好きだったんだよね
かなちゃんと目を合わせられない理由を知りたがったから、好きだからだって教えてあげた。だからこれで話はおしまいだ。明日から元に戻るから、今の会話は忘れてって、それだけだ。
「いや、だって、あ、そ、そっか。あのね、たくちゃん、今更だけど、言ってもいい?」
「なにー?」
目をそらしたまま、可能な限りかなちゃんから意識をそらしたくて、特に意味もなく前髪をひっぱっていじりながら返事をする。早く帰って。どうぞ。
「真面目な話だから」
「……何?」
真面目な話らしい。なら、いい加減な態度で聞くわけにはいかない。と言うか、どんな内容か知らないけど、それ今じゃなきゃダメ?
僕がかなちゃんを好きって知られて、恥ずかしくて死にそうで、むしろちょっと泣きそうなくらいの今じゃなきゃダメなの?
しぶしぶ姿勢をただして、かなちゃんの顔を正面から見る。かなちゃんは顔は赤らんでいて、少し半笑いで、僕がどんなにひどい態度をしてもいつも笑っていたのと、同じような顔をしていた。
かなちゃんは、大抵いつも笑っている。嬉しかったり楽しいときだけじゃなくて、真面目な時や困った時も、こんな風に、半笑いだ。それがとても、かなちゃんらしい。
「私は、ずっと前から、たくちゃん、酒井卓也君のことが好きです。ひどいことをして、傷つけて、嫌われても、図々しくもずっと、好きです。こんな私でもよければ、恋人になってください。そして、死ぬまでずっと、一番近くに居させてください」
かなちゃんのほんわかした笑みに見惚れていて、突然の言葉に、すぐ反応できなかった。全く頭に入ってこなくて、一度素通りした言葉を、もう一度脳内再生してから意味を咀嚼する。
えっと、つまり、告白された。ていうかプロポーズされた。僕みたいな誤爆系じゃなくて、真面目に。
「……っ!!? な、なに、いってんの!? 突然すぎるよ!?」
「え、そうかな? 私の方が、突然拒否られたり、突然好きだからとか言われたと思うんだけど」
「ぐっ」
確かに、お姉ちゃんに言われるまで無意識に封じていたから、自分でもかなり突然の変化だと思うけども! でも、そんなかなちゃんが告白する流れでは……あれ? いや、でも、そうか? かなちゃんも僕を好きなら、僕の気持ちが分かった以上、言うのが普通なのか?
ぐっ、やっぱ失敗した! ああ、もう、お姉ちゃんのバカ!
「さ、さっきのはなしにしてっていったじゃん」
「さっきとか、関係ないよ。私の気持ちを言っただけだよ。それじゃ、駄目?」
う、うう。
「だ、駄目じゃないけど……でも僕は、かなちゃんと付き合いたくないよ」
「え!? え、あ、ちょ? え? ……え? あれ?」
え? なんでそんな混乱してるの? 僕、さっきの話なかったことにって言ったじゃん? てことは、かなちゃんと付きあう気はないってわかるでしょ? なのになんで告白したら当然付き合えると思ってたみたいな反応なの? こっちが、え? だよ。
「あのさ、かなちゃん、小学五年の時さ、かなちゃんは僕に告白してくれたよね?」
「え、う、うん……」
「その時、僕は焦らすように断ったけど、ホントはかなちゃんのこと好きだったんだよね」
「え!? そ、そうだったの!?」
「うん……でもさ、結局ああなったわけでしょ? もう僕は、あれを繰り返したくないんだ。もうかなちゃんと仲たがいしたくないし、ずっと一緒に居てほしいんだ。それに、普通に怖かったから、もう嫌だし」
「う、そ、その件に関しては、誠に申し訳なく」
ああ、なんかもう、ドキドキしててんぱっているのもあって、普通に本音をぼろぼろこぼしてしまっている。
