりだ。ていうか、財布の中にはあるけど、ぎりぎりオーバーだ。うーん。でもここでけちったら、デートが先延ばしになる、か。うーん……買うか。
ていうか、この発想、なんか僕がめちゃくちゃかなちゃんとデートしたいみたいじゃない? ……うーん。そりゃ、したいけど。ていうか好きだしデートするとか、考えるだけでにやけるけど。でも、うう。
普通に恥ずかしいし、あれだけ付き合わないとか言ったくせに、デートを楽しみにしてるとか、なんか言ってる事違うって言うか。後ろめたいって言うか。かなちゃんへの嫌がらせで拒否ったみたいであれじゃん?
「お待たせ」
とりあえず買うけど。
会計をすませてかなちゃんの元へ行く。かなちゃんは近くの棚のレディースのサンダルを見ていた。
「買うの?」
「んー、言われてみれば、私もデートっぽいサンダルって持ってないんだよね。たくちゃんを守れるよう、動きやすい靴ばっかりで、高い靴とかないし」
「高いのはいらないでしょ」
「ん?」
あ、思わず言ったけど、身長気にしてるのわかってしまうかな。ていうか、そう言えば別に男子の背が高いほうがいい、みたいな風潮はそう言えばないのか。こっちの僕は全くこだわっていなかったから、向こうの感覚100%で背が高くなりたい願望が強いけど。
現状、残念なことに僕の方がわずかに背が低いんだよね。と言うか、これ、僕の背は伸びるのかな? これから成長期で伸びると思い込んでたけど、こっちだと男子の成長期っていつなんだろ。
「たくちゃんからして、彼女って、背が高いほうがよくない?」
考え込んでいると、かなちゃんは不思議そうに首を傾げてそんな風に聞いてきた。おや? と言うことは少なくとも、かなちゃん感覚では女子の方が背が高くありたいと思ってるってこと?
「僕は、僕の方が高くなりたいんだけど」
「えぇ? そういうのもいるけど、でも普通彼女の方が高いほうが、たくましいって言うか、頼りがいあるし、見栄えもよくない?」
「かなちゃんは別にたくましくないよね?」
「……だ、だからこそ、背は高くなりたいって言うか」
「うーん。じゃあ、間をとって、今くらいの身長のままでいいか」
「間って。まあ、このままがいいなら、とりあえずヒールは買わないけど。でも、将来的に私の方が背が高くなっても、それはしょうがないからね?」
それは確かにしょうがないんだけど、自分が大きくなる前提で言うなぁ。大きな口を叩いて、背がのびなかったらどうするの? いや、からかうくらいで許してあげるけどさ。
「で、買うの?」
「うーん、そういう事なら、買わなくてもいいかな。じゃ、どうしよっか。お昼でも食べようか」
「そうだね」
「あ、ごめん。荷物持つよ」
「ん? あ、じゃあお願い」
「うん」
自分のものだし、申し訳ないなって気持ちがなくはないけど、やっぱり男より女の方が力が強いし、なにより僕とかなちゃんの関係は完全にそれで固定されてるから、かなちゃん相手だと抵抗なく渡しちゃうんだよね。これで全然他人だったらまた別だけど、かなちゃん相手なので遠慮することはない。
レストランフロアに行き、店を選別する。デートっぽいと言えば、パスタとかオシャレ系のイメージだけど、だからこそ、今はデートじゃないんだから食べれるものを食べたい。ラーメンとか。
「たかはしラーメンでいい?」
「もちろん。たくちゃんラーメン好きだよね」
「うん。かなちゃんも好きでしょ?」
「うん。今まで、一緒に出掛けても外で食べる機会ってあんまりなかったけど、外でもラーメンでいいの?」
今までもかなちゃんと一緒にいることが多かったけど、外では落ち着かないから、休日一緒でも家に帰ったからカップラーメン食べてた。僕は好きだから選んでるけど、かなちゃんも付き合っているだけじゃなくて本当に好きみたいでよかった。
「だからこそ、外でも食べたいんだよね」
カップラーメンって美味しいって思ってたけど、お店のラーメンはまた全然違う。めっちゃおいしい。トンコツとか、臭いだけだと思ってたけど、めっちゃおいしい。
「かなちゃん何味が好き?」
「割と何でも好きだし、カップラーメンではご当地とか期間限定とか新らしいのばっかり食べてたけど、うーん、どれってことはないかな」
「それは僕も同じだけど、だからこそ、今まで色々食べたんだから、その中から一番を決めないと」
「どうして急に真面目なの? ラーメン博士なの?」
「というわけで、入ろうか」
ラーメン店にはいる。割と込んでいる。元々男子が少ない世界だけど、ラーメン店の中は親子連れもいなくて、男子率0%だった。まじか。ちょっとじろじろ見られた。
何にも悪いことはしてないけど、こそこそしながらカウンター席に座る。
「かなちゃんは決めてる?」
「基本を押さえたいから、やっぱりメインの醤油ラーメンかな」
「それこそ通みたいなこと言いだしてるじゃん。僕はトンコツ」
「餃子とか食べる?」
「うーん、半分こしない?」
「だったら、チャーハンも頼んで半分にしない?」
「いいね」
頼んだら思ってた以上に早く来た。さすがラーメン。
「いただきます」
「いただきます」
まずは一口スープを。
「お、美味しい。濃厚だー」
「醤油も美味しいよ」
めっちゃどろってる。たまらなくうま。でもかなちゃんの澄んだスープもおいしそうだ。
「一口スープもらってもいい?」
「うん。私ももらうね」
お互いに蓮華を相手のどんぶりに入れて、一口飲む。あっさりして、まぁ、普通。やっぱり時代はトンコツだよ。トンコツの強烈さがトレンド!
「まぁまぁだね。トンコツの方が美味しいけど」
「トンコツも美味しいけど、量食べるなら醤油の方がやっぱ好きかな」
こやつめ。まぁ、味の好み一緒だと一口もらって比べられないからいいんだけど。