「ああ、ごめん、そういうんじゃなくてね。つまり、恋愛感情をいれると、駄目になってしまうから、僕はそれが嫌だから、好きだけど、恋人とかならずに、今のままの大好きな一番大事な友達のままで傍に居てほしいんだ」
「……」
かなちゃんと向かい合っていて、すでに好きなことはばれているので、もう何もかもありのままで正直な気持ちを話した。
かなちゃんのことは、好きだ。うん、もう、認めるしかない。元々すごく好きだった。好きだし、ひどいことをされても嫌いになりきれなかった。それに、僕がちょっとした怪我をした時、大慌てで僕を心配して、おんぶしてくれたことがあった。その時、本当に、改めて好きだなって、自覚したんだ。
でも、今の僕になって、2人の気持ちが混じった。かなちゃんと離れて、距離をとっていた僕はかなちゃんへの好きの気持ちを継続してなんかなかった。ただ後悔と申し訳なさが残っていた。そんな今の僕は、かなちゃんに恋はしてなかった。
だけど、そんな状態から、今の僕はずっとかなちゃんと一緒にいた。泣き合って、笑いあって、助けられて、とにかくずっと一緒にいた。小さなころみたいにずっと一緒に居て、昔みたいにくだらないこともお喋りしたりした。そうして短いけど、時を一緒に過ごした。
そうなってしまえば、やっぱり、僕はかなちゃんを好きになるんだ。僕にとってかなちゃんは、そう言う人なんだ。どうしようもなく大好きで、ずっと一緒に居たくなる。そんな相手なんだ。
だから、好きなのは認める。もうどうしようもない。だけど、もう離れたりこじれたりしたくない。今のこの関係が、一番最高だ。この関係を、変えたくない。そんなの、恐いじゃないか。離れたくないし、傷つきたくないし、傷つけたくないし、だからこのままでいい。このままがいいんだ。
「……たくちゃん、あのね、たくちゃんが本当にそれを望むなら、私はずっと友達として、一生たくちゃんの傍で、ささえようって思ってたんだ。選ばれなくても、罪悪感だけじゃなくて、やっぱり大好きだから、一番じゃなくても、嫌がられない限り傍に居ようって思ってたんだ」
「かなちゃん……」
かなちゃんは、僕が望むままのことを言ってくれた。こんなに都合のいいことがあるだろうか。夢のように、僕が望んだことそのままだ。都合が良すぎて恐いくらいだ。
だけどかなちゃんは、そこで言葉を止めなかった。
「でも、駄目だよ。たくちゃんが、私を選んでくれて、一番だって言ってくれるなら、そんなの、友達じゃあ、我慢できないよ。選ばれてるのに、友達何て、そんなのは、無理だよ」
「っ!」
わ、わかってる! わかってるんだ。だって、あまりに都合がいい。好きだと言って、そのくせ友達のままで、ずっと傍に居ろなんて、土台無理な話だ。僕の妄想だ。むしろ、さっき知るまでそのつもりでいてくれたことに、ビックリした。
それでも、自分勝手なのはわかっていても、期待を持たされただけに、がっかりした。ああ、やっぱりこれで、終わるんだ。僕とかなちゃんの関係は、今まで通りではいられないんだ。
「ねぇ、不安になるのはわかるよ。でも、もう絶対、間違わないから。お願い。何があっても、無理強いはしないから、私と、恋人になってください」
「っ……嫌だよ、だって、恐いんだ。かなちゃんと離れたり、嫌ったりすることが、恐いんだ」
「……酷いことを言うけど、でも、もう元には戻れないよ。だからこそ、傍にいるためには、恋人にしてほしいんだ」
「……」
本当にひどい。だって、かなちゃんがもう僕の気持ちを知った以上、戻れないって言うのはかなちゃんの気持ちだ。だから傍に居たいなら、恋人になるしかないって、もうこんなの、脅しみたいなものだ。
でも、それは僕だって同じだ。僕だって、かなちゃんが僕に罪悪感を持っているってわかっていて、ずっとそばにいてほしいと願っていたんだから。




